「Mt.FUJIMAKI 2019」特集 藤巻亮太×曽我部恵一対談|共鳴し合う思いと歌

ミュージシャンにとってすごい財産

曽我部 どうでした? 去年、フェスをやってみて。

藤巻 「やってよかった」ということしかないです。いちミュージシャンとしても、こんなにぜいたくなことはないなって。素晴らしいミュージシャンの歌を間近で聴いて、一緒に演奏させてもらえるわけですから。

曽我部 ヤバい、緊張してきた(笑)。

藤巻亮太

藤巻 いえいえ、そんな(笑)。僕はもともとミュージシャンの友達が多いタイプではなかったんです。ずっとバンドとスタッフの中で完結していて、それ以上の人間関係が広がらなかったので。でも、「Mt.FUJIMAKI」を始めてから、いろんな方と知り合うことができて。こうやって曽我部さんと対談させていただくだけでも、「フェスをやってよかったな」と思います。

曽我部 こちらこそ、ですよ。

藤巻 会いたい方に会えて、一緒に音楽を奏でて、生で言葉を聞く機会をいただいて。そうすると「こういう方だから、あんなにすごい曲が作れるんだな」と肌でわかるんです。ただ、それをマネしようとは思わなくて。むしろ「お前はどう生きるんだ?」と問われてる気がするんです。そういう場所があるということは、ミュージシャンにとってすごい財産だなと。「1年後、どうなっていたいか?」というモチベーションもいただけるし、その中で自分がポジティブになっていくのもわかって。どんどん変化できるのもいいですよね。自分の定義を書き換えることはすごく大事だし、そのためには新しい挑戦を続けるしかないので。

曽我部 確実なことなんて、何もないからね。

藤巻 そう、自分の人生もデザインできないし。

曽我部 無理矢理やろうと思えばできるかもしれないけど、あまり意味はないよね。……いや、わかんないな。人生をしっかり設計して暮らしている方もいらっしゃるだろうから、それがダメというわけではないんだけど。僕らはそうじゃない人生を見せる立場なのかもしれないですね、ひょっとすると。

藤巻 出会いや縁もそうですよね。実際に出会ってみないと、どういう意味があるのかわからないというか。

曽我部 恋人もそうだし、子供もそうだけど、出会いにはすべて意味があると思っていて。そのためには常にオープンでいられたらいいですよね。

「米子 on my mind」とかちゃんと歌えなくちゃダメ

──曽我部さんは下北沢で暮らすようになって長いですが、下北沢に対してどんな思いがありますか?

曽我部恵一

曽我部 居付いちゃったという感じですね。知り合いの店があったり、友達が住んでいたり、ライブハウスがあったりするので。自分が住んでる場所は好きですよ、もちろん。

藤巻 曽我部さんの歌を聴くと、日常というか生活が感じられて。すごく近いところにあるからこそ見過ごしてしまいそうなことが描かれている印象があるんです。

曽我部 自分が見ている風景だったり、地名や固有名詞は歌いたいと思ってます。歌詞にニューヨークとか、アメリカの地名が出てくるとカッコよく聴こえるじゃないですか。日本語で米子って歌うと何か違うというのは、おかしいと思うんですよ。「米子 on my mind」とかちゃんと歌えなくちゃダメというか。

藤巻 はははは(笑)。

曽我部 米子とは何も関係ないんですけど(笑)、自分が住んでるところだったり、「あの電柱の後ろから友達が出てきそう」みたいなことを歌いたいんです。それは意識しているというより、自然にやってることですけどね。

藤巻 そこは一貫しているところなんでしょうね。でも、サウンドはどんどん変化するじゃないですか? 「Popcorn Ballads」もそれまでのサウンドと全然違っていて。あれはどういう理由であのサウンドに?

