1997年に地元茨城で産声を上げ、今年結成25周年という節目を迎えたMUCC。昨年の秋に逹瑯(Vo)、ミヤ(G)、YUKKE(B)の3人体制となった彼らは、今年に入ってから新作のリリースにライブハウスを舞台にした全国ツアーにと精力的に活動している。
最新アルバム「新世界」のリリースツアーの熱気も冷めやらぬ中、10月には25周年記念企画の一環で2003年発売の「是空」と翌2004年発売の「朽木の灯」の再現ツアーがスタートする。ツアーの開催を控える中、音楽ナタリーではリーダーのミヤにインタビュー。「是空」および「朽木の灯」制作時のバンドの状況、20年近くの時を経て再現ライブを行うに至った真意を聞いた。
取材・文 / 樋口靖幸(音楽と人)
無茶をやることがまだ許される時代だった
──結成25周年企画としてアルバム再現ツアーが開催されるということで、「是空」や「朽木の灯」がリリースされた頃を振り返ってみたいと思います。「是空」は2003年リリースのアルバムで、フルアルバムとしては3作目、その翌年リリースの「朽木の灯」は4作目になります。
「是空」は一応デビューアルバム──といっても俺らはインディーズとメジャーを行ったり来たりしてるんで何をもってデビューなのか曖昧だけど、メジャーから出た最初のアルバムってことで、そこをきっかけにMUCCを知った人は多かったんじゃないかな。
──その前に「痛絶」と「葬ラ謳」という2枚のアルバムを発表していて、どちらも結成20周年のときに新録盤が出ています。
あの2枚は当時クオリティに全然納得していなかったので録り直したかったのと、今のMUCCが演奏したものと当時のMUCCが演奏したものを聴き比べてみたら面白いかなと思ったんですけど、今回は録り直しはしません(笑)。
──「是空」にはどんな思い出がありますか?
作ってるときはみんな必死だったと思いますけど……ああ、とにかくレコーディングがつらかったな。スタジオで毎日朝5時までやってましたね。あと、当時からテープで録音することにこだわってたんですけど、演奏が下手だったんで何箇所もテープをつぎはぎしてたら粉が出てきちゃって。
──テープから?(笑)
そう。で、スタジオの人に「こんなことになるならちゃんと練習してこい!」って怒られて(笑)。
──MUCCに限らず、当時はスタジオにカンヅメ状態になることが当たり前の時代でしたね。
予算もすごいかかってましたよ。最初1000万だった予算が、レコーディングに時間がかかりすぎて最終的に1500万かかったっていう(笑)。1000万予算があっただけでもすごいけど。
──さらにMUCCは新人なのに豪華なスタジオを使ってました。
しかも毎日朝5時まで。延長料金だけでも相当かかってますよ。でもそういう無茶をやることがまだ許される時代だったというか。ウチらもマネージャーも若かったし、それはそれで楽しい思い出。あと、若い頃ってそういう無茶を徹底的にやることで生まれる緊張感みたいなものが音楽に反映されるというか。それは今でも当時のアルバムを聴いて感じますね。
バンドの内情を曲にした「朽木の灯」
──「是空」と「朽木の灯」がその前の2作と違って、メジャー流通だった以外の違いを挙げるとすれば?
「是空」までは初期にやってもらってたエンジニアなんですけど、「朽木の灯」から今もお願いしてるエンジニアさんに代わったことかな。過去の2枚と「是空」はハードコア寄りのサウンドだったんで、「朽木の灯」はもうちょっとクリアな仕上がりにしたくて。でも、自分が好きなBUCK-TICKとかLUNA SEAみたいな音はMUCCに当てはまらないと思ってたんで、そっち系のエンジニアには興味がなくて。
──どちらかというとMUCCはラウド系ですからね。
だから当時「リック・ルービンでやりたい」とか言ってましたよ(笑)。
──Linkin ParkやSlipknotなども手がけたアメリカの音楽プロデューサーですね。
世間知らずのガキでしたね。でもそれぐらいマジでラウドな音楽に対する憧れがあったし、MUCCとしてそういう音楽を世に知らしめたいっていう使命感はありました。
──当時のヴィジュアル系でKornみたいなラウド系のサウンドに接近しているバンドはMUCC以外にいなかったと思います。しかもメロディはフォーク調で歌詞も日本語にこだわるバンドというのは。
誰もやったことがないことをやって「どう?」みたいな気持ちが強かったのかな。で、聴いた人がそこからラウドなものに触れていくのもいいし、そっちに興味がいかなくてもかまわない。そこは「お好きにどうぞ」って感じでした。
──ほかにインディーズ作との違いは?
歌詞ですね。「是空」や「朽木の灯」ではバンドの内情をそのまま歌にしてました。それまではずっと、自分に起こった過去の出来事とか記憶を歌にしてたんですけど。
──リアルタイムで起こっているバンドのことですね。
そう。特に当時の気持ちがリンクしすぎちゃったのが「朽木の灯」で。これ、具体的にあんまり言いたくないけど、とにかくそのときに「嫌だな」と思ってることがそのまま曲になる、みたいな感じだったんですよ。それまでは自分の中にあるトラウマとかを書いてきたんだけど、今バンドで起こっているリアルなこととか気持ちを吐き出すようになって。それってやっぱり作ってても精神的にキツいんですよ。でもその方法でアルバムができちゃったんで(笑)。
──そこが過去作との大きな違いだと。
「朽木の灯」はとにかくキツかったけど、まあどうにか作って、ツアーもやった。でも……今回のツアーでは「朽木の灯」の中で「この曲だけは絶対やらない」って決めてる曲があります。それは封印です。
──“絶対やらない曲”は今のミヤさんから見てどんな曲ですか?
あれはもう……音楽じゃないですよ(笑)。とある団体の中で起こった問題と、それにまつわる個人的な感情。それを曲にしてアルバムに入れた当時の自分、どうかしてるんじゃないか?って今なら思うけど、あの時はそうすることが自分が影響を受けてきた音楽──Kornとかそういうバンドのリアルなんだと思ってたんで。
──Kornのジョナサンも親に虐待されたことを泣きながら歌ってました。
それが音楽だと思ってたから。けど、あんなことを続けてたら心が折れて死んじゃう、と思ったんですよ。だからもう封印です。当時ライブでその曲を音楽として受け入れてくれた人がいたことはすごくありがたかったけど、今の自分の中ではあれはもう音楽のようで音楽じゃないですね。
次のページ »
置き去りにした音楽を今のMUCCが紐解く