みきとPが11月18日にニューアルバム「DAISAN WAVE」をリリース。また164が12月5日にニューアルバム「IVIIV」を発表する。
みきとPは今年4月にVocaloidの音声に自身の歌声を合わせたデュエット曲「ロキ」を発表し話題を呼び、164は昨年のワンマンライブでボカロ曲を自身で歌う選択をするなど、ボカロPとしての枠を超えた活動で注目を集めている。音楽ナタリーでは2人のアルバム発売を記念して対談を企画。お互いのアルバムの感想を交えながら、ボカロシーンへの思い、音源やライブで楽曲を表現する際のこだわりなど語り合ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 後藤倫人
ボカロの音楽の主役は
──お互いの作品に関する話を聞く前に、お二人が共演した昨年4月の164さんのワンマンライブについて話を伺えればと思います。昨年のワンマンライブでは164さんがマイクを取って自身のボカロ曲を歌い、ファンを驚かせました(参照:164、初ワンマンで自身のボカロ曲を熱唱「曲に込めた思いはこれが一番伝わる」)。
164 皆さんに驚かれました(笑)。あれにはちゃんと理由があって、まずワンマンライブをやるに当たってライブハウスで開催することと、バンドで演奏することが決まってたんです。ちょっとネガティブに聞こえてしまうかもしれないんですけど、ライブハウスとバンドとボカロの声っていう組み合わせがピンとこなくて。かと言って、僕の初めてのワンマンライブで入れ替わり立ち代わりでゲストボーカルを入れていくっていうのもなんか違うと思ったから、自分が書いた歌詞を自分で歌おうって決心したんです。
みきとP 「ライブの中で数曲歌う」っていうんだったらそんなに驚きはなかったんだけど、ひろし(164の愛称)さんが全曲自分で歌うって聞いたときはちょっと驚きました。でも今ひろしさんが話してくれたような理由は僕にもすごく理解ができて。要は僕らの作ってるボカロの音楽ってパッと見は歌が主役だし、みんなには歌を楽しんでもらっているけれども、本当の意味での主役は作家なんだと思ってるんです。
164 そうですね。
みきとP その感覚があるからこそ、ボカロが主役っぽく映るワンマンってのがピンと来なかったのかもしれませんね。
──みきとさんはシンガーソングライターとしての活動もあるので、すでにご自身で歌唱するライブを何度も実施していますよね。
みきとP そもそも僕は自分のことをシンガーソングライターとはあまり思っていないんですよね。もちろん歌うこともあるんですけど、それは自分の表現方法の1つの側面でしかないと言うか。だから自分なりのスタイルが確立されているとかそういうわけでもなくて、年に1回くらい大きなイベントに出てライブをして、アルバムができたタイミングでワンマンライブをするくらいがちょうどいいんです。
164 みきとさんはどちらかと言うと作家としてのカラーが強い気がします。
みきとP うん。そういうひろしさんは作家としての存在感と、ギタリストとしての存在感、どちらも持っているよね。
164 自分で歌ってみてわかったことは、やっぱりリードギターを弾きながら歌うのは無理だなってこと(笑)。
──ライブ中のMCで164さんは「曲に込めた思いは自分で歌うほうが伝わる」と語っていました。ただ、今回リリースされるアルバム「IVIIV」はVocaloidを使ったアルバムですよね。
164 ライブをやるときはそう感じて、MCでそう話しているんですけど、僕はやっぱり基本的にはリードギターなので、作品として形に残すなら今回の「IVIIV」のような形が正しいと思っています。
ボカロと人間のデュエットに必要だったもの
──自分で歌うか、ボカロが歌うか、みたいな選択肢がある中でみきとさんが2018年4月に発表した「ロキ」という楽曲は、人間とVocaloidのデュエットという裏技的な選択をした1曲だと思うんです。
みきとP 「ボカロと人間にデュエットさせよう」という構想自体は数年前からあったんです。でも数年前にはそれが受け入れられる土壌がまだなかった。
164 わかる気がする。
みきとP 基本的にボカロの声と人間の声って混ぜにくいんですよ。世界観が違いすぎて、ボカロがメインで人間の声が入ってくると冷めちゃうだろうし、人間がメインでボカロの声が入ってきちゃうとちょっとしたサンプル素材を使っているような感じになって、同軸で2つのボーカルが受け入れられないだろうなと思っていて。
──数年前と今で何が変わったんでしょうか?
