宮﨑薫 ツアー開催直前インタビュー|4年ぶりEPに見る、シンガー / 1人の女性としての進化と変化 (2/2)

いろんな人のアイデアや感性を取り入れたい

──EPの最後を飾る「Yellow」で歌われている“Yellow”という言葉は、宮﨑さんにとって何か大切なものを意味するのだと思いますが、この言葉を歌詞に当てたのはなぜ?

これはあんまり言葉にしようと思ってはいないんですけど、単純に私にとってとても大事なもの、思い出せばいつでも帰れる場所の色が黄色なんです。

──なるほど。これ以上は詮索しないでおきます(笑)。「あなたを近くに感じるたびに、寂しくてたまらなくなる(Every time I feel you so close / I miss you so bad)」という英語詞が素敵ですね。

この大事なものは今私の手元にはないんですけど、夢の中にだけ出てきてくれるんです。夢って不思議なもので、会いたい人も行きたい場所も、記憶の中のきれいな姿で出てくるじゃないですか。夢でしか会えなくて、醒めたときに寂しくなる。逆に言うと、夢ではいつもきれいなままで会えるということでもあります。

宮﨑薫

ASKA&デイヴィッド・フォスターとの共演は「ところどころ記憶がない」

──「Beautiful」は収録曲6曲がそれぞれ力強くて、バラエティに富んだEPだと思います。

今回から携わってくれる人が増えました。Kazumiくんとは1つ前の「The Light」のときから一緒に制作していましたけど、もう少しいろんな人のアイデアや感性を取り入れたいなと思って。結果、すごく色が増えたというか、カラフルになった感じがします。「いろんな人の知恵を借りるとこんなにも変わるんだな」と思ったので、次に向けてもまたどんどんやっていきたいなと思ってます。

──EPの楽曲は、リリースの10日後に行われたクリスマスライブ「KAORU MIYAZAKI Christmas Live 2023 ~Winter Dream~」でほとんど披露しているんですよね。

はい。1stショーと2ndショーで少し違うんですけど、ほとんどやったと思います。「Karma」と「君と空」は前から歌っていましたけど、新曲をしっかり聴いてきてくださった方が多くて、「生で聴けて楽しかった」というコメントをたくさんいただきました。

──僕はライブを拝見できなかったのですが、セットリストを見ると「Karma」を2曲目に歌ったそうで、インパクトがあっただろうなと想像します。

実はリハーサルまで、「Karma」は後半のカロリー高めのゾーンにあったんですよ。でもカロリーの高い曲が続くのはちょっとどうかなと思って、本当に直前になって「ごめんなさい! 『Karma』を2曲目にしていいですか?」と提案しました。一度ガラッと雰囲気を変えて、ちょっとした緊張感を演出できたらいいなと思って。

宮﨑薫

──昨年の6月17日には「RENAISSANCE CLASSICS 宮﨑薫 Strings Ensemble Premium Concert in 浜離宮」というコンサートを開催されていますね。

クリスマスライブはバンドでしたけど、こっちは管弦楽アンサンブルとご一緒したクラシカルなスタイルで、会場もクラシックのホールだったので、同じワンマンライブでも何から何まで全然違いました。

──クラシックアンサンブルとの共演は初めて?

初めてでした。リハーサルも少なかったので、けっこう自分の中では緊張感のあるライブだったんですけど。

──そういったライブは「ビートがないのが難しい」という話をよく聞きますが、宮﨑さんの場合はどうでしたか?

「何が大変だった?」と聞かれたら、まさにそれです。リズムの取り方が難しくて。皆さんすごくお忙しいからライブ直前に集中的にリハーサルしたんですけど、私はクラシカルなスタイルが初めてで自信がなかったので、最初のリハーサル後に1週間くらい間を空けてもらったんです。録音してもらったのを聴き込んで、1人でスタジオに入って練習して、体に叩き込むスタイルで取り組みました。これぞライブって感じでしたね。その緊張感も楽しめましたし、すごくいい経験になりました。もともとクラシックから音楽を始めてるのでクラシックアンサンブルは大好きなんですけど、ポップミュージックとのコラボレーションみたいなのも初めてだったので。またいつかどこかでやれたらいいなと思います。

宮﨑薫

──ほかにも昨年はイベント出演がたくさんありましたが、Blu-ray化もされた「ASKA featuring DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」にゲスト出演されたのは印象深かったのではないでしょうか。覚えていらっしゃいますか?……って、覚えていないわけがないですね(笑)。

実は「覚えてますか?」にちょっとドキッとしました。緊張しすぎて、ところどころ覚えていないんですよ(笑)。あれほど大きい会場(ぴあアリーナMM、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールなど)で歌わせてもらったのも初めてですし、レジェンドのデイヴィッド・フォスターと同じステージに立って、しかも大好きなセリーヌ・ディオンの「To Love You More」を歌わせてもらうというシチュエーションで、アドレナリンも出てますし、いろんな要素がミックスして、ところどころ記憶がないんです。

