音楽ナタリー PowerPush - SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS
岸田繁(くるり)×田向潤監督 “あまのじゃく”MV対談
くるりの「Liberty&Gravity」(※2014年9月にリリースされたアルバム「THE PIER」収録曲)のミュージックビデオが、今年の「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」年間最優秀作品「BEST VIDEO OF THE YEAR」に決定。これを記念してスペースシャワーTVにて、くるりの3人のインタビューと、岸田繁(Vo, G)とMVの監督を務めた田向潤の対談の模様がオンエアされる。ここでは先日行われた岸田と田向の対談の模様をテキストで紹介する。
これまでに独特の手法できゃりーぱみゅぱみゅ、RIP SLYME、ねごとといったアーティストたちの楽曲を映像化し、それぞれの新しい魅力を引き出してきた田向。「Liberty&Gravity」では、くるりのどんな一面を引き出したのか。2人にMV撮影時のエピソードを軸に、MVに対するこだわりや思いを語ってもらった。
撮影 / 大槻志穂 文・構成 / 中野明子
あ、この人と仕事したいな(岸田)
──岸田さんが、田向さんに「Liberty&Gravity」のMVのディレクションをお願いすることになった経緯はなんだったんでしょう?
岸田繁 僕、きゃりーちゃんの「ファッションモンスター」のビデオがめっちゃ好きで、YouTubeで毎晩のように観てて。そこでお名前は存じ上げてて、「あ、この人と仕事したいな」と思ってたんです。「Liberty&Gravity」の曲ができて、ビデオ作りたいっていう話になったときにすぐ田向さんの名前が出てきたんですよ。で、Twitterを通して相談して。
田向潤 最初岸田さんご本人からTwitterで連絡きたときはめちゃくちゃビックリして。マジか!と思って。「ぜひやらせてください」と返事しました。
岸田 ところで田向さんのTwitterのアイコン、あれはなんですか?
田向 あれは自分の顔をモデリングして、3Dのアイコンにしました。
岸田 あれけっこうイカついやないですか。俺、最初田向さんはああいう見た目の人やと思ってたんですよ。
田向 いやいや、こんな感じですよ(笑)。
岸田 (笑)。それでディレクションをやっていただけるということになって、渋谷のルノアールで打ち合わせして。そのとき僕が適当なことをいろいろ言ったんですよね。
田向 「自分たちじゃなくて女の子が踊ってるみたいなイメージです」とかね。その場でアイデアをお聞きして、そういう方向で進めることを考えつつ、せっかくならくるりの皆さんも最後に踊ったら面白いんじゃないかなっていうの提案させてもらった気がします。
岸田 そやそや。そんときに、陰陽師みたいなそういう人が出てきて……みたいなこととかも言ったんですよね。ああいうふうにまとめてくださるとは思わなかったんで、ホントにうれしかったですね。
田向 いつもビデオの内容を考えるときに曲に寄り添いすぎると面白くないかなと思ったりして、ちょうどよく距離をとることを考えるんですけど、「Liberty&Gravity」は曲がとても特殊でストレートな映像が思い付かなくて。「この曲ってこういう感じ」っていうイメージが全然浮かばなかった。アイデアを考えるのは大変でしたけど、だからこそ楽しかったですね。
岸田 ビデオを作るときって、曲を聴いて色や雰囲気が最初に浮かぶんですか?
田向 作品によりますね。色や雰囲気のイメージが浮かぶ場合と、ストーリーっていうか全体の流れが思い浮かぶ場合とそれぞれあります。ただ今回の場合は、最初に聴いたときに曲の全体像がつかめなくて。いろんな要素が1曲の中に入ってるじゃないですか。
岸田 はい。
田向 だからこそ、そういうことをビデオにできたらなと。ストーリーとか色ではなくて、「何かがギュッと詰まってる」みたいなイメージでビデオにできないかなと思ってましたね。
すっかり踊らされてしまいました(岸田)
──打ち合わせの段階から「ダンス」がテーマとしてあったとのことですが、そのダンスシーンの演出で田向さんがこだわった部分はありますか?
