向井太一|日常を彩る4つのサプリ

働く女性を応援

──2曲目「Comin' up」は、軽快なディスコ調のナンバーですね。

これはチョコラBBのCMソングみたいな曲を作ろうというところから始めました(笑)。働く女性に向けて書こうと考えて。今回の作品は、「僕のままで」以外はフィクションっぽくしたくて、ストーリーというか設定を作ってから曲を書きたかったんです。で、僕がよくチョコラBBを飲んでたんですけど、「ちょっとこれをイメージして書いてみるか」と思って。

──だから歌詞に「振り乱す髪」と、女性をイメージさせる言葉が出てくる。

働く女性に向けた応援歌でもあるけど、そんなに暑苦しくない曲にしようと思って。新しいものが舞い降りてくるというか、マインドチェンジみたいなことを歌いたかったんです。

──楽曲のプロデュースは、デビュー時から共作を重ねているCELSIOR COUPEさんですが、どのように制作を進めていったんですか?

今回の4曲を作ることになったとき、彼がトラックを何個か一気に作ってくれたんです。前作のアンビエント色が強いものとか暗めなトラックよりは明るいものを作りたいという方針を事前に伝えていたので、それに合わせて作ってくれて。その中からチョコラBBにマッチするのは、このトラックだろうと(笑)。

──ディスコはディスコでも、パーカッションにあるラテンのテイストが明るさや弾む感じを一層引き出していると思いました。

もともとCELSIOR COUPEがディスコ、ソウルをルーツに持っていて。ただ、まんまやるのは僕もCELSIOR COUPEも好きじゃなくて、それをどう噛み砕いて新しいものにしていくかっていうところが無意識にあったと思います。ラテンビートに関しては、僕が使いがちなレゲエのビートではないものにしようと取り入れましたね。

向井太一

僕が好きなエロ情けない系

──3曲目「Ooh Baby」は、初顔合わせとなるZUKIEさんがサウンドを手がけています。

ZUKIEさんとは、ほかのアーティストに提供する曲を作るときにご一緒したことがあって。今回の「Ooh Baby」はZUKIEさんから送られてきたトラックがもとになっていて、「一緒にやりたくてトラックを作ったんですけど聴いてくれませんか?」と逆アプローチしてきてくださったのがきっかけです。そのトラックに「Ooh Baby」という名前が付いていて、「このタイトル、めっちゃいいじゃん!」と思いながら、イメージを広げて歌詞を書きました。

──スティールパンのようなメタリックな音色の上モノは都会的な雰囲気を感じさせつつ、全体的にウェットな質感のR&Bに仕上がっていますね。

そうですね。ちょっと湿度がある。僕が好きな、エロ情けない系の曲ですね(笑)。

──サラッと聞こえるけど、実はエロい曲だなと。

草食っぽく見せつつガツガツの肉食っていう(笑)。そういう感じはデビュー当初からやり続けていたので、この曲も楽しみながら作りました。わかりやすく言うとキラキラR&B系というか。ギャルっぽい女の子が歌っていてもおかしくないようなトラックだと思うんですけど、どこかジワッとムワッとする。香しい感じを出したいという僕のイメージがあって。最近、90年代とか2000年代初期のJ-R&Bをよく聴き直しているんですけど、当時のJ-R&Bってもっとセクシャルな部分が多かったと思うんです。

──いわゆるベッドソングと呼ばれるような曲が?

そう。それこそFull Of HarmonyさんとかDOUBLEさんとか、もっと生々しい曲を歌ってましたけど、僕はベッドに行く手前の感じ(笑)。なんか不慣れな感じのほうが、歌い続けてきた中で自分らしいなと思うようになって。R&Bをルーツに持ちつつ、先達とは違う自分らしさが出た歌詞だなと思ってます。

報われない恋愛ソングも好き

──ラストの曲「Just Friends」は、友達関係から先に進めないもどかしさを歌ったラブソングですね。

この歌詞は、ずっと手直しを続けて作っていたものなんです。友達に恋心を抱いている主人公がその気持ちを言えないもどかしさというテーマを先に考えていて。それこそ「24」(2016年11月発売のミニアルバム)くらいのときから、「Just Friends」というタイトルもありましたね。ことあるごとに書き直してメロディにハメようとするんだけど、うまくいかないっていうのを繰り返していて。フックの歌詞は当時のままで、最初はもっとメロウなトラックをイメージして書いてたんです。それを今回のトラックにハメてみたらすごくしっくりきて、やっと書き切れました。

──この歌詞は実話をベースにしているんですか?

