三浦透子|声がここまで連れて来てくれた、透明から始まる物語

自分だけど、ちょっとだけ遠いようなCD

──そして、2015年にタナダユキ監督の映画「ロマンス」でも、出演はしてないのに、エンディングテーマ「Romance ~サヨナラだけがロマンス~」の歌唱をしていて。

そうなんですよ、びっくりですよね。

──ユニークな形ですよね。

ホントに。笑っちゃいましたもん(笑)。

──(笑)。当時を振り返って、どんな気持ちで歌ってました?

歌うっていうことは純粋に楽しいことでしたね。仕事という感覚じゃなかったから。お芝居は、プラスマイナスいろいろ……楽しくない部分もひっくるめての好きだと思ってるんです。でも、歌は家の風呂で1人で歌うものだったので、純粋に楽しいことだったんです。だから「ロマンス」のエンディング曲を歌うってなったときに、楽しくなくなったら嫌だなという気持ちがあって。あと「ミノン」から「ロマンス」と、だんだん1曲まるまる歌うように近付いていってる感じがして……なんだか不安でした。でも体を動かすのは気持ちいいなっていうのと一緒で、緊張したけど歌ってみると楽しくて。映画館で流れたときはすごく感動しました。

──楽しさを感じた「Romance ~サヨナラだけがロマンス~」から、アルバムの制作に至るまでの経緯はどんなものでしたか?

まず「ミノン」のCMソングをユニバーサルの方に見つけてもらい、ユニバーサルのコンピレーションアルバムに入れたいっていうお話をいただいて。ミノンの歌はCM用の短い曲しかなかったので、それで1曲レコーディングすることになったんです。その流れでアルバムを作りませんかっていうお話をいただいて、それが去年の夏くらいだったと思います。

──アルバムというオファーに対してどう感じました?

笑っちゃいますよね(笑)。「えっ?」ってなりました。声を意識はしてきたけど野望や野心があったわけではなく、正直、夢が叶ったような気持ちでもなかったです。でも、周りの人がすごく喜んでくれたのでそれが面白かった。

──それは家族とかスタッフが?

はい。いろんな人にとって予想しない面白い出来事だったんだろうなって思います、自分も含めて。

──ご自身としてはどんな気持ちでした? 

「やらせてもらえるんですか、ありがとうございます」という感じです。だって、すごいことじゃないですか。断るっていう発想も理由もないですし。ただ、何度も言ってるけど、愛着が湧くかどうかっていう不安はありました。私は私でいろいろちゃんと考えたうえで、今回は声で参加しようって決めたつもりだけれど、自分の名前で物が出る、形になるっていうことで、自分がどういう感情になるのかわからなかったので。もしかすると好きな曲を歌うことに対しても、「果たして自分が歌っていいのだろうか」という恐怖があったのかもしれない。自分なんだけどちょっとだけ遠いような、どんなCDができあがるんだろうかって。

──遠いというのは?

できあがったものを聴いたときに、私が見たことない自分だったり、自分で聴いたことのない自分の声だったりするのかなって。でも「ミノン」でご一緒したプロデューサーさんと一緒に作ったことが心強かったです。

三浦透子
三浦透子

「役者をやってる私がCDを出しました」って言えるのはここまで

──制作時のスタッフの反応はどうでした?

自分がリスナーとして聴いてた曲が意外に反応がよかったんですね。ただ今回に関して言えば……商品となるものを作ったのに失礼かもしれないんですけど、レコーディングする前に「音楽という部分での自分の自我は今はない。その“ない”というところをスタートに作ったうえで、自我のようなものが生まれたらいいな」と思っていて。できあがった音を聴いて、全部好きだなって思えるんですけど、その中でも思うことがあったりとか。そういう、いろいろな思いがこれからの私の音楽に対する自我につながっていくのかなって思います。

──タイトル「かくしてわたしは、透明からはじめることにした」もそういう意味ですよね。音楽に対する自我がないところからスタートするっていう。

はい。タイトル案を考えることになったときに、まず本のタイトルっぽくしたいなっていうのがあって。あと“透明”っていうワードを入れたいな、と。“透明”っていう名詞と、“はじめる”っていう動詞ってあまり一緒に使わないじゃないですか。そういう言い回しが個人的に好きなんですよ。「かくしてわたしは」には、「アーティストになりたい」という気持ちがあったわけではない私の、これまでの経緯を表現していて、文学的な響きも気に入ってます。

──なるほど。

実は最初は「かくしてわたしは、まず透明からはじめることにした」という、“まず”っていう言葉が入ったタイトルにしようと思ってたんです。“まず”っていう言葉には、自分の照れとか言い訳、皮肉っぽい気持ち、このタイトルが浮かんだ経緯が入ってるんですけど、「どうしてこうなったのか」は私の中にあればいいなと思ったので、語感や字面がキレイに見えるように、「まず」は取りました。

──「透明からはじめることにした」の“透明”は、声の透明や“透子”という名前以外の意味も含んでますよね。先ほどおっしゃっていた「自分の自我がないところからスタートする」という思いとか。

そうですね。今回はレコーディングするときに、歌うということよりも言葉を読む感覚をすごく大事にしてやっていたので、“声に色を付けない”という意味での透明さ。あとは、今は何もないですっていうマイナスの意味もあったり。けっこういろんな意味があります。

──でも、まだなんの色も付いてないというのは、プラスの意味でもありますよね。

そうですね。変な言い方かもしれないですけど、いつかこのアルバムを聴いて恥ずかしい気持ちになるかもしれなくて。過去の日記を破りたくなるような気持ちは、音楽に限らず、今までにもあったんです。自分は変わっていくものだと思ってるし、変わることに対してもマイナスな気持ちはないんだけど、私はすぐに過去の日記をビリビリに破きたくなっちゃう。あんまりバレたくないし。こそこそ、しれっと生きていたいんですよ(笑)。プラスもマイナスも全部ひっくるめて、”透明”という言葉に隠してもらうような気持ちで使いました。堂々とゼロの状態です。

──アルバムが完成して、ゼロからイチに進みました?

進んでるのかもしれないですけど……まだよくわかってないですね。今は映画の現場にいたりするので、正直、音楽のこととか全然考えてなかったりもするんですよ。でもこれを作ったあとは、自分にプレッシャーをかける意味もあるかもしれないんですけど、詞は書こうと思ったし、単純にもっと音楽を聴こうとか、勉強しようとも思った。今まで無意識に聴いてきたから、「じゃあ私は何が好きでこういうものを聴いてきたんだろう」っていうことを考えなくてもよかったんですよね。別に言葉にできなきゃいけないわけではないと思うんですけど、なんとなくそういうことを考えてもいいのかなって思いましたね。私は今後も音楽を続けてCDを出すのかはわかんないですけど、もし次があるんだとすれば、「役者をやってる私がCDを出しました」って言えるのはたぶん今回までだと思うので、音楽に対して近付いていきたいなっていう気持ちはすごいあります。

三浦透子
三浦透子