香取慎吾とのコラボやm-floの“loves”シリーズへの参加、さらにNEWSや片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)への楽曲提供など、今年に入ってますます活躍の場を広げている向井太一が、4曲入りの配信作品「Supplement」を完成させた。リード曲となる「僕のままで」は、中島美嘉の「ORION」をはじめ、flumpoolやYUKI、JUJUなどを手がけてきたヒットメーカー・百田留衣との共作。百田のプロデュースにより、向井の新たな顔が覗けるアンセムが誕生した。前作「SAVAGE」の制作時には「暗闇にいた」と話す向井。暗闇の中で彼は何を見つけ出したのか。そして新作タイトルの“サプリメント”とは何を指すのか。前作から今作に至るまでの道のりを多いに語ってもらった。
また特集の最終ページでは、デビュー4周年を迎えた彼が「Supplement」のタイトルにちなんで“元気をチャージする4曲”をセレクト。こちらもインタビューと共に楽しんでもらい、明日の活力にしてほしい。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 須田卓馬
支えてくれる人やファンにとってのサプリ
──今年の元日、Instagramに2020年上半期のスケジュールを投稿していましたが、「Supplement」は当初5月に出すと発表していた作品ですか?
1月の時点ではその予定でしたが、コロナ禍で制作が後ろ倒しになってしまって。ただ、もともと「Supplement」というタイトルやコンセプトは自分の中にあったので、作りたいものは変わってないです。
──今回はどんな作品を目指したんですか?
前作の「SAVAGE」はパーソナルな部分が大きい作品で、自分が感じている悔しさとか憤りとか、ネガティブな感情を吐き出すように作っていたんです。でもリリース後にやったツアーは自分の中で得るものが多くて……言葉にするのは難しいんですが、自分の中にある苦しみや悲しみをちょっと浄化できたというか。ツアーのMCでも言ったんですが、僕の中にある負の感情を曲にして、それをたくさんの人が聴いてくれて、自分のマイナスな部分をファンのみんなが受け入れてくれた気がしました。ネガティブな部分も自分の一部だなって思えたし、たぶん消えることはなくて、常に抱え続けていくものなんだなということにも気付きました。僕はまだデビューして4年ですけど、これからもっとビッグになっても戦い続けていかなきゃならないし、不安な気持ちは形を変えて表れるものなんだろうなって。そういうことを感じられたのも「SAVAGE」をリリースしてよかったことの1つです。周りの支えてくれる人への感謝も再確認できましたし。
──その思いが「Supplement」に向かう原動力となった。
僕を支えてくれる人とかファンの皆さんにサプリメントみたいな感じで音楽を届けられたらなって。必ずしも必要なものではないけど、それを加えることによって、日常に彩りを与えてくれる。そういうものを作りたかったんです。音楽って人生のプラスαの部分だと僕は思っていて。そのプラスαのはみ出した部分が感情や人間性につながると感じているので、それを豊かにするものを僕が音楽で与えたいですね。
「SAVAGE」とは向き合い方が逆
──ということは、音楽への向き合い方が「SAVAGE」と逆なんですね。
確かに、今回は外側に向けてる。「SAVAGE」はめちゃくちゃ内向きだったから制作しているときめっちゃつらくて。常にそういう歌詞ばっかり考えてるから、どんどんどんどん暗くなっていった。
──どんどん自己嫌悪に苛まれていく。
もともと僕はそういう気質を持っているんですよ(笑)。
──デビューの頃から内省的な部分はありましたよね。1stアルバムのタイトルも「BLUE」だし(笑)。
言ってみれば、歌い続けていることは何も変わってなくて。今回も、特にリード曲の「僕のままで」は、「SAVAGE」の精神を持ちつつ、それをもっと上のほう、広いほう、明るいほうに放っている感じなんです。
──その「僕のままで」は、百田留衣さんがプロデュースを手がけています。百田さんとは初のタッグになりますが、正直、意外な組み合わせでした。
自分でも意外でした。百田さんは事務所のスタッフによる提案です。「SAVAGE」でやりたいことをやったから、次は経験のないことに挑戦したくて。自分でも想像がつかない感じが面白いなと思ってオファーさせていただいたんです。
──楽曲制作はどのように進めていったんですか?
