音楽ナタリー Power Push - NakamuraEmi × 浜野謙太
もがき続ける2人 “無様な”35歳の生み出す音
NakamuraEmiが3月8日に2ndアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4」をリリースする。
昨年1月にアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST」でメジャーデビューしたNakamura。歌とフロウを行き来するインパクトのある独自のボーカルは多くの人の耳に焼き付き、デビュー作に収録された「YAMABIKO」は全国55のラジオ局でパワープレイを獲得した。
1年2カ月ぶりに発表される今回のオリジナルアルバムには新曲「大人の言うことを聞け」「メジャーデビュー」などを収録。Nakamuraが今感じている思いが、全8曲に詰め込まれた。音楽ナタリーでは今作のリリースに際しNakamuraと、彼女の楽曲のファンである浜野謙太(在日ファンク)を招いて取材を実施した。お互いの生み出す音楽をリスペクトしあう間柄だというNakamuraと浜野。生き方について、音楽制作について語る同い年の2人には、シンパシーを感じる部分が多かったようだ。
取材・文 / 宮内健 撮影 / 相澤心也
NakamuraEmi ニューアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.4」2017年3月8日発売 / 日本コロムビア
収録曲
- Rebirth
- 大人の言うことを聞け
- 晴人
- ボブ・ディラン
- ヒマワリが咲く予定
- ハワイと日本
- めしあがれ
- メジャーデビュー
歌なのにすげえしゃべってるよ
──読者の方には2人のつながりがわからない方も多いと思うんですが、浜野さんはどうしてNakamuraEmiさんを知ったんですか?
浜野謙太 俺がNakamuraさんをちゃんと認識したのは、実は車を運転してるときにTBSラジオから流れてきた歌を聴いたのがきっかけだったんです。曲を聴いて「なんだこの人! すげえしゃべってる!」って思って。
NakamuraEmi あははは。
浜野 「歌なのにすげえしゃべってるよ」って、衝撃を受けて。だけどよくよく思い出してみたら、Nakamuraさんと在日ファンクが同じレーベルで、しかもディレクターも同じ人だったんですよ。
──仕事絡みで教わるよりも、たまたまラジオで聴いたとか、偶然に出会った音楽のほうが印象も強く残りますよね。
浜野 そうなんですよ。初めて聴いたんだけど、Nakamuraさんの歌がパキッと入ってきた。ラジオで聴いて「これ、いい!」って思って聴き出したアーティストはNakamuraさんとBerryz工房ぐらいですよ。僕もメロディに言葉を詰め込んじゃうほうなんですけど、Nakamuraさんの曲は、これだけ言葉を詰め込んでるのに心地よく聴こえるのがすごいなって思う。素朴な疑問だけど「歌ってて疲れないのかな?」って思うんですよ、ブレスとか。そこらへんどうですか?
Nakamura すっごく疲れます。最初歌い慣れるまでは大変だし、とくに朝イチで歌うとクラクラする(笑)。だからライブ前は声を出して滑舌の練習をしてからじゃないと、とてもじゃないけど口が回らないですね。
──でも、そんな大変な歌を自分で作ってるんですもんね。
Nakamura そうですね(笑)。でも私26、7歳くらいまでは、バラードばっかり歌ってたんですよ。ジャズとかヒップホップを全然聴いてなくて、J-POPもヒットチャート入りした曲しか知らないような人だったんです。28歳ぐらいでレゲエやヒップホップを聴くようになって。
浜野 それは何かきっかけがあったんですか?
Nakamura その当時付き合ってた方がヒップホップ大好きで。自分のiPodが壊れちゃって、彼に直してもらったら、中身が全部彼のプレイリストのヒップホップになっちゃって。
浜野 あっはっはっは(笑)。
Nakamura それで初めてヒップホップを聴いたら「超カッコいい」って思って。「こんなに言葉が入るんだ」って衝撃だったんですよね。
浜野 ヒップホップは海外のやつ?
Nakamura いや、最初はRHYMESTERさんやShing02さんを聴いて。言葉がまるでドラムみたいだし、美しいし「なんだこりゃ!?」ってなって、自分のダサさに気付いて……そこから歌詞もそうなんですけど、生き方が変わっていきました。それまでは「好きですー♪」みたいなラブソングを歌っていたんですけど、仕事のことを書くようになっていったし、ラップみたいに「いっぱい言葉を詰め込んでいいんだ、吐き出していいんだ」ってわかってから、それまで自分が持っていた枠みたいなものが一気になくなっていったんです。
ジョギングしながら泣いてるおじさん
──Nakamuraさんは、在日ファンクのことをどのようにして知ったんでしょう?
Nakamura 私は昔から好きな人の曲だけを繰り返し聴くことが多くて、失礼ながら在日ファンクのことを知らなかったんです。だけど、ディレクターから「Emiちゃん絶対好きだと思うよ!」って在日ファンクのCDをもらって。それで聴いたら、すごくハマっちゃって! それからいろいろ調べて、ライブに行ったり。
──在日ファンクのライブを観た感想は?
Nakamura なんかもう今までに観たことがないライブで。ずっとシンガーソングライターの女の子たちと一緒にライブをやってきたので、在日ファンクはショーを観てるみたいでした。ダンスもカッコいいし大笑いできるし、大興奮でしたね。
──浜野さんも、Nakamuraさんのライブを観に行かれたんですよね。そのときの印象は?
浜野 会場にいるみんなが彼女の言葉を聞いてるなって印象を受けましたね。NakamuraEmiの人生みたいなものが、そのライブで味わえるような感覚でした。そんな中でも「YAMABIKO」だけは雰囲気が違って。鬼気迫るというか、迫力がすさまじかったんですよね。最後にドカーン!とこの曲をやって終わるみたいな、ほとばしる感じがありました。
──聞いた話によると、ライブ中に浜野さんが涙していたという。
浜野 泣きましたね。でもね、普通の生活でNakamuraさんの曲を聴いてるときも、何回か泣いてるんですよ(笑)。
Nakamura えーっ! そうなんですか?
浜野 ジョギングをしてるときに音楽を聴くんですけど、走ってる途中でNakamuraさんの曲を聴いて泣きました(笑)。
──どの曲が刺さったんですか?
浜野 えーと……「スケボーマン」(「NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST」収録)ですね。
Nakamura ああ、男性の方はこの曲が好きだってよく言ってくださいますね。
浜野 「守るべき大事な人がいるから、カッコいい大人になろうと思った」みたいな内容でね。Nakamuraさんと僕は同い年なもんで、余計にグッときちゃって。あとはやっぱり「YAMABIKO」。30代っていう年代の焦りを、俺も感じてたときだったので……「お前はお前の山を登れ」みたいなメッセージを聴いて、朝からジョギングしながら泣いてるおじさんっていうね(笑)。
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