ナタリー PowerPush - 水樹奈々

声優アーティスト界の女王が語るデビュー秘話から新作「TIME SPACE EP」まで

偶然に引き寄せられたテーマ“時と愛”

──それでは、ここからは新作「TIME SPACE EP」についてお訊きします。今作は新曲4曲入りで、バリエーションに富んだ内容に仕上がっていますね。それでいて歌詞には統一感があって。

曲調はそれぞれガラリと違うのですが、全ての歌詞に「時と愛」というテーマがあって。

──初めからコンセプトを立てた上で作り上げたんですか?

いえ、実は作っていく中で自然と引き寄せられたキーワードなんです。最初に制作に取りかかった「ONE」は「あにまるワンだ~」(NHK BSプレミアム)という動物番組のエンディングテーマということで、まずスタッフさんから番組のテーマである「生物多様性」や「地球温暖化」など、環境や生き物の連鎖にまつわるキーワードをいただいて。テーマが壮大なのですが、それを「難しいな」って頭で捉えずに、自然と体に入ってくるような曲にしたかったんです。曲を聴かせていただいたときに浮かんだのは、あたたかくて、愛があふれてくるイメージ。ちょうど東京ドーム公演が終わってすぐの頃だったから、ステージから観たサイリウムの海を真っ先に思い出したんです。あの景色って、他の星にはない、本当に地球上で一番美しい景色かもしれないなって。

──僕はもちろん客席からしか観たことがありませんが、あの光景は本当に圧巻ですよね。

「この景色を、神様が宇宙の別の場所から観たらどう映るんだろう」と思いながら書いたのがこの2番の歌詞なんです。東京ドームの2日目の最後に「SUPER GENERATION」を歌ったとき、「この時代、この瞬間に一緒にいることって本当に奇跡だな」って実感したんです。いろんな偶然と奇跡とがつながって私たちはここで出会ったんだ……というこの感覚が、生命の神秘につながっていくんじゃないかなって。

──「時空サファイア」と「PARYY! PARTY!」の作詞は水樹さんではありませんが、ここにも共通するテーマが流れているという。

それが偶然なんです! 次に取りかかった「時空サファイア」は、「meiji果汁グミ メグミとタイヨウ II」というCMオリジナルアニメのテーマソング。そのアニメの中で、おじいちゃんの初恋が描かれているのですが、50年経っても続く思いが「幻の果実」を育てる、という素敵なストーリーで。そして「METRO BAROQUE」は劇場版「BLOOD-C The Last Dark」の主題歌なんですが、この作品は何百年もの時を生きる主人公の小夜がどんなに傷つけられても裏切られても、真っ直ぐに人を想うこと、愛することをやめない。この曲ではそんな女性の強さと優しさを描いています。何億年単位の愛、50年単位の愛、そして100年単位の愛と続いて、「PARTY! PARTY!」は現代の恋愛模様が。別々に作った4曲が、自然と引き寄せられるように集まったんです。不思議な偶然ってあるんだな……と思って、それを象徴するキーワードとして「TIME SPACE EP」というタイトルを付けました。

「PARTY! PARTY!」は淡々と攻める新機軸サウンド

──サウンド的には「METRO BAROQUE」と「時空サファイア」が、まさに“THE 水樹奈々”というか、ライブでものすごく盛り上がる様子が想像できる曲ですよね。こういった「水樹奈々サウンド」はどのようにして出来上がってきたのでしょうか。

やっぱりライブの影響がものすごく強いです。もっとみんなと一体になれる曲、もっともっとパワーを出せる曲って思ったら、だんだんこういう熱血サウンドというか、音の密度が濃いものになってきて。疾走感あふれる、これでもかっていうぐらいドラマチックにメロディが動き、畳みかけるものがどんどん生まれてきました。作家の皆さんも「奈々ちゃんの曲だと、いろんなことやりたくなっちゃって」って(笑)。

──先に挙げた2曲は、まさにファンが望んでいる熱血路線の極みみたいなサウンドですね。ライブがいつも生バンドだというのも大きいかもしれない。

そうですね。CDでは穏やかな曲も、ライブで歌うとものすごくアグレッシブな曲に変わっていったものもありますし(笑)。だからライブでのサウンドは相当影響があると思います。

──そんな中で、「PARTY! PARTY!」の新機軸ぶりはかなり耳に残ります。

ありがとうございます。デモの段階ですごく気になって「これはぜひチャレンジしてみたい!」って。私の曲は音域が広くとられていて抑揚の大きいものが多いんですけど、この曲は同じフレーズが繰り返され、ソフトでクールに攻めていく形なので、ちょっとこれまでにはなかったタイプです。

──言ってみればクラブミュージックで。コアな水樹奈々ファンほど意外性に驚くんじゃないでしょうか。

今までのダンスチューンともかなり雰囲気が違っていて、いろんなギミックも入っていたり。

──そして「ONE」はスケールの大きいバラードと、4曲の中にさまざまなエッセンスが散りばめられていて。

シングルですが、コンセプトアルバムのような濃さに仕上がりました!