田向 振付の方向性としては、曲と同じようにいろんな要素が入っててほしいなと。かわいらしい要素や、どこの国のダンスなんだかわからない踊りにしてほしいとイメージを伝えて振付をお願いをしましたね。振付はair:manに依頼してます。
岸田 前も1回air:manさんと仕事したことがあったんですけど、踊りのうまい人たちの振付だけじゃなくて、僕らみたいな素人の振付も“キャッチー”にしてくれるんですよね。
田向 そうですね。誰が踊るかっていうのを計算して振り付けてくれてるのですごいんですよ。くるりの皆さんは普段踊らないでしょうけど、皆さんが踊れる振付を付けて、一生懸命踊っている姿をすごく面白く見せている。そこらへんの妙はさすがという感じですね。
岸田 すっかり踊らされてしまいましたね。
田向 (笑)。今回は曲全体を通してくるりの皆さんの周りで女性のダンサーがずっと踊っていて、サビで1回くるりの皆さんが踊ると見せかけて、実際は人形が踊ってるというシーンを登場させたんですね。で、くるりのメンバー踊らないのかと思わせておいて、最後に踊るシーンを入れる構成にこだわりました。
岸田 最後踊るのってやっぱいいですよね。
田向 そうですね。大団円感があって。
岸田 インド映画みたいにね(笑)。
田向監督は冴えてる知能派(岸田)
──岸田さんは撮影中の田向さんの演出方法や仕事の仕方について印象深かったことはありますか?
岸田 田向さんはすごい冴えてはる印象ですね。冴えてる知能派というか頭脳派の印象があります。会う前より会ってからのほうがそういう印象があって。そんなに口数の多い人ちゃうから、基本的にたまに指示を出して撮る感じで。でも指示がすごい的確だし、動きにホンマに無駄がないっていう。
田向 ホントですか?(笑)
岸田 撮影中も現場でアイデアを出していただいたりしたじゃないですか。ビデオの最後のシーンで地球の映像が出てくるんですけど、「京都を光らせようと思うんだけど」って言ってくれて(笑)。
田向 最後にプロジェクションで地球が映る場面で、京都の位置がピカッと光るっていう。あれは現場で考えた演出ですね。
岸田 パパッと作ってくれはって。最初は京都市が光っていたんですけど、「Liberty&Gravity」が入ってるアルバムを作ったのが京都の北部やったんで、現場でGoogle Earthかなんかで位置を調べて北部のほうを光らせてもらって(笑)。あれは面白かったですね。
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Contents Index
- スペースシャワーTV「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」
- 2015年3月15日(日)21:00~22:00
2015年3月21日(土・祝)22:00~23:00(再放送)
2015年3月27日(金)23:00~24:00(再放送) - 2014年にリリースされたミュージックビデオの中から、年間の大賞である「BEST VIDEO OF THE YEAR」のほか、その他の部門賞を受賞アーティストのコメントを交えて発表いたします。
くるり
1996年、立命館大学のサークル仲間の岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B)、森信行(Dr)により結成。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビュー。2007年9月より野外イベント「京都音楽博覧会」を主催している。2010年に9thアルバム「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」、2012年に10thアルバム「坩堝の電圧」をリリース。2014年9月17日に「THE PIER」を発表した。常に革新的なサウンドを提示し続けており、現在は岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。
田向潤(タムカイジュン)
1980年生まれの映像ディレクター / グラフィックデザイナー。中村剛、田中裕介、志賀匠らが所属する映像制作会社CAVIARを経て、2011年8月からフリーランスとして活動している。これまでにきゃりーぱみゅぱみゅ、くるり、RIP SLYMEらの映像作品を手がけている。
2015年3月6日更新