宮﨑薫インタビュー|新作EPに詰め込んだ、クリスマスならではの高揚感

宮﨑薫がクリスマスEP「A Timeless Christmas」をリリースした。

昨年12月に約4年ぶりの新作としてEP「Beautiful」を発表した宮﨑。制作環境に変化があったという今年は、デビューアルバム「9 STORIES」の収録曲「Gimme Your Love」の再録バージョンや、実父であるASKAが1995年に黒田有紀へ提供した楽曲「Cry」のカバー、miwaflowerとタッグを組んだバラード曲「優しさにふれるたびに」、映画「赤羽骨子のボディガード」の劇中歌「Fragile」をリリースするなど、精力的な活動を展開してきた。

新作「A Timeless Christmas」は、宮﨑が2019年から毎年リリースしてきたクリスマスソングに新曲を加えた6曲入りで、クリス・ハートやKat McDowellといったボーカリストも参加している。音楽ナタリーではクリスマスEPの話題を軸に、2024年の活動やクリスマスの思い出、12月に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催されるワンマンライブ「宮﨑薫 Christmas Live Noel in Harmony 2024」への意気込みを聞いた。

取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 梁瀬玉実

環境の変化が与えたもの

──今年は4都市ツアーやバースデーライブを開催する傍ら、3カ月連続での配信シングルのリリースもあり、精力的な1年だったようですね。

制作環境がここ数年で変わって、いろんな人と一緒にやるようになったんですよ。そうすると、どんどん新しいアイデアが出たり、「こういうのを作ってみたいな」と思うことが増えて、今年はリリースが増えたんです。3カ月連続リリースは今年の初め頃にふと思い立って始めたんですけど、実際動き出したらすっごい大変で、「やるって言ったの誰?」みたいな状態で(笑)。みんなが出してくれるアイデアが自分にはないものだったりすると「うわ、すごい」と感心するし、きっと逆のこともあるだろうし、そういう瞬間は単純に楽しかったですね。リリースしていない曲もいっぱい作りました。

宮﨑薫

──制作環境はどんなふうに変わりましたか?

昔は1人で作詞作曲をしていたんですけど、今は人と一緒にドンって制作を始めることが多くなりましたね。

──今年最後にリリースされるのは、クリスマスEP「A Timeless Christmas」です。宮﨑さんは前回のインタビューで「これまではクリスマスにシングルをリリースしてきたので、その楽曲たちをまとめたアルバムを出したい」「クリスマスライブをしたい」と話されていましたね。

このEPもKazumi Shimokawaくんをはじめ、いろんな方との共作曲が多いですね。Kazumiくんは今アメリカにいるんですけど、私がアメリカに行ったときや、彼が日本に来たときに一緒に作ったりして。5曲目の「Very Merry Christmas」のときはがっつりコロナ禍だったので、ミュージシャンは全員リモートで、KazumiくんとはLINE通話しながら作りました。時差はありますけど、彼は体内時計がひっくり返っているのでちょうどいいんです(笑)。

──なるほど、LAの夜中が日本の日中ですものね。

「Very Merry Christmas」では、彼が「こんなのどうかな?」と英語の部分を提案してくれて、逆に日本語の部分は私が書きました。そのほかだと「Winter Dream」や「For Christmas~Santa Please!~」の歌詞はほとんど私が書いて、彼には英語のパートを最終チェックしてもらっています。

──LAと日本の行き来は頻繁にあるんですか?

ここ1年はないですけど、以前は私が年に2回向こうに行ったり、彼が日本にいるときに制作を進めていたんです。なので彼とは「ちょっと遠い親戚より会ってる」くらいの関係ですね(笑)。

宮﨑薫

クリスマスソングを歌うことになったきっかけは?

──EPの中で一番古い曲は、2019年リリースの「Feel Like It's Christmas (feat. Kat McDowell)」です。

一連のクリスマスソングは、この曲から始まったんですよ。Katがその年の12月に来日ツアーをする予定があって、私も参加することになったんです。ちょうどクリスマスの時期だったから「一緒にクリスマスソングを作って、クリスマスツアーをしよう」という話になって。

──Katさんとは以前から親交があったんですか?

その前の来日公演で知り合ったんです。それから彼女のライブにゲスト出演させてもらったりする中で意気投合して。当時はコンスタントにLAに行っていたので、そのときに会ったりしていましたね。

──なるほど。Katさんとの出会いが今回のクリスマスEPにつながるんですね。

そうですね。2020にコロナ禍が始まって、ライブはできないけど、それでも何か届けられないかと「Very Merry Christmas」を作ったんです。クリスマスソングのリリースが2年続くと、次の年から「今年もありますか?」という雰囲気になるんですよね。それからは毎年、夏になると私とKazumiくんで「今年はどうする?」「どうしようかねえ」みたいな(笑)。でも、ファンの方に「そろそろクリスマスだな。また何かあるかな?」と思ってもらえるのはうれしいですね。

宮﨑薫

大人の童心を描いた「Very Merry Christmas」

──2020年発表の「Very Merry Christmas」はどのように生まれたのでしょう?

