シンガーソングライターの宮﨑薫が、3月28日の愛知・HeartLand公演を皮切りにアコースティックツアー「宮﨑薫 Live Tour 2024 -Beautiful-」を開催する。
昨年3月に神奈川・ぴあアリーナMMで開催されたコンサート「ASKA featuring DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023」にゲスト出演し、父であるASKAと敬愛するデイヴィッド・フォスターとの共演を果たした宮﨑。同年12月には、コロナ禍による混沌としたムードや漠然とした不安、悲しみ、憤り、そして彼女の強い覚悟と希望をパッケージした4年ぶりの新作EP「Beautiful」をリリースした。
音楽ナタリーでは、ツアーの開催を控える宮﨑に約11年ぶりにインタビュー。コロナ禍と重なった「Beautiful」の制作期間のエピソードや作品に込めたメッセージ、昨年のワンマンライブやイベント出演の回顧、来るツアーへの意気込みなど、存分に語ってもらった。
取材・文 / 高岡洋詞撮影 / 須田卓馬
コロナ禍を通過したことで生まれた「Beautiful」
──EP「Beautiful」のお話からお聞かせください。まず表題曲「Beautiful」を聴いて宮﨑さんなりの美の定義が歌われている印象を受けました。見た目ではない、内なる美といいますか。
そういった意味も含んでいますね。この曲を書いたのは33歳から34歳になる境目だったんですけど、年齢を重ねてきたことに加えて、ちょうどコロナ禍でもあり「これからどうしていけばいいだろう?」と、人生の計画に迷いが生じた時期でした。学生のときとは違って、人それぞれ流れる時間が変わってくるので、自分が取り残されているような気分になることもあったり。そんなときに泥臭く自分の生き方を貫く、ある女性の先輩の姿を見て「美しい」と感じたんです。私もそうありたいと思いましたし、自分の歩いてきた道を否定はしたくないし、人を勇気付けつつ自分の背中を押すような曲を……と思って書いたのが「Beautiful」です。
──前作からの4年間はコロナ禍と時期が重なっていますが、やはり影響は大きかったですか?
そうですね。音楽が不要不急なものにされてしまって、シンプルに音楽業界がストップせざるを得ませんでした。直接ライブを観に行く機会が減ってしまって、コロナ禍が明けた今もなんとなくライブハウス離れしてるお客さんが多かったりして、いまだに影響はあると感じます。でも、その一方でコロナ禍が与えてくれたものも多かったんじゃないかな、という気もするんですね。人と会えなくて寂しかったけど、みんながそれぞれ自分の生き方、日々の過ごし方を考え直したり、改めるのにはいい時間だったんじゃないかなって。私にとって苦しみや寂しさ、悲しみといった感情は曲を書く原動力なので「おかげでこの作品を届けられた」という側面もあります。
言葉の持つ力やリスクを問いかける
──2曲目の「Karma」は、力強い1曲目とは対照的にクールなサウンドに仕上がっています。
尖ってますよね(笑)。「Karma」は実体験を強く反映した曲で「リリースするのもなあ」と思い温めていたんですけど、その間にSNS上での誹謗中傷を苦に若くして自殺してしまう人が世の中にいたりして、やっぱり発表したいなと思って。「今かな」と思ってシングルリリースしたのが一昨年で、今回改めてEPに入れました。
──発表するのに迷いがあったんですね。
書いた当時は「パーソナルな感情に寄りすぎたかな?」という気持ちが強かったんですよ。ライブでは盛り上がるけど、大衆に向けてリリースするとなると「一方的なんじゃないか?」という懸念があって。けど、自分もいい大人なので、言葉の持つ力やそれが凶器になってしまうリスクを問いかけてみてもいいのではと思ったんです。
──「誰かにかまえた ナイフの刃先が / いつかは⾃分に 向けられるとは知らずに」という結びは強烈ですね。ミュージックビデオにもそういう演出があります。
タイトル(Karmaは「業」「応報」といった意味)通りですね。私自身、発する言葉1つひとつになるべく気を付けるようにしています。
貴愛と共通の“あるある”を詰め込んだ「ブンブンシナイデ」
──3曲目の「ブンブンシナイデ feat. 貴愛」は、振り回されがちな人間関係をちょっとユーモラスに歌った曲で聴いていて面白かったです。宮﨑さんご自身も“ブンブン”されがちな性格なんですか?