──極度の興奮状態。いわゆるゾーンに入る感じでしょうか。

まさにそんな感じでした。記憶がない部分もあるんですけど、覚えている部分では異常な集中力みたいなものを感じて。ちょっと言葉にできない感覚です。今までも何回かそういうシーンはあったと思うんですけど、その一番すごいものでしたね。

アコースティックでしかできない届け方、聞こえ方がある

──今年も3月からツアーがありますね。今回はyas nakajimaさんと4都市を回られるそうで。

アコースティックセットで、基本はアコギ2本。シーンによってはちょっと変えるかもしれないですけど。

──アコギ2本と歌と聞くとどうしてもしっとりしたイメージを抱いてしまいますが……。

そういうシーンもあったり、アップテンポなものとか、いろいろ楽しめると思います。そういう裏切りは大好きなので(笑)。毎回、ライブの趣旨というか見せたいものが変わるんですね。去年の6月の浜離宮のときはクラシックでしたし、クリスマスはバンドサウンド、そして今回はアコースティックと、毎回見せどころを変えていきたい。そのほうが自分も楽しいですし、それぞれの違いを楽しんでもらえたらうれしいですね。

──宮﨑さんにとって、ライブでしか得られない、感じられないものと言うと、どんなものがありますか?

やっぱりお客さんのリアクションじゃないですか。過去に何度か、錯覚かもしれないですけど、お客さんと自分の気持ちがバシッと同じほうを向いた瞬間を経験したことがあるんです。「今、絶対みんな同じこと考えてたよね」みたいな。「一緒に盛り上がろう」というポジティブな気持ちとか、「大丈夫だよ」とハグするような気持ちとか、いろんな感情があると思うんですけど、ライブはそういう一瞬の共感をみんなで経験する場所という意味も、私にとってはあるのかなって思います。それって、その日そのとき、その瞬間にその場所にいる人しか感じられないことだから。毎回そういうライブができたらいいなって思います。

宮﨑薫

──さっき話に出たような、ゾーンに入った状態になると、そういう一瞬がものすごく大きく感じられたりしませんか? スケールが変わるというか。

します、します。事故が起こる瞬間にスローモーションに感じるみたいな。バシッと同じ気持ちになった瞬間にフワッとその感覚になるんですよね。スケールが変わるって、本当にそのまんまだと思います。

──終演後にアーティストとお話しすると、実際にこちらが思っていたことと演者が思っていたことがたまに一致するんですよね。「あのとき、こうだったよね」「そうそう!」みたいな。

ありますね。「そうそう!」もうれしいですし、「いやいや、こうだったんだよ」というのも面白いです(笑)。

──今回のツアーで初めて訪れるところはありますか?

行ったことのある土地ばかりですけど、会場は全部「はじめまして」ですね。大阪は私の生まれ故郷なので、そういった意味でもみんなに観に来てほしいなって。仙台ではラジオをやらせてもらっているんですけど、ライブはひさしぶりです。対バンイベントに出演したことしかないので。

──ファンの方は楽しみにされているでしょうね。

あとは食事が楽しみですね(笑)。名古屋はたまごサンド、大阪は粉もの、仙台は海鮮……行く前に必ずSNSで「おいしいものを教えてください」って聞くんですよ(笑)。地元の方の情報がやっぱり一番正確なので。

──今年はほかにどんな活動をされる予定ですか?

ちょこちょこと皆さんに新曲をお届けして、年末にまたクリスマスライブをやりたいと思っています。あと、これまではクリスマスにシングルをリリースしてきたので、その楽曲たちをまとめたアルバムを出したいなと思っていて。そのアルバムを持ってクリスマスライブをしたいです。

──楽しみです! 最後に何か話しそびれたことがありましたらぜひ。

バンド編成でしかできないことがあるのと同じように、アコースティックでしかできない届け方、聞こえ方があるんですよね。例えば声の微妙なニュアンス。シンガーの人たちはみんな意識して付けているんですけど、バンドだとサウンドに埋もれて聴き取れないこともあったりするんですよ。本当に細かいニュアンスも伝わるのがアコースティックなので、ツアーではそういうところにも注目して楽しんでいただきたいですね。

宮﨑薫

公演情報

宮﨑薫 Live Tour 2024 -Beautiful-

  • 2024年3月28日(木)愛知県 HeartLand
  • 2024年3月30日(土)大阪府 肥後橋VOXX
  • 2024年4月12日(金)宮城県 誰も知らない劇場
  • 2024年5月9日(木)東京都 TOKYO FM HALL

プロフィール

宮﨑薫(ミヤザキカオル)

1989年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。幼少期をロンドンで過ごし、音楽に囲まれた環境で育ったことで自然とシンガーへの道に進む。大学時代にピアノとギターで作曲を始め、卒業とともに音楽活動を本格化。地道に送り続けたデモテープが業界関係者の耳に留まり、2012年にメジャーデビューを果たした。2023年3月に父・ASKAとデイヴィッド・フォスターによるコンサート「ASKA featuring DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」にゲスト出演し、12月には約4年ぶりとなるEP「Beautiful」をリリースした。2024年3月から5月にかけてアコースティックツアー「宮﨑薫 Live Tour 2024 -Beautiful-」を開催する。