ナタリー PowerPush - 水樹奈々
スタッフ一丸でゼロから作った熱血「なのは」物語
「なのは」2期製作発表では取材陣が10倍に
──今お話に出た「ETERNAL BLAZE」はオリコンウイークリーチャートで初登場2位を記録して、さらに「PHANTOM MINDS」では1位という、声優アーティスト界初の快挙を成し遂げられました。どちらも水樹さんの歴史を語る上で外せないキーポイントとなっていて、そういう意味でも「なのは」は水樹さんにとってやはり大きな存在なんじゃないかと思うのですが。
そうですね。ずっと一緒に走ってきたような気持ちがあります。
──改めて過去の「なのは」楽曲についても聞かせてください。「ETERNAL BLAZE」がテーマソングに起用された「リリカルなのはA's」はテレビシリーズの「なのは」第2弾で、放送は2005年秋ですね。当時のことは覚えていますか?
もう、リアルに覚えてますよ。まずは続編ができるということがすごくうれしくて。「なのは」は完全オリジナル作品だったこともあって、最初の製作発表では取材も3、4社さんぐらいしか来ていただけず……(笑)。広い会場に用意されたたくさんのイスを、身内のスタッフさんが埋めるような感じで。そもそも「なのは」をどう読むのかもわからない人が多いぐらいで、文字だとわかりづらいかもしれませんけど「なの……は(ワと読む)?」みたいな(笑)。そういうところから、みんな一丸となって「がんばろうね!」って一緒に作ってきた作品だから、続編が決まったときは本当にうれしかった。「きっとこの作品は多くの人に受け入れてもらえるはずだ」と信じていたので、その思いが本当に届いたんだなって。そして「A's」の製作発表には、30社以上の方に取材に来ていただけたんですよ!
──おお! ほぼ10倍ですね。
その光景を見たときは本当に感激しました。自分たちが信じて作ってきたものは間違いじゃなかったんだって。1作目ではオープニングテーマの「innocent starter」と挿入歌の「Take a shot」を歌わせていただいたんですけど、この2曲をライブで歌ったときの皆さんの反響もすごく大きかったんです。「なのは」チームの結束力と、その意気込みと熱意が、「A's」のときにはさらにグンと上がったのを覚えています。
──話を聞いているだけでも泣けてきますね。スタッフ側の物語もドラマのようで。
とにかくこのみんながくれたチャンスに、最大限に応えなくちゃっていう思いが強かったです。1作目は、高町なのは(CV:田村ゆかり)とフェイト・テスタロッサというふたりの魔法少女を軸にしたお話でしたが、「A's」ではさらに魔法使いが増えて、激しいバトルが描かれることになって。だから音楽もそれに負けないパワーを持った楽曲にしたかったんです。「innocent starter」の柔らかく包み込むような世界観からガラリと角度を変えていこうということで、作曲は私から上松範康(Elements Garden)さんにお願いしました。上松さんには前年にリリースした4枚目のアルバム「ALIVE & KICKING」に「Tears' Night」という曲を書いていただいたんですけど、これ実は私からラブコールを送ったんです。
──それは何がきっかけで?
ラジオを聴いているときにたまたま耳にした曲に感動して、「なんて素晴らしい曲なんだろう」って調べてみたら、上松さんが書かれた曲だったんです。それを三嶋さん(三嶋章夫。水樹奈々をデビュー時から支えるプロデューサー)に話したら、一緒にお仕事をしたことがあるということだったので、三嶋さんにお話をしてもらって。そうして作っていただいた「Tears' Night」が、ストリングスを多用したドラマチックな展開のクラシックロックで、柔らかさもありながら強い芯を感じる情熱的な楽曲で。それで「A's」のシナリオを読んだときに「上松さんしかいない!」って。あらかじめ作家さんを指名してお願いしたのは、このときだけですね。
「ETERNAL BLAZE」と「PHANTOM MINDS」
──「ETERNAL BLAZE」の持つパワーが、その後の「なのは」の世界にも反映されているのではないでしょうか。作品に関わる全ての関係者が、相乗効果で力強い渦を作り出しているような。
そうですね。でも「ETERNAL BLAZE」は完成形に至るまでメロディを8回ぐらい書き直しているんです。「サビをもっとパワフルに」「もっと情熱的に」「ドラマチックに」って、何度も上松さんとやりとりをして。私と三嶋さんで何度も何度も聴いて、シナリオと照らし合わせながら「もっと激しくいきたいね」「もっと壮大に」って。そのイメージを上松さんに伝えて、というやりとりを3カ月ぐらい繰り返して。本当に納期のデッドのデッドのデッドぐらいですね。何回も締め切りを破りました(笑)。
──スタッフ泣かせではありますが、そこは絶対に妥協しないと。
そうです。今考えると本当にあり得ないことなんですけど(笑)。
──でもそれが結果として、チャートという形で明確に評価されたときは、やはり大きな喜びや達成感があったのでは?