みきとP 界隈にいろんな人が出てきて、みんなやりたいことをやり出していて、それが受け入れられる空気感を最近は感じていて。時期としてそろそろいいかなと思って作ったのが「ロキ」だったんです。
164 僕、最初に「ロキ」を聴いたときはみきとさんとボカロがデュエットしてるとかそういう要素じゃなくて、ただ単純にカッコいいなと思ったんですよ。ボカロと人間の声が両方入ってる違和感はまったくなかったんですよね。
みきとP もちろん、僕の声とボカロの声が違和感なく混ざるようにテクニカルな部分はけっこう気を使ってがんばりました(笑)。それに僕の場合はちょこちょこライブにも出させてもらっていたので、僕の声を聴いたことがある人たちも多くて、「みきとが歌うならアリかな」みたいな感じで受け入れてもらえたのかもしれないですね。
164 みきとさんのファンもボカロのファンも、僕と同じようにそんなに違和感を感じなかったんじゃないかな。もちろん界隈の土壌も変わってきたと思うけど、「ロキ」はみきとさんのこれまでの活動があったから受け入れられた曲だとも思いますね。
──昨年8月は初音ミクの発売10周年のタイミングということもあり、動画共有サイトを中心にVocaloidにまつわるカルチャーが改めて注目された時期でした。お二人は昨年の盛り上がりをどう感じていたんですか?
みきとP 自分は改めてボカロ曲に向き合っているタイミングと初音ミクの発売10周年のタイミングが被っていたんですよね。だから世間の盛り上がりと自分の中の盛り上がりが一致していた部分があるんですけど、それは単なる偶然だと思っていて。「10周年だから新しく曲を作った」みたいな感じではなかったんですよね。
164 僕も「10周年だからどうこう」みたいなことはまったく考えてなくて、シンプルに「10年なんだ、おめでたいですね」って感じでした(笑)。
──「初音ミクの10年」という企画の中でいろんな方々にお話を伺っていたんですけど(参照:初音ミクの10年~彼女が見せた新しい景色~)、お二人のようにずっと活動し続けているクリエイターたちからは「10周年という節目はあまり関係ない」というお返事が多かったです。
みきとP ホントそうなんですよね。僕らってボカロシーンを盛り上げるために作ってるとか、そういう意識って全然ないんですよ。
164 うん。僕もそういう気持ちはゼロですね。だから「ボカロシーンの今後はどうなっていくと思いますか?」とか聞かれると困っちゃう(笑)。
みきとP 正直これからどうなるかなんてわからないし、言ってみれば自分らが作り続ける限りシーンは存在し続けるし、自分らがやらなくなれば盛り下がるだろうなって感覚なんですよね。
第3世代の第3の波
──みきとさんのアルバム「DAISAN WAVE」の1曲目「DAISAN GENERATION」は、みきとさんがたびたびインタビューなどでご自身のキャリアを語る際に話している「第3世代」という表現に由来するものですよね。
みきとP そうです。“第3世代”って自分が言ってるだけだから明確な定義があるわけじゃないんだけど、黎明期に曲を上げ始めた人たちを第1世代だとすると、僕がやり始めた時期ってだいたい第3世代なのかなって。
164 それで言うと、僕って第何世代ですか?
みきとP ひろしさんはどこにも入らないんじゃないですかね(笑)。別枠と言うか、そういう流れの中に属していない感じと言うか。
164 ありがとうございます。「ありがとうございます」って言うのが正解なのかわからないんですけど(笑)。ちなみに第2世代に属するのはどういう方々なんですか?
みきとP 第2世代はハチさんとか、wowakaさんとか、古川本舗とか。その次が第3世代。自分が定義したものだからそう意識してる人はそんなにいないとは思うけど、僕ら第3世代の人たちの中にはまだがんばっている人もいれば、ボカロで曲を作ることを止めてしまった人もいる。そんな中で僕は「ロキ」という曲が書けてちょっと勢いが付いて、1つ波が作れた気がするんです。それが自分のキャリアの中で3回目の波なんです。
164 あ、それで「DAISAN WAVE」なんですね。
──みきとさんの中で、第1、第2の波はいつでしたか?