曽我部 なんとなくというか、ノリですよ(笑)。ドラムがいなくなって、コンピュータを使うようになったのも大きいですね。以前は3人で向かい合って、「せーの」で演奏したものを録ってたんですけど、それができなくなったから、打ち込みの割合が増えて。最近は「バンド像ってなんだろう?」って考えてますけどね。3人で立っているサニーデイ・サービスのイメージも強いだろうし、2人でサニーデイ・サービスって言えるのかなと。いろんなやり方があると思うし、実験っていうとカッコつけてるみたいだけど。自暴自棄ではなくて、「どうとでもなれ」と思いながらやってます。でも、バンドって難しいですよね。

藤巻 そうですね。

曽我部 実際のサウンドだけではなくて、イメージも大きいじゃないですか。サニーデイ・サービスの場合は、男3人で立ってるということなんだけど。

藤巻 僕もバンドは「形なのか、中身なのか」とすごく考えてたんですよ。

曽我部 形も大きいよね。バンドって、わざわざ形を作るでしょ? ドラム、ギター、ベースとかいって。音楽の表現はもっと自由でいいはずなのに、わざわざルールを作るというか。お客さんはそこにバンドのロマンを感じてるんだと思いますけどね。わざわざやってるよさというのかな。The Rolling Stonesなんて、まさにそうじゃないですか。「まだやってるの⁉」っていう。

──藤巻さんの中でも、バンドに対する概念が変化している?

藤巻 そうですね。ずっと同じ状態でいるわけではないし、変わっていくこと、新しいことに挑戦することに楽しさを感じているので。それがモチベーションにつながっているんです。

左から藤巻亮太、曽我部恵一。

曽我部 すごくいいと思う。さっき、「『粉雪』のイメージに引っ張られていた」という話をしていたじゃないですか。「日本中の人が知っている曲を持っていることで、苦労や悩みを抱えることもあるんだな」とわかったんだけど、俺もいつか絶対、そういう曲を作りたいと思っていて。ヒット曲がないというのが悩みであり、モチベーションでもあるんですよね。まだ何十年か勝負できると思ってるので、全然あきらめていないんです。

藤巻 それは僕も同じというか。ソロになったときに感じたのは、レミオロメンや「粉雪」は通用しても、藤巻亮太は全然通用しないということで。だいぶ痛い思いをしたし、20代に比べて30代のほうがよっぽど下積みだったなって。でも、どっちが勉強になったかと言えば、30代のほうなんですよね。

曽我部 すごいですね、それは。

藤巻 来年の1月で40歳になるんですけど、この先、藤巻亮太の代表曲を作りたいと思っていて。それも目標になってますね。

山梨の魅力を知っていただけたら

──最後に2度目の開催となる「Mt.FUJIMAKI」の展望について聞かせてください。

藤巻 テーマは前回と変わらないです。山梨はライブが行われることが少ないので、県内の皆さんに対して、素晴らしい音楽を聴いてもらえる場所を作りたいという思いがあって。県外から来てくださる方には、音楽はもちろん、山梨の魅力を知っていただけたらなと。

曽我部 山中湖のあたり、すごくいいですよね。若い頃にミュージックビデオを撮りに行ったことがあって、そのときから大好きで。いつかああいう湖畔で暮らすのが夢なんです。

藤巻 9月末は涼しいし、季節的にも野外でイベントを開催するのにちょうどいいんです。気持ちいい風が吹くと思うので、そこも楽しんでいただけたらなと。音楽的な部分では、出演していただける皆さんに気持ちよく歌ってもらえるように準備することだけです。それができれば、お客さんにも喜んでいただけると思うので。当たり前ですけど、自分1人では何もできないんです。僕は主催という役割を担っていますが、チームワークというか、関わってくれる皆さんに支えてもらっているので。お客さんに「来てよかった。楽しかった」と思っていただけるようにがんばります。

──曽我部さんは“藤巻亮太 with the BAND”の演奏で歌うんですよね?

藤巻 はい。そのほかに、弾き語りと2人で演奏する曲も予定していて。いろんなバリエーションで楽しんでもらえたらと思います。

曽我部 僕もすごく楽しみです。

左から藤巻亮太、曽我部恵一。