音楽ナタリー Power Push - 「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」特集
平原綾香がひも解く中島みゆき真の魅力
中島みゆきはマイケル・ジャクソンと重なる
──今回の劇場版「一会」は、ソングライターとしての魅力はもちろん、ボーカリストでパフォーマーでもある中島みゆきさんの魅力も真正面から捉えていますね。同じ歌い手として平原さんはどういったところに惹かれました?
言葉にしてしまうと当たり前ですが、やっぱりテクニックだけでは届かないところにある表現力じゃないでしょうか。声のレンジや声量というのは、トレーニングすればある程度は得られるものだと思うんですね。要は、声帯と全身の筋肉をどう使いこなすかという話なので。もちろんそれは歌い手にとって欠かせない要素ではあります。だけど、すごく高い声を出せたり、難しい節回しをこなせたりしたからといって、聴き手の心を動かせるかというとまったく違う。「一会」の映像を観ていると、改めてそういうことに気付かされるんです。
──単なる技術には還元できない、何か特別なものがあると。
そうですね。リスナーの心の一番深い地点にすっと届く声。その意味で私は、最高のボーカリストだと思っています。ただ、ここは誤解されたくないんですけど、みゆきさんが気持ちだけで歌っているかというと、それも全然違うんです。これも「一会」を拝見して思ったことですが、感情を乗せるために実はいろんなテクニックを使われているのかなと。
──具体的にはどういった部分でしょう?
例えば、ビブラートのかけ方。歌詞の内容に合わせて、一番効果的なところで声が少しだけ震えるよう精密にコントロールされている感じがします。あとは歌われる姿勢がとても美しいこと。みゆきさんって激しいテンポの曲でも背筋がピンと伸びていて、顔の位置がほとんどブレない。これは歌い手にとって、すごく大事なことなんです。その上で額と鼻の間から声を出すやり方や、顎に意識を持ってくるやり方など、曲によってすごく使いわけていらっしゃるんじゃないかな。もちろんご本人に伺ったわけじゃなく、あくまで私個人の印象にすぎないんですけれど……。
──でも、少なくとも平原さんはそう感じたわけですね。曲によってそれぞれ、歌い方が考え抜かれていると。
しかもその努力を、会場のお客さんには微塵も感じさせないところが本物だと思うんです。私も含めて、こういうふうに歌おうって意識が出てしまっているうちは、歌手としては“ひよっ子”なので。そこは私の中でマイケル・ジャクソンと重なるんですよね。
──え? マイケルですか?
はい。変な例えかもしれないけれど、でもマイケルのライブ映像って、歌と踊りの境目がまったくわからないでしょう? あれって意識的か無意識かは別としても、彼の中では精密にコントロールされていた気がするんですよね。今回「一会」の映像を観て、それと近い印象を受けました。歌い手であると同時に、ストーリーテラーであり、演技者でもあるような存在。その全部がパフォーマーの中で自然に統合されているから、例えば語りに近いパートも歌のように感じられますし。もっと言えば、吐息1つが歌になっていく。そういうのが、本当のうまさじゃないかなと思う。
──今回の「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」は、カメラワークもシンプルだし、歌っている中島みゆきさんを真正面から捉えたショットも多い。パフォーマーとしてのすごみを体感するには最適かもしれませんね。
本当にそう思います!
「ピアニシモで歌ってください 大きな声と同じ力で」
──ちなみに、平原さんの個人的な“盛り上がりポイント”を挙げるとするならば?
うーん……いろいろ多すぎて困ってしまうけれど(笑)。まずは6曲目「旅人のうた」。私が初めてみゆきさんの歌声に触れたのは、ドラマ「家なき子2」のテーマ曲でしたので。あのイントロと出だしの歌詞が流れた瞬間、「きたー!」って思っちゃう。曲の後半で、男女混声のコーラスがわーっと入ってくる展開もカッコよくて。思わず拳を突き上げたくなります(笑)。あと3曲目の「ピアニシモ」も大好きです。こういう詞を目にすると、みゆきさんはやっぱり、歌の真髄をわかってらっしゃるんだなって。
──どういうことでしょう?
