ナタリー PowerPush - みきとP
完璧主義ボカロPの初アルバム「僕は初音ミクとキスをした」
J-POPに対して偏見を持ってる自分は浅かった
──今の作風がかつてやっていたバンドの流れから生まれたものであるという意味では、みきとさんのボカロ以前の音楽遍歴も聞かないわけにはいかないかなと。音楽活動は12歳からスタートさせたそうですが。
もともと、姉の影響で家庭内には音楽がよく流れていたので、僕も自然と音楽が好きになって。幼少の頃には少しだけピアノを習ったこともありましたし、音楽に触れる機会は多かったと思いますね。で、小6でギターを始めたんです。お笑い番組のエンディングで誰かがアコギを弾いてるのを見てカッコいいなと思ったのがきっかけでしたね。ロックな感じがする、と思って(笑)。そこから中学、高校ではコピーバンドでギター&ボーカルをやってました。
──どんなアーティストをコピーしてました?
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ハイスタ(Hi-STANDARD)、奥田民生さん、あとはeastern youthとかですね。基本はギターを弾いてる感じのバンドが多かったです。中学のときに王道ハードロックをあさっていく中でLED ZEPPELINが大好きになっていたので、ロック好きっていうのは僕の根底にはずっとあると思います。
──そのロック感っていうのは、現在の楽曲にもしっかり受け継がれていますよね。ただ、今のみきとさんの作風には心地よいポップ感もあるわけで。それはどこで手に入れたものなんですか?
それは大学時代に始めたオリジナルバンドの影響だと思います。BUMP OF CHICKENとかGOING UNDER GROUNDみたいな下北系ロックっぽいことをやっていたバンドだったので、そもそもポップな流れはあったと思うんですよ。さらに、そのバンドではCDを出したりもしていたんですけど、所属していたレーベルの方針でJ-POPとしてのエッセンスを盛り込む修行みたいなこともしていたんですよね。ソングライターとして、もっとポップなメロディを作らなきゃなっていう意識でやっていた時期があったんで、その頃に鍛えられたんだと思います。
──ポップな要素を取り入れることに躊躇はまったくなく?
そうですね。最初はJ-POPに対しての偏見があったんですけど、音楽的な部分で突き詰めていくとやっぱりクオリティが高いし、素晴らしいなと思うようになっていたので。偏見を持ってる自分が浅かったなと。しかも、オリジナルのバンドを始めた頃はポップなものよりも自分が作るちょっと外したメロディのほうが絶対カッコいいっていう自信があったんだけど、それがまったく売れなかったわけで(笑)。なので、音楽を長く続けていくためにも、幅広くいろんな音楽を聴くようになったんです。AKB48の曲を聴いて勉強させてもらったりもしてましたから。
バンドを解散した頃、毎日朝からビール飲んで動画共有サイト
──そのバンドがセールス的な部分も含めてうまくいかなくなって、冒頭におっしゃっていた低迷期が訪れるわけですか?
はい。バンドが解散して、ソロで活動してた時期もあったんですけど、それもいまいちよくわからない感じになって。音楽をすること自体が怖くなってしまったんですよ。音楽に触れると、何もできない自分がさらされるというか。他人の音楽を聴いていても、それが全部説教に聞こえてしまう感じもあったし。いい曲に出会ったりすると、「おまえもちゃんとやれよ」って怒られてる気持ちになってしまうから、もう何も聴けなくなっちゃって。かなりヤバかったですよ。毎日朝からビール飲んで動画共有サイトばっか観てるっていう(笑)。
──でも音楽を完璧にやめることを選ばなかったわけですよね。
うん。動画共有サイトなんかを通して、今までとは全然畑違いの音楽、例えばゲームミュージックみたいなものをちらほら聴くようになったことで、そういう音楽性もいいなって思ったりするようになったんですよ。動画共有サイトにゲームミュージックをアレンジしたりとかいろんなことをやってるサカモト教授って人がいるんですけど、彼の放送を観ていてすごくいいなって思えて、自分もまた誰かに音楽を届けたいなってふと思うようになったんです。その辺からですね、だんだんボカロの世界に寄り始めていったのは。
──音楽に対するアプローチとして、今までとは違った刺激を求めていたということなんでしょうね。結果として、みきとさんの根底にある音楽性はずっと変わっていないわけですから。
そうだと思います。今までの自分を一旦リセットして新しい世界に行きたい、新しいことがしたいっていう気持ちだったんだと思います。最初に言ったように、女性に歌ってもらうことを想定した曲を作っていたのも、今までは自分で歌っていたけど、それがもうイヤになっていたからだったりもするので。アイドルの曲もいろいろ聴いていたんで、じゃあ女性ボーカルっていうアプローチをしてみたらどうだろうっていう感じですね。
──ボカロと出会えたのは運命的でしたね。
うん。今までやったことがないという意味で、ボカロを使うことは本当に新鮮でしたからね。
収録曲
- 僕は初音ミクとキスをした / みきとP feat. 初音ミク
- 心臓デモクラシー / みきとP feat. 初音ミク
- 夕暮れツイッター / みきとP feat. miki
- クノイチでも恋がしたい / みきとP feat. 初音ミク、鏡音リン
- 世田谷ナイトサファリ / みきとP feat. 初音ミク
- 東京駅 / みきとP feat. 鏡音リン
- 夕立のりぼん / みきとP feat. MAYU
- 絆創膏 / みきとP feat. 初音ミク
- 非公開日誌 / みきとP feat. GUMI
- いーあるふぁんくらぶ / みきとP feat. GUMI、鏡音リン
- うぇんずでー・ぶるー / みきとP feat. miki
- 刹那プラス / みきとP feat. 初音ミク
- サリシノハラ / みきとP feat. 初音ミク
- SECRET DVD / みきとP feat. 初音ミク
- サラバーにゃカウダ / みきとP feat. miki
- ガリベン広瀬の勝利 / みきとP feat. GUMI
- 小夜子 / みきとP feat. 初音ミク
BONUS TRACK
- kiss / みきーの(みきとP×keeno) feat. 初音ミク
みきとP(みきとぴー)
ボーカロイドを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP。「小夜子」のような心を揺さぶるシリアスなギターロックから「いーあるふぁんくらぶ」のようなアッパーなディスコポップまで、幅広いタイプの作品を発表している。またボカロPとしての活動のほか自身が歌った動画の投稿も行っている。2013年4月には初音ミクをフィーチャーした初のオリジナルフルアルバム「僕は初音ミクとキスをした」をリリースした。