実話ではないです。デビュー当時から報われない恋愛の曲が書きたくて、ずっと構想を練っていました。

──切ない歌詞ですが、ビートや譜割りがトラップ調のためか、あまりベタッとしてないですよね。

今回の4曲は重すぎないようにしたいというのがあって。「僕のままで」は自分の中では重いテーマですけど、楽曲としては開けている感じがあるし、「Just Friends」も報われない恋愛だから切ないけど、音としては軽く聴けると思うんです。そういうところは作品全体として意識していました。

音楽はジャンクフード? 親友?

──ジャケット写真はどのようなコンセプトで作ったんですか?

「SAVAGE」とつながってるところもあって、体についてる砂のようなものは石膏をイメージしているんです。自分に付いていた殻みたいなものが剥がれてきている。ただ完全に剥がれているわけではなくて、少し殻を残しながらも差し込む光に気付いて、その光源を見上げている。でも、まだ前の場所からは出てはいないということを表現しました。

──「Supplement」の曲のイメージとリンクしますね。ところで、ステイホーム期間中に音楽面でスキルアップしたなと思うことはありますか?

音楽的には正直あまり感じていないです。ただ、映画をものすごく観ていました。以前はあまり観ようとしなかった精神的にダメージが残る作品を観られるようになりました。前は家族のごたごたとか実際にあった悲惨な事件のドキュメンタリーとか、感情移入しすぎちゃうから苦手だったんですけど、友達にオススメの映画とかを聞いてジャンル関係なく観ていたらハマってしまいました。まだアウトプットできてないから使えるかどうかわからないけど、今後、自分の作品に生きそうだなと思ってます。

──去年から今年上半期は、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)さんやNEWSへの楽曲提供、香取慎吾さんとのコラボ、m-flo「tell me tell me」への参加と、外仕事が多角的に増えました。こういった他アーティストとのタッグは今、どのように受け止めていますか?

めっちゃ楽しいです。楽曲提供するときは、相手に歌ってほしい内容を書いているので、自分自身の曲を作る作業とマインドが違う。そこが楽しいんですよね。フィーチャリングも単純にうれしいです。デビュー当初の僕はもの珍しく感じてもらっていたと思うんです。それが一旦落ち着いて、自分の中に価値を見出せない時期もあったんですよ。「SAVAGE」のときは自分に自信がなかったから。でも香取さんやm-floに声をかけていただけて、僕がやってきたことはムダではなかったんだなって。評価してもらえてるんだというのがうれしかったし、これからの励みにもなりました。

──冒頭で、今回の作品を通じて聴く人にサプリメントみたいに音楽を届けられたらと話されましたが、向井さんにとって今、音楽とはどのようなものですか?

常にそばにありすぎて言葉にするのは難しいんですけど、苦しめるものでもあるし、救われるものでもあるなと思います。

──向井さんにとっても音楽はサプリですか?

サプリでもあるけど、もうちょっとマイナスな部分もある。産みの苦しみもありますし……。

──摂り方によっては毒にもなる?

そう。ジャンクフードみたいな(笑)。あとは親友みたいな感じですかね。たまにクソムカつくし、会いたくねえと思うけど、結局会ったら楽しくて、嫌なことを全部忘れてしまう、みたいな。なんで自分は音楽をやるんだろう?と考えたときに、報われたときのプラスがマイナス面をはるかに凌駕するんですよね。プラスになったときに、あの苦しみがあってよかったなと思うから。自分が生きるための糧になっていると思うし、自分自身の存在価値を見出してくれるものだとも思う。でも、いまだに音楽ってどういうものか探している感じです。たぶん一生、その答えは出ないと思うんですけど。