Kazumiくんと「少しクラシックで、スタンダードな感じの曲をやりたいね」という話になったんです。LINE通話をしながら向こうでKazumiくんがピアノを弾いてくれて、そこに鼻歌でメロディを乗せながら作っていきました。若干タイムラグがあるから難しいところもあったけど、すごくいい経験になりました。制作が進む中で「途中でテンポを変えてバンドが入ってきたらどうかな?」というアイデアが出てきて盛り上がったのを覚えています。

──2021年は一旦お休みで、2022年には「For Christmas ~Santa Please!~」が発表されました。かわいいポップな曲ですね。

この年はKazumiくんが日本にいたので対面で作ることができました。「Feel Like It's Christmas」「Very Merry Christmas」ときて、次は少し雰囲気の異なる曲を作りたかったので、「今回はポップにしよう」とサウンドのイメージから決めて制作に入りました。

──「ねぇサンタさん もういい大人になったけど… 願いを叶えてください」という、大人の童心のような切ない歌詞が素敵です。

ありがとうございます。「サンタさん、願いを叶えてください」ってキュンキュンしているけど、けっこういい大人です、みたいな(笑)。10年前だったら書いていない曲だと思います。「もういい大人になったけど…」って言っていい歳になったというか。

宮﨑薫

“ザ・クリスマス”な感じの曲にしたかった

──昨年発表の「Winter Dream」についてはいかがですか?

これはもう“ザ・クリスマス”な感じの曲にしたかったんです。ギターの弾き語りがベースになっていますけど、サウンドのイメージはもうその段階で固まっていました。

──最後のサビだけ、「続きますように」の主語が1つ多いですよね。

あー、1行分。そうですね。

──「喜びに満ちた クリスマスの夜が」が加わる。その畳みかけが好きです。

その前に英語で「Christmas tree」と歌っているけど、日本語の「クリスマス」はここで初めて出てくるんですよ。ちょっと溜めたというか、「最後の最後に入れようかな」と思ってこうしたのを覚えています。思いが届くように、という感じで。

──クリスマスというテーマのせいか、先ほど伺った大人が持つ子供っぽさというか、童心のようなものを感じて心が洗われる感覚があります。

クリスマスというものは、大人が少し童心に帰れる時間でもありますよね。大人だけど子どもみたいにウキウキしたりとか。

──普段はちょっと押し込めている気持ちをね。

そう。普段からずっとウキウキはしていられないけど……みたいな(笑)。年末だから「1年おつかれさま」みたいなムードもありますし。

宮﨑薫

クリス・ハートとの化学反応

──そしてEPには新曲が2曲収録されています。「Baby It's Cold Outside」は昔からいろんな人たちが歌っている大スタンダードですが、クリス・ハートさんを迎えた今回のカバーを聴いて、改めてユーモラスで面白い歌だなと思いました。

本当に面白いですよね。クリスさんとは以前から「何か一緒にやりたいですね」という話をしていたんですけど、彼もクリスマスのアルバムは2枚くらい出されているから、クリスマスソングはやり尽くしている感じがあったんです(笑)。「まだやっていない曲で、いいのあるかな?」と探していたら、クリスさんのほうから「この曲どうかな?」と提案してくれて。いろんな方々のカバーを聴いてみたらジャズアレンジが多かったんですけど、クリスさんが「シティポップにしたらどうだろう?」とアイデアを出してくれたんです。

──おー、まさにコラボですね。

原曲からリズムがガラッと変わるので「変わったとき掛け合いはどうなるんだろう?」と想像がつかない部分もあったけど、ギターのyas nakajimaさんが最初のフレーズを考えてくれて、それが起点になって「そういう感じか」「じゃあこういうふうにしよう」ってみんなでアレンジを練っていきました。

──超有名曲だけに料理のしがいもありますね。

こういうアレンジはほかの誰もやっていなかったと思うので、アレンジによってすごく変わるっていうことも含めて、ぜひ聴いてみていただきたいです。

──クリスさんは超売れっ子のデュエットパートナーですが、彼の歌声が求められる理由はなんだと思われますか?

ソロで歌われているときは、「I LOVE YOU」とかもそうですけど、パーンとどこまででも出る高音が魅力の1つで、皆さんの印象にも残っていると思うんです。でも実はとってもレンジが広くて、低音も誰よりもどこまででも出ちゃう。そのレンジの広さが、デュエット相手からすると魅力的に映るんだと思います。今回もかなり低いところを歌ってくれていて、いつものクリスさんの歌とはまたちょっと違う楽しみ方ができるんじゃないかなと。