MUCCが11月5日にニューシングル「GONER / WORLD」をリリースする。
YUKKE(B)の誕生日に発表される本作は、SATOち(Dr)脱退後初の作品。表題曲「GONER」「WORLD」はそれぞれサウンドのタイプは異なるが、いずれもターニングポイントを迎えたMUCCの現在のモードが強く刻まれている。
ライブツアー「MUCC TOUR 202X 惡-The brightness WORLD is GONER」の開催も目前に控えているMUCC。シングル「GONER / WORLD」をフックにしながら、3人体制となったバンドの現状について逹瑯(Vo)、ミヤ(G)、YUKKEに聞いた。
取材・文 / 森朋之
最後は笑顔で旅立っていったSATOち
──まずは10月3日に茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館で行われた全国ツアー(「MUCC TOUR 202X 惡-The brightness world」の最終公演について。SATOちさん(Dr)在籍時の最後のライブでしたが、本当に素晴らしかったです(参照:SATOちが始まりの地で迎えた勇退の日、涙のラストステージで「マジでMUCCに入れてよかった」)。
逹瑯(Vo) ありがとうございます。いいライブでしたよね。
──本当に。振り返ってみて、メンバーの皆さんにとってどんなライブになりましたか?
逹瑯 「本当に開催できるのか?」という感じだったんですよ。緊急事態宣言が明けるのか延長されるのかが直前までわからなかったし、スタッフとのやり取りの中で、「最悪の場合、中止の可能性もある」という言葉も出ていたので。ギリギリのところだったんですけど、なんとか開催できて、いい感じで終われました。
ミヤ(G) 中止になったときの対応についても考えてましたからね。お客さんを入れられない場合、同じ会場で配信ライブができるのかを検証したり、ほかの場所から配信する想定もして。最悪、SATOちの最後のライブをやれないまま終わってしまう可能性もあったので、そうならないように祈るしかなかった状況だったんだけど、しっかりやり切ることができたのはよかったです。まさか何度も延期するとは思わなかったですけど。
──当初の予定より5カ月延びてますからね。YUKKEさんはどうですか?
YUKKE(B) 初日はいつも通り、わりとフラットに楽しんでやれたんですよ。でも、2日目は1曲1曲演奏するたびに、「まだ知らない感情があったんだな」と。曲ごとに思い出すことがあったし、24年もバンドをやって、たくさん曲を作ってきたからこそ味わえる感覚だなって。
──ライブ中にグッとくる瞬間もあったのでは?
逹瑯 そうですね。例えば「パノラマ」という曲は、仲間のバンドが解散するときに“贈る言葉”みたいな感じで書いた曲なんですよ。それがブーメランみたいに自分たちに返ってくるなんて思ってもみなかった。
YUKKE うん。「パノラマ」は曲が終わる瞬間、「これを胸に刻んでおこう」みたいな気持ちになりました。SATOちは普段、ライブ中にこっちのほうを見てくれなかったんですよ。ドラムを叩くことに必死で余裕がなかったんだと思うけど、あの日は気持ちも振り切れていたのか、けっこう目を合わせてくれて。そのたびにいろんな表情が見られたのも面白かったです。
──ミヤさんはMCの中で、「3人ともSATOちのほうを見ている瞬間があった」と言ってましたね。
ミヤ はい。テーマ的に外側に向けて発信する楽曲でも、あの日は全員がSATOちを見ている場面があって。あと、歌詞が(SATOちの脱退と)リンクしちゃうんですよね。「パノラマ」も「アルファ」も、もともとはまったく別のことを歌っているのに、どうしても重なってしまって。
──笑顔で前向きに送り出せたという手応えもあったのでは?
逹瑯 そうですね。SATOちはしんどそうな時期もずっとあったし、「もうダメだ」と思ってバンドを離脱したと思うんですよ。でも、なぜか楽しかった思い出のほうが残ってたりするんですよね。人間の脳はよくできているのか、つらいことやきついことがあっても、結果、思い出が美化されて「まあ、あれはあれで楽しかったな」って思ったりするじゃないですか。その中でもとびきり楽しかった思い出と一緒にSATOちを送り出せたんじゃないかなって。
──YUKKEさんはリズムセクションとして長い時間をSATOちさんと過ごしてきて、今、SATOちさんに対してはどんな思いがありますか?
YUKKE 大変だったことも多いし、SATOちがドラマーとして苦労しているところを一番近くで見て、いろんな話をしてきましたからね。確かにしんどそうな顔をしていることも多かったけど、最後は笑顔で旅立ってくれて。
逹瑯 旅立ったって、死んだみてえだな(笑)。
YUKKE (笑)。そういう顔が見れたのはよかったと思います。延期が重なりましたけど、そのおかげでやれたこともあるだろうし、ある意味で必然だったのかなと。
ミヤ 「楽しく終われたらいいな」という気持ちはありましたね。もともと楽しい気持ちから始まったバンドだし、今回の脱退も別に仲違いしたわけではないので。お互いに前向きに進んでいくための決断なので、しんみりしてもしょうがないですから。
──最後はメンバー、バンド仲間と一緒に「MUCC体操特別版」ですからね。
ミヤ それも急に思いついたことなんですけどね。よかったんじゃないですか。
YUKKE みんなの笑顔に囲まれて、SATOちらしい終わり方だったと思います。ファンが見たい場面もたくさん作れたんじゃないかな。アンコールで逹瑯の誕生日も4人で祝えたし。
結果的にこの形が一番よかった
──ライブの翌日には早くも新体制初のニューシングルの発売とツアーを発表、とすぐにアクションを起こしたのはどうしてなんですか?
