音楽ナタリー PowerPush - SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS
岸田繁(くるり)×田向潤監督 “あまのじゃく”MV対談
獅子舞の中の人すごい(岸田)
──「Liberty&Gravity」のMV撮影中で大変だったことはありましたか?
田向 まあ、とにかく時間がかかりましたね。
岸田 曲も長いですし、踊りもあったし。
田向 普通のビデオと違って、たくさん撮ってあとで編集で調整する感じではなくて、わりとワンカットずつの長回しが多かったんですよね。その1回の長回しが成功しないと次にいけないという撮影の仕方だったし、成功率がそんなに高くないんです。たぶん一番撮ったのが岸田さんが獅子舞に入ってるシーン。あれはカメラのズームも難しくて。
岸田 あれは大変でしたね。獅子舞の口から顔を出すんですけど、うまく動かせなくて(笑)。改めてすごいなと思いましたね、獅子舞の中の人って(笑)。ところで田向さんがビデオを撮るときって、編集前提で作られる場合もあるし、今回のビデオみたいにライブ感のある撮り方もしますよね。ワンカットで撮るほうが時間かかるんですか?
田向 うーん。どっちもどっちで、撮影が大変か、編集が大変かの違いですね。今回は撮影中は大変でしたが、編集はそんなに大変じゃなかったんです。撮り終わったときにはもうだいたい編集が終わってたんです。
岸田 うん。撮ってからすぐ完成しましたもんね。情報量が多い作品って編集前提で作っていくじゃないですか。ビデオだけじゃなくて、文章でも音楽でもそういうところがあって。技術も進歩してるし、自分もおじさんになってきたんで、めんどくさくなって「もう編集で調整すればええやん」みたいな感じで仕事してるところがあったんで、今回みたいに緻密でライブ感がある作品を作れて刺激をいただいたというか。
田向 ありがとうございます(笑)。
今までにない感じのものにしなきゃ(田向)
──そもそも田向さんは、くるりのビデオを撮ることになったときってどういう心境でした?
田向 プレッシャーも楽しみも両方ありましたね。もともとくるりのファンだったのでお仕事いただけてすごいうれしかったんですけど、僕が作っていいんだろうかみたいな気持ちもあったし。しかもいただいた曲が今までにない感じのくるりの曲だったので、ビデオも今までのくるりにない感じのものにしなきゃいけないなと思って。コンテが一番大変だったかもしれないですね。どういうふうにしたらいいんだろうなってずっと考えてました。
岸田 僕らのビデオを作ってるときって、ほかの曲のビデオとか観られました?
田向 観ましたね。常にミュージックビデオに限らずいろんなものを資料として観てます。ただ、今回に関してはほかの作品を観てもしょうがない感じもして。何かに似ないほうがいいんだろうなっていうのがありましたね。
──ちなみに岸田さんは田向さんの作品について「非常に音楽的だ」とコメントしていましたが、どんなところが音楽的だと思われたんですか?
岸田 なんか曲のテンポというか、BPMというか、それと絵のスピード感が合ってて。例えば今回のMVで言うとテンポ変わったように聞こえるところで登場する回転台が回る速さとか、「ヨイショッ!」のキメのところに獅子舞が出てきたりとか。一緒に音を出してるような感じのコンテが届いて……田向さん、くるり入りますか?(笑)
田向 いやいやいやそんな! すごいありがたいお言葉をありがとうございます。
岸田 きゃりーちゃんの「ファッションモンスター」は曲自体も好きなんですけど、あのビデオも曲そのものみたいな感じがしたんで。それですごい田向さんの大ファンになったんですよね。
曲に沿いすぎないほうがいい(田向)
──田向さんは、ミュージックビデオを作る際に心がけてることって何かありますか?
田向 先ほども少しお話したんですけど、曲に沿いすぎないほうがいいと思ってて。曲に沿ったビデオはたぶん誰でも作れるので、ちょっと離れたいというか。離れ具合がちょうどよく引っかかるというか、ちょうどいい距離感が出せたらいいなと思っているんです。僕、学生のときに観たくるりさんの「ロックンロール」のMVがすごい好きで。
岸田 あの氷の中で演奏してるやつですね。
田向 そう。あの曲はMVでまず知ったんですけど、あるとき夏に車の中であの曲聴いたときに「これ夏の曲なんじゃないか?」と思ったことがあって。これまでのイメージが覆された瞬間があって、ビックリした記憶があるんですね。
岸田 ヒップホップの曲でお姉ちゃんはべらして、ケンカ強そうな人が集まってイエーとかやってる映像もまあわかるんですけど、MVは曲と逆のものを持ってきたいっていう欲求もあるんですよ。でも、ただ逆にやるだけやとよくわからん感じになるから、それがうまくはまったときはうれしいですね。
田向 難しいんですけどそこを、そういうところを狙っていきたいですよね。
次回のくるりMVは“危険な状況”!?
──お2人はミュージックビデオの役割ってなんだと思いますか?
岸田 別になくても音楽は成り立つもんだとは思うんですけど……僕らにとっては映像も“バンドの一員”みたいな感覚ですね。普段は映像使ってライブしたりはしないんですけど、ちょっとした視覚的な効果で音がきれいに聞こえたりすることとか、音を聴いてるだけやったら感じない感情も湧いてくるじゃないですか。そういう意味でビデオってすごい可能性を持ってるし、あんまり切り離して考えるものじゃないような気がしてます。
田向 ビデオを作る側からすると、ミュージックビデオって曲ありきの2次的な制作物だし、プロモーションとしての役割もある。でもビデオがあることで音の聞こえ方に影響を与えられたら面白いなと思ってますね。
岸田 僕らもビデオでやったことないことをやりたいなと思ってて。新曲ができたら、またぜひ田向さんにMVの監督を依頼したいです。
田向 ぜひ。こういう仕事をしてると、「あの作品を観たから同じような感じでお願いします」っていう話をいただくんですけど、やっぱりやったことないことに挑戦したいんですよね。
岸田 わりと田向さんの作品はスタジオ撮影が多いですよね?
田向 そうですね。だからロケがやりたいですね。
岸田 危険な状況とかでやったりとかね。これからも面白いことをやりたいですね。今後ともよろしくお願いします。
田向 こちらこそぜひお願いします。
Contents Index
- スペースシャワーTV「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」
- 2015年3月15日(日)21:00~22:00
2015年3月21日(土・祝)22:00~23:00(再放送)
2015年3月27日(金)23:00~24:00(再放送) - 2014年にリリースされたミュージックビデオの中から、年間の大賞である「BEST VIDEO OF THE YEAR」のほか、その他の部門賞を受賞アーティストのコメントを交えて発表いたします。
くるり
1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー。2007年9月より野外イベント「京都音楽博覧会」を主催している。2010年に9thアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」、2012年に10thアルバム「坩堝の電圧」をリリース。2014年9月17日に「THE PIER」を発表した。常に革新的なサウンドを提示し続けており、現在は岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。
田向潤(タムカイジュン)
1980年生まれの映像ディレクター / グラフィックデザイナー。中村剛、田中裕介、志賀匠らが所属する映像制作会社CAVIARを経て、2011年8月からフリーランスとして活動している。これまでにきゃりーぱみゅぱみゅ、くるり、RIP SLYMEらの映像作品を手がけている。
2015年3月6日更新