いつもの私らしくいることが大事

──今作ではマスタリングにも立ち会われたと聞いたのですが、それは毎回ですか?

毎回です。トラックダウンもマスタリングも必ず立ち会うようにしてます。我が子のように見守りたいんです(笑)。曲が生まれるところから始まって、レコーディングが出産だとして、安静にしてきれいに整えてからお家に帰るまで、ちゃんと見届けないとダメだと思うんですよ(笑)。一度、作家さんとプロデューサーさん、それから私、全員の目指している方向性にズレがあった曲があって、アレンジからやり直したことがあったんです。それ以来、自分が描いている世界観をきっちり伝えることはとても大切だと感じ、毎回最後まで立ち会うようになりました。

──でも、ますます忙しくなりますよね。水樹さんはアニメやナレーションなど声優の仕事だけでも幅広くて、そしてアーティスト活動でもレコーディングや大規模なツアーが毎年あって……とにかく傍目にはめちゃくちゃ忙しく見えるんですよ。ワーカホリックなんじゃないかというぐらい(笑)。

あはは(笑)。そうかもしれません(笑)。

──かなり大変なのでは?

もうちょっと寝たいなってときもありますけど(笑)、好きなことをやっているから、そんなに大変だとは思わないです。

──逃げ出したくなることはないですか?(笑)

大丈夫です(笑)。作詞の締め切りに間に合わない!ってときくらいですね、ギャーッとなるのは(笑)。催促の電話がかかってきて「キャー待ってー!」って。

──どうするんですか?

とりあえず気付かなかったフリ(笑)。

──あははは(笑)。自分なりのストレス解消法は何か持っていますか?

私は食べることが好きなので、やっぱりご飯を食べに行くことですね。仲のいい友達と美味しいもの食べていっぱいしゃべったらスッキリ! 時間が少しあるときは、弾丸旅行で温泉だけ入りに行ったり。ドライブしてる間にいつもとは違う環境に変わってスッキリっていうときもあります。たまにですが息抜きはしてますよ。

──以前からお忙しかったと思いますけど、やっぱり紅白出演以降は、特にテレビの仕事が多くなりましたよね。より多忙になったと思いますし、今までは会わなかったジャンルの方々、テレビ界の大御所と絡んだりということも増えたんじゃないかと。ここ数年はそういう慣れない環境への緊張、ストレスもあったんじゃないかと思ったのですが。

テレビはやっぱりすごく緊張します。初体験のシチュエーションだらけなので……。そういう私の様子を見て、みなさん本当に優しくしてくださるんですけど、それでも「私がこんなところにいていいんだろうか」と(笑)。収録後、家に帰ったらいつもより眠くなります(笑)。そこで気持ちが参らないようにするには、いつもの私らしくいることが大事だなって。学生時代から仲のいい友達とマメに連絡をとり合ったり、ご飯を食べに行ったり。そういう日常を楽しむことを忘れないようにしてます。ラジオとかでも「こういう面白いことがあったんだよ」っていろんなお話をしたいから、仕事場とお家の行き帰りのくり返しだと、面白い発見がなくなってしまう。いろんなところに行っていろんな人と会えば、そこからまた刺激が生まれていろんな発想力につながっていく……。それは大事にしてます。

ニューシングル「TIME SPACE EP」/ 2012年6月6日発売 1300円(税込)/ KING RECORDS / KICM-1392

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CD収録曲
  1. METRO BAROQUE
    劇場版 「BLOOD-C The Last Dark」 主題歌
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:やしきん / 編曲:中山真斗(Elements Garden)]
  2. PARTY! PARTY!
    TBSテレビ 「ランク王国」 6月度・7月度オープニングテーマ
    [作詞:SAYURI / 作・編曲:田尻知之]
  3. 時空サファイア
    meiji果汁グミ メグミとタイヨウII 主題歌
    [作詞:ゆうまお / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:陶山 隼]
  4. ONE
    NHK BSプレミアム 「あにまるワンだ~」 エンディングテーマ
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:内池秀和 / 編曲:藤間 仁(Elements Garden)]
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ラブひな」「シスター・プリンセス」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコンウイークリーチャート1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。以降、3年連続で出演を果たしている。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年6月6日、通算27枚目となるシングル「TIME SPACE EP」を発表。8月1日には28thシングル(タイトル未定)の発売も予定されている。