ミヤ 最初から「すぐに動き出そう」と決めていたわけではないんです。当初の予定ではツアーが5月に終わるはずだったので、少し間を空けて、ウチらもお客さんもクールダウンしてから動き出そうと思っていた。でも、延期を繰り返す中で、いろいろと整理できたし、次の活動の準備もできて。お客さんの中には「すぐ発表してくれてよかった」という人もいるし、「急すぎてビックリした」という人もいるけど、結果的にこの形が一番よかったと俺は思ってます。
逹瑯 こういうことって、2択だと思うんですよ。しっかり準備して、整理する時間を設けてから再スタートするか、間を空けずにすぐ動き出すか。その折衷案みたいになったという感じですね、今回は。ツアーが延び延びになったことで考える時間もできたし、しっかり折り合いを付けたうえで最後のライブに臨めて。その後、すぐに次の展開に進めたのは、すごくよかったと思います。まあ、珍しいパターンですけど。
YUKKE そうだね(笑)。
逹瑯 MUCCはどんな状況であっても、それを最大限に楽しもうとするスタンスのバンドだと思うんですよね。今までも予定外、予想外のことがたくさんあったけど、「結果、よかったんじゃない?」というところに転ぶことが多かった。今回は最大級の“よかった”じゃないかなと。最高というわけではないけど、1つの形として、決して悪くはないと思ってます。
YUKKE 俺も同じですね。5月の段階では「次の動きは少し先のほうがいい」と思ってたんですけど、ツアーの延期によって自分の気持ちも整理できたし、SATOちの決断も受け入れられて。そのおかげで活動のペースも上がってますからね。結果オーライです。
──新体制になって最初のアーティスト写真は、メジャーデビューシングル「我、在ルベキ場所」(2003年)のときと同じく、東京・渋谷で撮影されたそうですね。
ミヤ 20年くらい経ってるんですけど、それってすごく長い時間ですよね。渋谷の風景もすっかり変わって、時間の流れも感じられて。同じ場所で撮影することは押し出したいコンセプトというわけではないんですが、当時と今を比べたら面白いかなと。同じ場所で撮ったんですけど、後ろに見えているビルが違いますから。
──渋谷、様変わりしてますからね……3人の撮影自体も新鮮ですよね。
逹瑯 そうですね。今日も撮影だったんですけど、何かにつけて「あ、そうか。3人なんだ」みたいなことがあるんですよ。しばらくは慣れないでしょうね。逆に慣れてしまったら、寂しいのかもしれないけど。
YUKKE MUCCはメイク順もなんとなく決まっていて、ずっとSATOちが最初だったんです。今は繰り上がって俺が一番なんですけど、まだ慣れなくて、30分も前に行っちゃったり(笑)。
笑ったもん勝ちだよな
──では、ニューシングル「GONER/WORLD」について聞かせてください。まず「GONER」はミヤさんの作詞・作曲です。超ヘビーなロックチューンですが、どんなテーマで制作されたんでしょうか?
ミヤ 今の気分をそのまま曲にした感じですね。コロナ禍になり始めた頃は、「早く収束すればいいな」という気持ちだったけど、全然収まる気配がないし、それに伴ってこっちの気分も変わってきて。先の光が見えなくとも、その中でやっていくしかないなと。「GONER」には死者という意味があるんですけど、「そういう状態でも楽しむしかねえじゃん」というか。
──現状が変わらないのなら、その中でどう生きるかが大事だと。
ミヤ 状況や環境に対して、どうこう言ってもしょうがないという感じですね。もちろん怒りもあるんだけど、どこか吹っ切れて、開き直ってるところもあるんですよ。あと、こういう状況になったからこそ出てきたこともいっぱいあるじゃないですか。いい部分もあるけど、人間のイヤな部分が浮き彫りになることも多くて……それを踏まえて、「でも笑ったもん勝ちだよな」という気持ちもあるんです。
YUKKE うん。
ミヤ こうなった以上、結局は自分がどうするか、どう生きるかにたどり着くと思うんですよね。前向きでも後ろ向きでもいいんだけど、自分がどうするかを決めないと、何も起こらない。なんとなく歯車になって回っていると、以前よりもよくない方向に流される気もするし、「だったら、音楽を聴いて楽しんでる奴が勝ちじゃん」という。
──なるほど。逹瑯さんは「GONER」をどう捉えていますか?
逹瑯 新体制になってからのシングルに関しては、感動的な方向でいくのか、攻撃的にするのか、どっちかだろうなと思っていて。「GONER」は歌詞を含めて、今の3人の勢いを伝えられる曲だと思います。あと、お客さんは「どんなサウンドで来るんだろう?」って期待している気がして。このイントロはビックリするんじゃないかな。
──エキゾチックな雰囲気の女性コーラスを交えた、壮大なサウンドですよね。
ミヤ それも今の気分ですね。今の世界の模様を音にしたら、ああいうイメージになって。
YUKKE 攻撃的なところもあるし、今の自分たちが表現したいことにもすごく合ってると思います。SATOちが抜けてバンドサウンドも変化してくる中、こういう曲を出せたのはよかったなと。自分たちのライブもそうだし、フェスでガツンとやりたいですね。
──3人体制になって、当然、制作のスタイルも変わりますよね。
YUKKE そうですね。今はサポートドラマーと作業しているんですけど、ドラムが変われば感じることも変わるし、学べることや発見も多いです。
ミヤ 幅が広がる部分もあるし、やれていたことがやれなくなる部分もあると思いますけど、叩く人間が変わる以上、それはしょうがないことなので。新しい体制になって、今までやってなかったこともどんどんやりたいですね。
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ライブで声が出せない今だから