震えました(笑)。「一生懸命こだわって作った曲をたくさんの人に良い!って言ってもらえるのは、こんなにうれしいんだ」って。最後まで諦めずに、もうとことんこだわってよかったなって思いました。
──そして2010年には、劇場版第1作「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st」が上映され、その主題歌「PHANTOM MINDS」はチャート1位を記録しました。ゼロからスタートしての映画化は、やはり感動もひとしおだったのではないでしょうか。
そうなんですよ。もう本当に……うれしくて。始まった頃には想像もしていなかったことなので。しかも新作ではなく、テレビシリーズ第1期をパワーアップリメイクするっていうことで、それにも驚きました。1期の放送から6年経っていたし、「なのは」を知らない人にも触れてもらえるチャンスだということで、これは気合を入れてさらにいいものにしたいって全力で挑みました。でも、1期のオープニングテーマだった「innocent starter」という曲が「なのは」の全ての始まりの曲なので、思い入れも強い分、この曲と対になるものを書かなくてはいけないというプレッシャーが強くて。曲への思い入れに、作品と歩んできた時間との思い出もプラスされている分、新曲はそこに太刀打ちできるだけのパワーを注がないと負けてしまうから。だからどういう切り口でアプローチするかは、ものすごく考えました。
──制作時間もいつも以上に?
でも、この曲にはものすごく早い段階で巡りあったんです。映画化が決まった段階ですぐ作家の皆さんに曲をお願いして、最初に送られてきたデモテープの中に既にこの曲があって。もうこの曲しか考えられないっていうぐらいフィットする曲にこんなにも早く出会えるなんて!って。逆に作詞では苦戦しましたけど(笑)。
──それはどういうところが強く引っかかったんですかね。やはり直感?
直感ですね。これは私も三嶋さんも「なのは」製作委員会の皆さんも、満場一致で「これしかない!」って。ここまで即決だったのは、この曲が初めてです。だからこそ、作詞をするにあたって、自分の中でも大きな存在である「innocent starter」とは違った、映画同様にパワーアップしたものにしなくちゃいけない。映画版ならではの部分も増えるけど基本のストーリーは同じで、音楽も同じように、共鳴するポイントだったり、皆さんに伝えたいという思いは6年前と同じで。核の部分は変えずにどういうアプローチで歌詞が書けるか、違うストーリーを完成させられるかというのはすごく考えたし、苦労しました。「なのは」ってやっぱりまっすぐな、直球なイメージがあるので、書きたいことがたくさんある中で、ストレートに構成しなくてはいけない。比喩表現を減らしてなるべく日常的な言葉を選んだり、「innocent starter」とリンクさせながらも新たな表現を見つけたり……本当に難しかったです。
ニューシングル「BRIGHT STREAM」/ 2012年8月1日発売 / 1200円 / KING RECORDS / KICM-1403
CD収録曲
- BRIGHT STREAM映画 「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's」 主題歌[作詞:水樹奈々 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
- FEARLESS HEROTVアニメ 「DOG DAYS'」 オープニングテーマ[作詞:藤林聖子 / 作曲:奈良悠樹 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
- Sacred Force映画 「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's」 挿入歌[作詞:Hibiki / 作曲:しほり/ 編曲:藤間 仁(Elements Garden)]
映画「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A's」大ヒット上映中!
水樹奈々(みずきなな)
愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「シスター・プリンセス」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコンウイークリーチャート1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。以降、3年連続で出演を果たしている。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年6月6日、通算27枚目となるシングル「TIME SPACE EP」を発表。8月1日には28thシングル「BRIGHT STREAM」がリリースされる。