身近なのがいいな。せっかく同じ時間に生きてるんだから
シンガーとして、サウンドクリエイターとして独自の路線を歩み続ける彼女。今後の活動内容や目標についてはどう感じているのだろう。
「ひとつ言えるのは、誰でも知ってる曲っていうのが1曲欲しいな、とは思う。それこそ『Get Wild』みたいな。あと、自分自身がアーティストとして認められたいっていう気持ちももちろんあるんだけど、でもやっぱり難しいですね。”アーティスト様”はもうちょっと気難しくて、現実感が薄くないとダメみたいなイメージがあるから。私は身近なのがいいな。せっかく同じ時間に生きてるんだから。無理するのたいへんだしな。だからほんとに素でやってますよ。ラジオとかもそうだし、曲作るのとかも。なんていうのかな、そのままなんですよね。ハッタリがなさすぎ。アルバムのタイトルとかも企画会議で決めたりするんじゃないんですよ。エイベックスさんは『こういう曲を作れ』みたいな押し付けは一切言ってこないし。やりたいことは基本自分で考えてて、そういうところからしてなんかハッタリがないんです。せっかくメジャーでがんばってるからCDがもっと売れたらいいなって気持ちはあるけど、でもいま買ってくれてる人がちゃんとわかってくれてるからね。それはそれで幸せだなあって思いますね」
結局彼女は、ずっと変わらぬスタンスで音楽を作り続けてきただけだった。アキバ発のアニメ&ゲームカルチャーもいまやすっかり市民権を得るに至ったが、これらの文化が現在のようなポピュラリティを獲得する過程において、彼女が果たした役割は決して小さなものではなかったはず。
そして自ら荒れ地を切り開き、自由に活躍する場を手にした彼女が次に向かった道が「ポップミュージック」としてのクオリティを上げることだったというのも興味深い。そのチャレンジのひとつの結果がこのアルバム「Sunday early morning」で、それが成功しているかどうかの判断はあなたの耳に委ねられている。ある人はフックの効いたメロディを気に入るだろうし、ある人はアレンジの妙にうなるかもしれない。ある人はアニメソングの枠を超えていないと感じるかもしれない。
ただ少しでも興味を持ったのならば、まずは偏見を捨て彼女の音に向き合ってみてもらいたい。キャッチーなサウンドの端々に見え隠れする、アーティスト・桃井はるこのまっすぐな情熱が、アルバムを聴き込むほどに立ち上がってくるはずだ。
プロフィール
桃井はるこ(ももい・はるこ)
シンガーソングライター、声優、ラジオパーソナリティ、コラムニストなどなど、幅広いフィールドで活躍するマルチアーティスト。愛称は「モモーイ」。
幼い頃からアニメ、ゲーム、コンピュータに親しみ、高校在学中に始めたパソコン通信をきっかけにコラム執筆、イベント開催などの活動を開始する。
1997年からはインディーズでの音楽活動もスタート。オタクカルチャーをバックボーンにした楽曲や、秋葉原路上でのゲリラライブなどが話題を集め、2000年にシングル「Mail Me」でメジャーデビュー。2002年からは「美少女ゲームソングに愛を!」「萌えソングをきわめるゾ!!」をスローガンに、音楽ユニット「UNDER17」を結成し、約2年間にわたり活動する。2004年横浜BLITZ公演でのUNDER17解散ライブ以降はソロとしての音楽活動を再開し、2006年エイベックスに移籍。初のベストアルバム「momo-i quality~ベスト・オブ・モモーイ~」をリリースしている。
2007年にはDVDドラマ「はるこ☆UP DATE」や、初の著書「アキハバLOVE~秋葉原と一緒に大人になった~」、カバーアルバム「桃井はるこ COVER BEST -カバー電車-」も発売。米国やドイツのアニメイベントでもライブを行うなど、日本のアキハバラカルチャーを代表するアーティストとして精力的な活躍を続けている。