わりとそうだと思います(笑)。けっこう相手の意見を受け入れてしまうことが多くて。
──振り回すタイプの人に弱い?
弱いというか、なんでしょう……引き寄せるんですかね(笑)。でも、たぶんこの曲で歌われていることって誰しもが思ってることだと思うんです。振り回してる人も主観的にはこう思っていたりするでしょうし、自分自身、相手にそう思わせてしまっているときもあるんだろうな、と感じることもあるので。
──お互い様という(笑)。確かにそうですね。
「私、すごく振り回してるんだよね」って言う人はあまりいないと思うんです(笑)。やっぱり「振り回されてる」という被害者意識のようなもののほうが強いと思うから。「みんなこの気持ちはどこかにあるんじゃないかな」と思って曲にしました。フィーチャリングしてくれた貴愛と交わした友達同士のガールズトークから生まれた曲です。
──おしゃべりから始まったんですね。
彼女のアルバムに入れる曲を一緒に書くところから始まって、「面白いから私のアルバムにもアレンジを変えて入れてみようよ」という話になりました。「最近どう?」という話から、「最近こういうことがあってさ」「実は私もこういうことがあったんだよね」「共通してるのは振り回されてるってことだね」と曲のテーマが見えてきたんです。それで「例えばどんなときにモヤッとする?」という質問に、歌詞にある通り「全然返事来ないけどめっちゃSNS上げてるとき」という答えが出てきたり(笑)。そういう「あるある」をどんどん落とし込んでいきました。
──僕も「高岡さん原稿全然来ないけどめっちゃSNS更新してる!」とか思われてるんだろうな……(笑)。貴愛さんの歌声も素敵ですね。
「ブンブンシナイデ」は彼女のアルバム「Green Flare」にも収録してるんですけど、ちょっとアレンジやパート分けが違うので、その違いも楽しんでいただけるかなと。「あるあるだよね!」と言えるような身近な内容をうまく曲に落とし込めたなって思います。私はループするトラックがすごく好きで、ライブでもルーパーを使ったりするんですけど、この曲もずっと同じコードをループしながらメロディが変わっていくので、そのあたりも気に入っています。
今、「君と空」を歌うワケ
──「Rain」における雨は、ネガティブなものを洗い流すものというようなイメージですよね。「雲の向こうに手を伸ばして(Reach for the sky above the clouds)、道を見つける(My path is found)」という英語詞からは、コロナ禍下の心理が思い起こされます。
まさにこれを制作していたのがコロナが始まったくらいの時期でした。一緒に制作したKazumi ShimokawaくんはLAに住んでるんですけど、LAって3月に雨の日がすごく多いんです。ちょうどその時期に向こうで一緒に制作していたので、「雨を題材にした曲を書いてみよう」と。2人とも当時はメンタル的にドーンと落ちていたけど、「でも、きっとこれはポジティブに変えられるよね」ってお話しして。それでポジティブな要素を含んだ雨の曲を書きました。
──祈りを込めた歌のように感じます。
「いつかこれは抜けるよね」「そのときにはまた別の景色が見えてるはずだから」という願いのような気持ちがこもっていますね。
──続く「君と空 2022 ver.」は活動初期の曲ですが、2022年に再演した理由は、デビューからちょうど10年ということで?
はい。その間、お休みしていた時期もありましたけど、「君と空」は10年間ライブでずっと歌ってきたんです。オリジナルバージョンはバンドサウンドでテンポも速かったんですが、ライブでは1人でアコースティック編成で歌うことが多くて、ファンの人たちから「あのバージョンもリリースしてほしい」とずっと言われていて。10年経って見える角度が少し変わりつつ「私、変わんないな」と思うところもある中、改めてリリースするにはいいタイミングだなと。
──楽曲を通して10年前の自分のことも見ているんですね。
そうですね。あの頃の自分に必死だった感じが今はいいなあと思います。
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