なんか私、感謝しっぱなしですね

──カップリングの「スマイリウム」は作・編曲の三好啓太さんとの共作詞曲。作詞をするのは2013年の1stアルバム「好きっ！」収録の「スイートホーム」以来ですよね。

そうですね。ファンのみんなへの感謝の気持ちをつづったメモを三好さんにお渡しして、いい感じにしていただきました（笑）。

──第1稿は三森さんが書いて、それを叩き台に三好さんと一緒にブラッシュアップしていった感じ？

もっと三好さんに頼っちゃった感じかもしれないです。その第1稿っていうのが歌詞というよりファンのみんなへの手紙みたいな感じだったので。タイトルは最初に自分が考えたものがそのまま採用されてるんですけど。

──「スマイル」と、アクアリウムやプラネタリウムの「リウム」を合体させた造語ですよね。

そうです。“笑顔”に、空間や施設っていう意味の「リウム」をくっつけていて。私の歌を誰かが聴いていてくれている空間が笑顔で満ちていたらいいな、みんなに笑ってもらえたらいいな、と思って「スマイリウム」にしてみました。

──ということは三森さんは「スイートホーム」ではご家族への感謝を、今回はファンへの感謝を歌っていることになりますよね。

なんか私、感謝しっぱなしですね（笑）。

──ですね（笑）。なぜ感謝の気持ちを歌にしたいんでしょう？

例えばブログやTwitterでも周りの人への感謝って伝えられるし、ブログやTwitterでもできる限り伝えるようにはしているんですけど、ネットの情報って日々……っていうレベルじゃないスピードでどんどん更新されていくじゃないですか。だから私の思いもそのスピードで古いものになってしまう気がしていて……。

──確かにTwitterは今起きた出来事を伝えられるツールではあるけど、三森さんのアカウントのフォロワーのタイムライン上では、三森さんのツイートは随時ほかのフォロワーのツイートによって画面の下のほう、過去に押しやられますよね。

でもCDの形にしておけば、情報や思いがずっと残る気がするんです。例えばTwitterで過去の情報を検索するのってちょっと面倒くさかったりもするじゃないですか（笑）。確かにネットのおかげでいろんな情報を手に入れられるようにはなったんだけど、ネットを流れる情報の量ってすごく多い上に、流れるスピードも速いから、どんな情報であってもあっという間に過去のもの、見つけにくいものになってしまうのがちょっとイヤだな、と思っていて。だから特に感謝の言葉みたいな大切な情報はちゃんとパッケージしておきたったんです。パッケージしておけば検索の手間はいらない。CDプレーヤーにCDを乗せてもらうだけで、いつでも今の私の気持ちにアクセスしてもらえるはずですから。だから気持ちを歌という形にしておくことって実は最新型のやり方なんじゃないか、と思ってるんです。

──その、時と場合によっては実態のあるメディアに固着させたほうが情報や感情の鮮度を保てることって、どこで気付きました？

ちょっと話が変わっちゃうんですけど、6月の私の誕生日に母から手作りのかわいい刺繍をもらって、メチャクチャ感動したんですよ。ちっちゃい頃にはそういう手作りのプレゼントをたくさんもらってたんですけど、だんだん歳を重ねるにつれて「誕生日プレゼントは化粧品がいい」とか、なんなら「お金がいい」とか……。

──あはははは（笑）。

だんだん夢のない、利便性を重視したことばっかり言うようになっていて（笑）。で、もうさすがに大人ですから「今年はいいよ」って言ってたんですけど、だからこそ刺繍をもらったとき、すごくうれしくなっちゃって。“あえて”じゃなくて、ごく当たり前のこととして原点回帰的なことをちゃんとしてもらうとすごく新鮮な感動があるんだなあ、と思えたんです。だからみんなへの気持ちも改めて歌にしてみたかったし、それをCDという形で発表したかったっていう思いもありました。

この気持ちをちゃんと伝えないと一生後悔する

──“歌”と“CD”の叩き台となった“手紙”を書くのってスムーズでした？

気持ちが不器用なのでけっこう大変でした（笑）。

──気持ちが不器用？

私「人として何か欠けてるのかな？」って思うくらい、自分の気持ちを表に出すのがヘタなんです。みんなが感動してワーって声を上げてるとき、同じように感動してるはずなのに上手に声が出てこなかったり「私、なんか損してる気がするなあ」って思うことが多々あって（笑）。

──だから「courage in my heart」＝「心に勇気を」であったり、「Though I'm clumsy」＝「不器用だけど」であったりというフレーズが出てきた？

そこを英語にしたのは三好さんのアイデアなんですけど「勇気」や「不器用」っていうフレーズは、まさに私だから出てきた言葉ですね。伝えたいことをちょっとしか伝えられていない気もする“不器用”な私のことを応援してくれるみんなに、“勇気”をもって感謝を伝えたかったので。

──そして実際に感謝の気持ちを歌うこと、つまりレコーディングはいかがでした？

サビに向かってどんどんキーが高くなっていく「Light for Knight」もけっこう大変だったんですけど、疲労度は段違いでした（笑）。とにかくコーラスが……。

──「スマイリウム」って楽器の編成はまさに三森すずこサウンド。通常のロックバンドの編成にストリングスが重なる「Light for Knight」と近しいものなんだけど、コーラスワークは決定的に違う。すごく声を重ねてますもんね。

「まだコーラスがある」「まだコーラスがある」って感じだったし、「courage in my heart」や「Though I'm clumsy」みたいな英語詞も多かったから、レコーディングのときに精神的に削られたのはこっちの曲ですね（笑）。あと改めて感謝の言葉を伝えることに対する照れもありましたし。でも「今、この気持ちをちゃんと伝えないと私一生後悔するな」という思いもあって。だから勇気を振り絞って手紙を書いてみたかったし、その言葉をキレイなコーラスに乗せて歌いたかったんです。