藤巻亮太主催による野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI 2019」が、9月29日に彼の地元である山梨・山中湖交流プラザ きららで行われる。
昨年に続き2度目の開催となる同フェス。今年は藤巻亮太 with the BAND、トータス松本(ウルフルズ)、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)、岸田繁(くるり)、ORANGE RANGE、大塚愛、tetoの出演が決定している。
音楽ナタリーでは藤巻と、出演者の1人である曽我部の対談を企画。ソングライター、シンガーとしてのスタンス、「Mt.FUJIMAKI 2019」の展望などについてたっぷり語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 吉場正和
藤巻亮太スタイリスト / 三浦一樹 衣装協力 / Iroquois(03-5704-7631)
30代になってから「言葉が大事なんだな」
──まずはTBSラジオ「アフター6ジャンクション」(8月15日放送)で放送されたお二人のジョイントライブのことから聞かせてください(参照:藤巻亮太&曽我部恵一「アトロク」で生セッション)。サニーデイ・サービスの「サマー・ソルジャー」をセッションしていましたが、選曲はどちらが?
藤巻亮太 曽我部さんです。候補を2曲挙げていただき、「サマー・ソルジャー」を選ばせてもらって。実はあのラジオライブの日に初めてお会いしたんです。
曽我部恵一 そうでしたね。
藤巻 初対面ですぐリハーサル(笑)。緊張しました……。
曽我部 僕も緊張しました。でも、人と一緒に歌うのは好きなんです。シンガー同士だったら、いろいろ話すよりも歌ったほうが早いというか。その人の持ち味とかもすぐわかりますからね。誰かと歌うことって、やってます?
藤巻 僕はソロになってからです。バンドのときは弾き語りもやったことがなかったし、セッションに呼ばれることもなくて。30代になってから呼んでもらえる機会が増えたし、誰かと一緒に歌うこともけっこう多いです。
曽我部 ドラムやベースもそうですけど、楽器を弾くミュージシャンはこっちに合わせてくれるじゃないですか。自分が激しく歌えば、向こうも激しくやってくれたり。シンガー同士で歌うときはちょっと違っていて、それぞれの世界観がぶつかり合ったり、融合するのが面白いんですよね。
藤巻 それはありますね。曲の解釈もそうだし、ギターの奏法、歌い方、佇まいを含めて、同じ曲をどんなふうに彩るか……お互いが寄り添ったり、それぞれ自分の世界に入ったりする感覚がありますよね。
曽我部 歌手って、個人的な世界に閉じこもるタイプのほうが多い気がするんですよ。だからこそ面白いんです、一緒に歌うと。
──「サマー・ソルジャー」を藤巻さんが歌うと、当然、藤巻さんの色が出てきて。
曽我部 もちろん。カバーでもオリジナルでもいいんだけど、歌うときって、どういうことを意識してるんですか?
藤巻 歌い始めたのがバンドだったこともあって、アンサンブルが好きだったんです。一緒に演奏することで気持ちが高まるというか。そのせいか20代の頃は、歌うことに意識がおよぶことがあまりなかった気がして。歌を作るのは好きでしたけど、歌詞を書くことに照れがあって、景色や心象風景を描写することが多かったです。でも、そういった曲を「いいね」と言ってもらうことが増えてきて、少しずつ歌詞に意識が移るようになって。30代になってからは、「言葉が大事なんだな」と思うようになりました。
曽我部 結局、一生懸命歌えるかどうかなんですよね。ライブでずっと歌える曲と、あまり歌わなくなる曲の違いは、自分にとって重要なことを歌えているかどうかなので。ポップな曲、シングルっぽい曲でも、歌わなくなる曲ってあるからね。
藤巻 わかります。
大事な曲は何度歌っても完成しない
曽我部 あとね、自分にとって大事な曲は、何度歌っても納得がいかないというか、完成しないところがあって。
藤巻 “完成”という概念はすごく難しいですよね。画家と一緒で、どこかで筆を置かないといけない瞬間があるというか。
曽我部 レコーディングだとそうだね。
藤巻 ええ。曲作りで言えば、「メロディは気に入っているけど、歌詞が書けなくて完成しない」ということがけっこうあって。逆に言うと「うまく言えた」と思える歌詞が書ければ、ずっと歌える曲になるんじゃないかなと。
曽我部 いい曲って、パッとできたりするんですよ、それこそ5分くらいで。作り上げるというより、その瞬間にそこにあるような感じというのかな。まったく悩む必要がなく完成することが、たまにあるんですよね。今までの人生で2回くらいだけど(笑)。
藤巻 いやいや、もっとあると思います(笑)。でも、今曽我部さんがおっしゃったことは、すごくわかります。人間って、過去に頼ろうとするじゃないですか。それまでに培ってきた技術だとか、成功体験とかに。
曽我部 うんうん。
藤巻 「このコードはこっちのほうがいいな」みたいなことを考えているうちに、本来のインスピレーションやエネルギーの鮮度が落ちてしまうこともあって。そこが悩ましい部分なんですよね。ずっとやっていれば経験値は上がるけど、それを超えていきたいという気持ちがあるので。
曽我部 ライブでいうと、同じ曲をずっと歌う中で、どこに新鮮さを求めるか?ということもあって。そのモチベーションの置き方って、けっこう難しいんですよ。俺、今年はバンド(サニーデイ・サービス)がお休みなので、弾き語りのライブをやってるんですね。だいたい40分とか1時間くらいやってほしいと言われるんだけど、どのライブもほとんど選曲を一緒にしてるんです。やり始めた頃はこっちも新鮮だし、お客さんと同じように感動することもあるんだけど、ずっとやってると自分にとってはただの“音符と言葉”になるというか。そこからが始まりなのかなと思っていて。
藤巻 なるほど。
次のページ »
20代の頃は「粉雪」に引っ張られていた