ピアニシモというのは「すごく小さな音で」という指示記号ですが、この歌詞の中に「ピアニシモで歌ってください 大きな声と同じ力で」というフレーズがあって、すごく共感したんです。本当にそう思うの。大きな声で感情を伝えるのは、ある意味カンタン。でも、聴く人にそっと寄り添うような小さな声で歌うのには、それの何倍もの力が必要とされる。最近、個人的にもそう痛感していたので、さすがだなあと。
──2012年リリースの「常夜灯」というアルバムに収録されている近年の楽曲ですね。中島さんが昔、ある恩人に言われた言葉が歌詞のもとになっているそうです。
へええ、やっぱりいろんなところから物語を紡がれてるんですね。前半、7曲目「あなた恋していないでしょ」なんて、みゆきさんにバシッと言われたみたいでドキッとしましたし(笑)。歌詞に惹かれるという意味では、第2部の「Why & No」も印象的でした。
──今回のツアーでは、かなりロックっぽいアレンジの曲ですね。
そう、ビートが激しくて。日々を生きていくうえで、もっと手抜きせず「なぜ?」とか「やだ!」って言っちゃえばいいじゃん、と。みゆきさんが聴き手を直接励ましてくれるような内容なんですね。その詞の中で「だけど訊いたら機嫌損ねそう ここで訊いたらアタマ悪そうで」みたいな言い回しがポンポン出てくるのが、カッコいい。
──最後のほうで、どんどん加熱していくシャウトっぷりも印象的でした。
ライブ後半で、あんなに声の伸びと密度を保てるのはすごいですよね。最後はみゆきさんが一旦袖に捌けて、コーラス陣が歌を引き取る展開になるでしょう。ああいう転換の妙とか、サポートメンバーとの絆みたいな部分も、観ていてグッとくるんです。あとは、これも後半のクライマックスで、「命の別名」と「麦の唄」。どちらも有名な曲ですが、ドラマチックで感動しました。
──演劇的世界観という意味では、13曲目「阿檀の木の下で」などはいかがでしたか? 白い着物のような衣装を身にまとった中島さんが、どこか琉球民謡にも似た旋律に乗せてゆったり歌う。そこに少しずつ、ヘリコプターや飛行機の爆音が重なっていく。
あの曲のみゆきさん、赤くて細長い布を手にされてるんですよね。それを両手で掲げて、片方をさっと落とす動作を繰り返すでしょう。その印象がとっても鮮烈でしたね。
──赤い布がだんだん戦で流れた血に見えてくる、という人もいるみたいです。
なるほど。そういう解釈も成り立つんですね。いずれにしても、観る人の数だけいろんなイメージを喚起してくれるのが、みゆきさんならではの表現じゃないかなと。
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「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」2017年1月7日東京・新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
2017年1月7日東京・新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。劇場版限定、完全未公開の“リハーサルドキュメンタリー”も同時上映。
全国のHMVでは「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」のB1サイズポスターを先着でプレゼントするキャンペーンを1月15日まで実施中。詳細はキャンペーン公式サイトで確認を。
- ライブBlu-ray / DVD「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016」 / 2016年11月16日発売 / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS
- Blu-ray Disc / 8640円 / YCXW-10010
- DVD / 7560円 / YCBW-10068
収録内容
- もう桟橋に灯りは点らない
- やまねこ
- ピアニシモ
- 六花
- 樹高千丈 落葉帰根
- 旅人のうた
- あなた恋していないでしょ
- ライカM4
- MEGAMI
- ベッドルーム
- 空がある限り
- 友情
- 阿檀の木の下で
- 命の別名
- Why & No
- 流星
- 麦の唄
- 浅い眠り
- 夜行
- ジョークにしないか
- ライブアルバム「中島みゆき Concert『一会』(いちえ)2015~2016‐LIVE SELECTION‐」
- 2016年11月16日発売 / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS / CD / 3000円 / YCCW-10284
収録曲
- やまねこ
- 六花
- 樹高千丈 落葉帰根
- 旅人のうた
- ライカM4
- MEGAMI
- 空がある限り
- 命の別名
- Why & No
- 流星
- 麦の唄
- 浅い眠り
中島みゆき(ナカジマミユキ)
1975年にシングル「アザミ嬢のララバイ」で歌手デビュー。続く2ndシングル「時代」で世界歌謡祭グランプリを受賞する。その後も「わかれうた」「悪女」「誘惑」など数々のヒット曲を産み出し続ける一方で、1979年から1987年までニッポン放送「オールナイトニッポン」のパーソナリティを担当。ラジオでのハイテンションなトークと楽曲イメージとのギャップにより人気に輪をかけた。1989年には脚本・作詞・作曲・歌・主演のすべてを中島が務める舞台「夜会」をスタートさせ、2016年11、12月には第19回となる「夜会VOL.19 橋の下のアルカディア」を開催した。2013年より劇場上映されるようになった「夜会」に続き、2017年にはコンサート映像「一会」もスクリーンに登場する。
- NAKAJIMA MIYUKI OFFICIAL SITE
- YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS CO., LTD. | 中島みゆき
- miyuki_staff (@miyuki_staff) | Twitter
- 中島みゆきの記事まとめ
平原綾香(ヒラハラアヤカ)
1984年東京生まれ。音楽大学在学中の2003年12月に、シングル「Jupiter」でメジャーデビューを果たす。この曲がジワジワとチャート上位に食い込み、結果ミリオンヒットを記録。2004年のオリコン年間シングルチャートのトップ3入りを果たした。その後もフジテレビ系ドラマ「優しい時間」の主題歌「明日」や、NHKのトリノオリンピック放送テーマソング「誓い」などをリリースし、2009年に発表したクラシック曲のカバーアルバム「my Classics!」は「第51回輝く!レコード大賞」で優秀アルバム賞を獲得した。2016年4月には中島みゆきをはじめ、財津和夫、尾崎亜美、玉置浩二、徳永英明、岡本真夜らからの提供曲を収めた9枚目のオリジナルアルバム「LOVE」を発売、同年5月より本作を携えた全国ツアー全36公演を完遂した。2017年1月には「中島みゆきリスペクトライブ2017 歌縁」に出演するほか、5月27日より自身の全国ツアー「平原綾香 CONCERTTOUR 2017」(仮)の開催も決定。また7~8月に帝国劇場で上演されるブロードウェイミュージカル「ビューティフル」ではキャロル・キング役で主演を務める。