音楽ナタリー Power Push - NakamuraEmi

新作「クライマー」が描き出す3人の今

曲を書くことは、自分の話を聞いてもらうこと

──ところでNakamuraさんの曲には生活音が頻繁に採り入れられていますよね。「スケボーマン」ではスケボーのウイールが回っているような音が曲を通して響いているし。あらゆる曲で音楽とはまた別の音が鳴っているというか、その効果が確実にイメージの広がりを生んでいると思うんですよね。

NakamuraEmi

そこに気付いていただけたのはめちゃくちゃうれしいです。レコーディングでもそこをかなり意識してアレンジしたり、音を重ねていったんです。例えば「スケボーマン」ならば、「これだったらスケボーのウイールが回ってる感じがするね」っていうふうにみんなでいろんなパーカッションを鳴らしながら表現していった。そうすることで、私の曲って生活音が大事なアクセントになるんだってことをみんなで理解したんです。

──曲作りを行う上で、インスピレーションを得るものって何がありますか?

映画や本からイメージを得ることもあるけど、そのまま反映させることはないですね。それよりも実際に人と会って感じたことが曲になっていくことが多いです。今はこうやって取材を受けて、頭の中で考えることを口にしていますけど、普段はあまり人にそういうことを伝えたりすることはないんですよ。女子会の席でも誰かの話を聞きながら笑うだけで終わっちゃうことが多いですし(笑)。自分から誰かに主張することがあまりなくて、その分、感じたことを曲に書いちゃうんですね。「次はもっとこうしたいな」って思いとか。

──反省文みたいに(笑)。では曲を書くという行為はNakamuraさんにとって……。

自分の話を聞いてもらうこと、ですかね(笑)。基本ネガティブなんで、書いている最中は、「はあー……」って落ち込んでいるような感じなんですが、そこから必ず解決策を探るようにはしています。これまでいろんな仕事をやってきて、「カッコいいな、あんなふうになりたい」って思う人との出会いもあったから「きっとあの人ならこういうふうにやれるんじゃないか」とか想像を巡らせながら歌詞を書いてみたりする。「いつかああいう女性になれるようにがんばろう!」っていう気持ちが解決策になる。本当に、私の財産は出会ってきた人なんだなって心から思うんです。

──ではこれから先、そういう歌詞の書き方が変わっていく予感ってあったりしますか?

どうなるんでしょうね……。先のことを考えられたらいいんですが、何がしたいのかを考えつつ、今やるべきことを周りにいる人たちとやっていく、というスタンスは変わらないと思います。現状、私の周りには私がこの先について考えることを求める人はいなくて、みんな「お前は自分らしくやってくれ」と思ってくれている。私が大切にすべきことはただただ、今感じたものをそのまま曲に書いていくだけ。でも、自分のコンプレックスがすべて消えることって絶対にないと思うんで、周りに対して「こういうふうになりたい、こういうふうに生きたい」って思ってしまう部分はずっとあり続けるんじゃないかと思います。

「私はNakamuraEmiです」と名乗るしかない

──いろいろとお話を聞いていると、過去の経験はNakamuraさんの今の音楽活動にすごく大きな影響を与えているんですね。

NakamuraEmi

そうですね。仕事をしていなかったらいろんなことを悩んだりしなかったろうし、誰かに憧れることも少なかっただろうし。結婚を本気で考えていたこともあったし、そのために「この職場で一生働いていこう」と考えたこともあったし……。

──そして、今はアーティストであることを自覚しなければいけない立場になったわけですよね。

うーん……なんだか慣れないですね(笑)。アーティストと呼ばれて恥ずかしくない人になりたいです。

──アーティスト、シンガーソングライター、ミュージシャン、この中でいちばんしっくりくる肩書きはどれですか?

……どれもしっくりこない(笑)。「私はNakamuraEmiです」と名乗るしかないというか。「あの曲ってNakamuraっぽいよね」って言われるようなものができるようになったら、それでいいのかなと思いますね。私のやりたいことがきちんと伝わっているってことだから。

──Nakamuraさんが考える理想の音楽の形ってどういうものなんでしょう?

自分の中で一番ガツンと来るのは人間くさい音楽ですね。決してキレイに飾られているわけでもなく、単に人の熱狂を誘うだけのものでもなく、その人の生き様が伝わる真正直な音楽。

──その理想はこの先もブレない?

そうですね。人間くささだけはブレずに表現していきたいです。そう、私がオフィスオーガスタに入ろうと思ったきっかけは、竹原ピストルさんのライブだったんです。私の今のマネージャーが竹原ピストルさんも担当していて、彼のライブに誘ってもらったんです。そのときのステージを観て私は涙が止まらなくなってしまったんですけど、そんな経験初めてだった。すごく男くさい歌を歌っているのに、MCでは泣けてくるほどあったかい話をしていたり、彼の生き様がそのまま出ているようなライブで。「こんな人がいるんだ」って驚いた。これほどに生きているそのまんまを表現できるアーティストがいる事務所だったら、ぜひここでやりたい!って、所属させてもらうことを決めたんです。

──では最後にひとつ。今回はアナログ盤もリリースされます。この作品をアナログで聴いたら絶対に味わいが倍加するだろうなって思うのですが、Nakamuraさんの思いはいかがでしょう。

いやあ、ヤバいですよ。カッティング作業を見学させてもらって、できたてのものを聴かせてもらったんですけど、まるで私が目の前にいて歌っているような感覚があった。CDですべてを再現できるだろうと思っていたのに、私が本当に表現したかった音がそこにあったような気がしたんです。だからアナログで聴くとアルバムの世界観がよりはっきりと浮き出てくるのかなと思います。それから私、自分の作品をDJの人にかけてもらいたいっていう気持ちがすごくあるんです。今はDJ用CDプレーヤーやデータでDJをする人も増えてきていますけど、私の知り合いのDJにはレコードを回す人が多いので、クラブでも歌詞をしっかり聴く音楽として受け入れてもらえたらいいな。もちろん部屋でじっくりと向き合うこともできますし。さまざまな音楽空間を提案できるのがうれしいですね。

NakamuraEmi
メジャーデビューアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST」2016年1月20日発売 / 日本コロムビア
CD 2916円 / COCP-39398
アナログ 4320円 / COJA-9301
収録曲
  1. YAMABIKO
  2. スケボーマン
  3. All My Time
  4. 台風18号
  5. オネガイ
  6. 女子達
  7. プレゼント~繋ぐ~
  8. 使命
  9. 七夕
"NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST"~Release Tour 2016~
  • 2016年5月17日(火)大阪府 Music Club JANUS
  • 2016年5月18日(水)愛知県 Tokuzo
  • 2016年5月25日(水)東京都 UNIT
NakamuraEmi(ナカムラエミ)
 NakamuraEmi

1982年生まれ、神奈川県厚木市出身。2007年に中村絵美としてアーティスト活動を開始。2011年頃、カフェやライブハウスで歌う中で出会ったヒップホップやジャズに影響を受けて、歌とフロウを行き来する現在の独特な歌唱スタイルを確立。NakamuraEmiとして新たに音楽活動を始める。2012年 10月にシングル「NIPPONNO ONNAWO UTAU vol.1」をリリース。翌年にはミニアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU vol.2」を発表する。2014年7月にはAugusta Campにオープニングアクトとして出演。2015年にはミニアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU vol.3」をリリースし、7月に行われたライブでオフィスオーガスタへの所属と日本コロムビアからのメジャーデビューを発表。1月20日にデビュー作となる1stアルバム「NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST」をリリースする。