みきとP 今振り返ってみれば、という感じなんですけど、例えば「いーあるふぁんくらぶ」とかを発表したときは大きな波があったような気がする。そのあと自分でボカロアルバムを出して、それを多くの人に聴いてもらっていろんな場所でライブができたときが第2の波。そしてここ最近で第3の波がきてるのかなって思ってます。
164 「DAISAN WAVE」の収録曲「信じる者は救われない」は、それこそ“第2の波”の頃のみきとさんを思い出した気がしたんです。曲調とか。
みきとP 実はその辺をすごく意識したんです。当時の自分のサウンドを再現しようと思って、当時のプラグインとかの環境をちょっと意識してるし、ミックスも以前の感じを再現してます。伝わってよかった。
164 やった。大正解(笑)。あと個人的には9曲目の「愛の容器」がすごく好きで。
──「愛の容器」はVocaloidの声に常にみきとさんの歌声を被せている曲ですよね。
164 あ、そんなに意識してなかったけどそうですね。そう言えば「福寿草」ではみきとさんとmajikoちゃんが声を被せてましたよね。それもあって、違和感がなかったのかも。
みきとP 僕の中で、男性ボーカルを女性のオクターブ下で重ねるとすごく優しい曲になるってイメージがあって。原体験をたどっていくと、宮沢和史(THE BOOM)さんと矢野顕子さんの「二人のハーモニー」って曲の柔らかい印象が記憶の中に残っていて、この手法を取るときはいつもこの曲を思い出してます。
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「少女レイ」のモチーフ
- みきとP「DAISAN WAVE」
- 2018年11月18日発売 / 愛島工房
-
[CD]
IJKB-0005※イベント「THE VOC@LOiD M@STER41」ほかで限定販売
- 収録曲
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- DAISAN GENERATION -instrumental-
- 信じる者は救われない
- ロキ
- PLATONIC GIRL -VOCALOID ver.-
- 少女ふぜゐ -VOCALOID ver.-
- 少女レイ -FUMIKIRI ver.-
- だいあもんど
- NのONE
- 愛の容器
- 39みゅーじっく!
- Tears River
- ヨンジュウナナ -VOCALOID ver.-
- アカイト -VOCALOID ver.-
- 来来!いーある飯店。
- 少女レイ -feat.みきとP-
- 164「IVIIV」
- 2018年12月5日発売 / EXIT TUNES
-
[CD] 3000円
QWCE-00694
- 収録曲
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- World End Heaven
- 残響
- Jumble Jungle
- I'm here
- PAST
- STILL GREEN
- 今宵の緋い月の下で
- 種と仕掛けと君のうた
- 大嫌いシーズン / 1640mP
- 僕はまだ死ねない
- 終わりにしよう
- shiningray [Ver.2018]
- みきとP(ミキトピー)
- Vocaloidを使用したオリジナル曲を動画サイトで発表するボカロP、シンガー。アイドルやアニメソングなどの楽曲提供を行うなど作家活動も行う。「小夜子」のような心を揺さぶるシリアスなギターロックから「いーあるふぁんくらぶ」をはじめとするアッパーなディスコポップまで、幅広いタイプの作品を発表している。2013年4月に初音ミクをフィーチャーした初のオリジナルアルバム「僕は初音ミクとキスをした」をリリース。2015年11月には本人歌唱曲のみで構成されたアルバム「MIKIROKU」を発表した。2018年2月に公開した「ロキ」はYouTubeとニコニコ動画合わせて1200万回を超える再生数を記録(2018年11月時点)。同年11月には「ロキ」を含む15曲を収録したアルバム「DAISAN WAVE」をリリースした。
- 164(イチロクヨン)
- 2008年9月に発表した「shiningray」より、動画共有サイトにボーカロイド楽曲を発表しているボカロP。自らのギター演奏によるパワフルなロックサウンドと、クオリティの高い調声で一躍注目される。2009年に1stアルバム「EXIT TUNES PRESENTS THE COMPLETE BEST OF 164 from 203soundworks feat. 初音ミク」をリリース。EXIT TUNESが主催するライブイベントでは持ち前のギタープレイを披露し、プレイヤーとしても注目を集めている。2014年7月、キャリア初のベスト盤「THIS IS VOCAROCK」を発表した。2018年12月には自身の活動10周年を記念したニューアルバム「IVIIV」を発表する。