無駄がまったくない音楽は面白くないと思う

──曲の作り方についても聞かせてください。「説明できないものは作らない」とどこかでおっしゃっていたのを読んだことがあるのですが、その言葉を証明するように、どの曲もものすごく緻密に作られている印象があるんですよね。

いや、緻密に聞こえるとは思うんですけど、実際はそんな緻密じゃないですよ（笑）。たぶんね、俺がすごい気にしいだからそう聞こえるものになってるんだと思うんです。音楽やってると2秒に1回くらい気になるところが出てくるんですよ。どうやら完璧主義みたいで。だからその、気になってるところをどんどん直していってるだけっていう。修正が多いだけなんじゃないですかね（笑）。

──それを緻密というのでは（笑）。

あははは。そっか。そうかもしれない（笑）。まあでも、やればやるほど小難しくなっていってしまうので、メロディは極力簡単にしようとか、アレンジをやりすぎないようにしようとか、そういうことは考えますね。結果として、バランスのいい状態で出せてるとは思うんですけど。

──その上で一番大事にしていることってなんですか？

面白くないことはやんない、ってことですかね。低迷してた時期を経て、もう1回音楽をやろうと思ったときにそれは決めたんですよ。もうつらい思いをしながら音楽をやるのはイヤだから。自分が面白いと思ったことをどんどん入れていこうと。だから、そういう意味では無駄も多いんですよね、楽曲には。

──それが面白さになると。

そうそう。無駄ばっかだと伝わらなくなっちゃうけど、無駄がまったくない音楽はどうかなって。面白いことがそうそう降りてこないときもあるから危ういっちゃ危ういんですけど、なんとか見つけ出して面白いことを入れていきたい感じは強くありますね。

聴いた人には「面白かった」って最後に言ってほしい

──ただ、その面白さがひとりよがりになると、それもまた聴き手に届かなくなる恐れがありますよね。そのへんの難しさを感じることはないですか？

そのへんの空気の読みはなんとなくできるんですよ。あんまりKYなことはしないっていうか。自分では面白いと思うけど、たぶん聴き手にはウケないなとか、これなら興味もってもらえるだろうなとか、そういうのはなんとなくわかるんです。僕がそれをわかって作ってることをわかってもらえてるかはわからないですけど（笑）。

──僕、今回のアルバムを聴いて、それがすごく伝わってきたんですよ。みきとさんって関西出身ですよね？

そうです。京都出身です。

──いわゆる関西圏の人が持ってるサービス精神というか、楽しませようっていう思いがごくごく自然に楽曲にあふれている気がして。

ああ、それはあると思いますね。関西人をひとくくりにしていいかわからないけど、みんなとりあえず発言は全部面白くないとダメみたいな、そういう空気がありますからね（笑）。東京に出てきてたとしても、なんか面白いこと言ってやろうって基本的には思ってる。そういうのは楽曲にもちょっと出てるのかもしれないです。

──歌詞でもそれは感じました。1曲の中でストーリーが紡がれていって、最後の1ラインでちゃんとオチを作ってる曲が多いなあと。

そう言っていただけるとうれしいですね。そこはかなり意識してます。聴いた人に「面白かった」って最後に言ってほしいっていうのはあるので。例えばサビのリフレインで終わる曲があったとしたら、「え、これどうなっちゃうの？」って俺は思っちゃうんですよ。ちょっと気持ち悪い気がするというか。だからちゃんとオチまで導いてあげたいなっていう方向で今はやってますね。

「サリシノハラ」はまだまだ波紋を呼びそう

──ボカロPとしてのこれまでの軌跡がこうして1枚にまとまったことで、今後のビジョンとして思い描いていることはありますか？

今後の方向としては、引き続き今と同じようなことをやるのか、それともまた新しいことをやるのかっていう部分で実はすごい悩んでるんですよ。ボカロPとして活動することは変わらないんですけど、動画共有サイトは音楽だけではないので、例えば絵師さんと一緒に何かやるとか、マルチな展開を見せていく方向もありだとは思うので。まだどうするかを決めかねてはいるんですけど、今までやってきたことや、今回のアルバムで見せることができた切れ味のある側面が僕にはあるので、きっと眠たいことはしないだろうなとは思ってます。

──ご自身が歌うということに関してはどう考えてますか？ 　バンドでボーカル経験があるわけですし、動画共有サイトではすでに高い評価を得ていますが。

徐々に自分の歌で評価を得てきていることは実感してます。歌の投稿はわりと気分転換でやってるだけではあるんですけど、それでも「CD出してください」っていう声も上がっているので、ちょっと考えてみてもいいかなとは思ってますね。

──じゃ最後に。せっかくお会いできたので、投稿時からさまざまな推測を呼んでいる「サリシノハラ」についても一言もらってもいいですか？

これはもう投稿する時点でいろんなことを言われるのは覚悟してたし、どう転ぶかわかんなかったから怖さも正直あったんですよ。でも、そのへんはもう楽曲のクオリティでねじ伏せようと（笑）。これであんまりよくない曲だと叩かれて終わりだと思ったので。

──いろんな想像をかきたてるタイトルが絶妙だと思いました。

タイトルは、ある程度推測できるものにするのかしないかでめっちゃ悩みました。

──あえて推測できるものにしたと。それがつまりみきとさんが大事にしている「面白いこと」であり、それが聴き手にいろんな刺さり方をしたわけですね。

そうっすね（笑）。この曲のほんとの意味について、俺は一切公言してないんですけど、実はこの後、アナザーストーリーとしてこの曲がマンガになったりもするんです。だからね、まだまだ波紋を呼びそうな感じもあるんで、お楽しみに（笑）。