最初に曲のコンセプトは決めていて。メロディラインも開けた感じというか、自分の感情を最大限に吐き出せるような曲を作りたいというお願いをしたんです。そこから百田さんがベースになるトラックとメロディを作ってくださって、僕が歌い回しを変えたり、ブリッジ部分を作ったりしていきました。
──この曲にはゴスペルにも似た開放感、高揚感があると思いました。
うん。賛美歌まではいかないけど、差し込む光の中にパッと入っていった感じ。「SAVAGE」のときに自分が暗闇にいたことに気付いたんです。僕は暗いところにいて、目の前に光を見つけた感じ。今回はその光の中に自分が入って行くような感じがあるんですよね。
理想には届いてない
──歌詞には「愛、希望、夢」というすごく前向きな言葉が出てきます。ここまでストレートな言葉遣いは、これまであまりなかったですよね。
百田さんが作ってくださったデモに入ってたんです。かつてジャンルを意識していた頃は、どちらかというと婉曲的な言い回しをしてた。いわゆるおしゃれな表現をしてたんです。でも僕は本来、感情をストレートに相手に伝えるタイプだから、「僕のままで」は自分らしい曲だなと思いましたね。それに夢とか愛とか未来への希望っていうのは僕が大事にしていることでもあるから。最初は百田さんから出た言葉ですけど、すごくしっくりきたんですよね。
──一方、2番の歌詞には「ぐしゃぐしゃの涙」とか「弱いままでいい」とか、自分の弱さを認めるような言葉が出てきます。
その思いを捨てるわけでもなく、乗り越えるわけでもなく、一緒に抱えて進んでいきたいというか。捉え方や感じ方の違いで、マイナスな部分は自分の力にもなり得る。そういう部分を捨てるとか忘れるのは違うと思っていて。今ある苦しみは先に進むための力なんだっていうのを「SAVAGE」のときに学んだんです。
──だからこそ、この曲は聴く人を鼓舞するような、背中を押すような力強さも持っていると思います。
言ってみれば歌詞の1番はきれいごとというか。でも2番になると……特に2番のAメロは自分が抱えていた思いをストレートに歌っているんです。
──「『君ならできる』とかけられた言葉に」という歌詞から始まる部分ですね。
「次に来るのはこのアーティスト!」とか「今年は向井太一が来るぞ!」みたいなことを毎年言われ続けていて。活動規模はちょっとずつ大きくなっているんですけど、僕の理想には届いてないんですよ。そこで1回、「SAVAGE」で病んじゃって(笑)。でも、その捉え方が変わりました。それを乗り越えるというより、僕のままでもいいじゃないかと思って、それをそのまま歌詞に入れたんです。
──「重くなっていく枷を捨てていこう」と歌っていますが、「君ならできる」と言われても、それをプレッシャーとは捉えないようになったということですか?
はい。僕は周囲からどんどん吸収していくタイプなので、周りにいる天才を見るとめちゃくちゃ焦るんですよね。こいつにはかなわねえなっていう新人もたくさん出てくる。それで、僕の強みとか、自分にしかできないことってなんだろう?と去年は特に考えたんです。最初はただ突っ走って、自分のやりたいことをやっていれば、面白く感じてくれる人がいた。でも、このまま走り続けて自分に何が残るのか?みたいなことを考えたらすごく怖くなって。
──他人と比べるほど、自分を否定して自信を失いがちですよね。
そういう自問自答はクリエイティブなことをするうえで必要なのかもしれないけど、今必要なのかなって。自分がまだ何も成し遂げてない状態で誰かと比べて、取り繕った自分を作品に落とし込むのは違うんじゃないかって。ありのままの自分を表現できないんだったら、なんでこの道を選んだんだ?って思うくらいだったから(笑)。そういう考えは今はいらないなと。
──それは雑念だろうと。
まさに。ピュアじゃないなと思ったんです。自分の気持ちを曲にしていくうえで、それは余計なことだろうと。
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