MIGHTY CROWNインタビュー|妬みや差別を乗り越えて、DIYで道を切り開き続けた30年のサウンド活動 (2/2)

世界中どこに行っても、こういう音楽が好きな連中がいるんです

──1995年にスタートしたMIGHTY CROWN主催のレゲエフェス「横浜レゲエ祭」も、日本のレゲエシーンにとってきわめて重要なイベントだったと思います。ライブハウスから始まって、2006年には神奈川・横浜スタジアムで開催。3万人規模のビッグフェスに成長しました。

MASTA SIMON 最初は50人、100人から始まって、何千人、何万人になって。ショーン・ポールが世界的にヒットしたり、いろんなことがリンクしたんですよね。

SAMI-T 日本のレゲエアーティストがメジャーデビューして、世界的なヒット曲が出て、自分たちのライブやフェスの動員も増えて。

COJIE 一時はブームなっていた時代もありましたね。

SAMI-T 「横浜レゲエ祭」に行ったことがあっても、MIGHTY CROWNを知らない人とか、ざらにいましたから(笑)。でも、それでいいと思うんですよね。俺らのことや曲をよく知らなくても、「横浜レゲエ祭、めちゃくちゃ楽しかった」と思ってもらえれば。

MASTA SIMON 今の40代前後で関東に住んでる人だったら、10人に1人くらいは行ったことあるんじゃないかな。それくらい浸透したし、横浜レゲエ祭に行くのがステータスみたいになってました。

MIGHTY CROWN

MIGHTY CROWN

──MIGHTY CROWNが幅広くフェスやイベントに参加したことも、ダンスホールレゲエが広まった大きな要因だと思います。

SAMI-T 相乗効果ですよね。ただ、最初にも言いましたけど、自分たちはただ単に楽しいこと、「これはヤバイ」と思うことを続けてきただけで。そこに共感してくれる人がこれだけいた、ということなんですよね。ダンスホールレゲエはジャマイカやアメリカはもちろん、ヨーロッパにも広がっていて。

COJIE 最近は中南米もすごいことになってるんですよ。

SAMI-T コスタリカとかコロンビアとかね。

COJIE ブラジル、メキシコとかね。

SAMI-T 僕らのインスタに送られてくるコメントも、海外が多いんですよ。

MASTA SIMON SNSのフォロワーは7割くらいが海外で、日本は3割くらいなんです。自分たちは今もメジャーではないし、誰もが知っている存在ではないけど、世界中どこに行っても、こういう音楽が好きな連中がいるんですよ。主要な都市には代表的なサウンドシステムが存在しているし、ライブをやれば必ず誰かが集まってくる。どこかでつながってるんですよね、自分たちも。

ジャマイカで味わった天国と地獄

──レゲエはブラックカルチャーに根差している音楽ですが、黒人の歴史や文化と切り離せない音楽を日本でやることの意味をどんなところに感じていますか?

SAMI-T なるほど、いい質問ですね。

MASTA SIMON 日本でやることの意味か……。最初は「カッコいい」という単純なところから始まってるんですよ。日本にはまったくないカルチャーだし、歴史や文化なども知らず、「カッコよくない?」というのが最初の動機で。

COJIE そうだね、正直(笑)。でも初めて海外でライブをやってから、いろいろ考えるようになったかな。

SAMI-T うん。俺はメッセージに惹かれましたね。ボブ・マーリーが歌っていることもそうだけど、リリックにすごく感動したし、これを自分たちのフィルターを通して、日本に伝えたいと思いました。

──2020年にBlack Lives Matterが全米を巻き込んだ運動に発展したときも、ヒップホップ、R&Bのアーティストを中心に、日本のアーティストの間でも「アクションを起こすべきでは」という議論が広がりました。

MASTA SIMON そうですね。MIGHTY CROWNのメンバーにはジャマイカ人もいるし、マネージャーも黒人なので、まったく他人事ではなくて。アメリカでの黒人の扱われ方も知っているし、差別的な扱いを受けているところを実際に何度も目にしているんですよ。ただ、俺らの立ち位置もかなり特殊なんですよね。

SAMI-T 複雑だよね。もちろん黒人が置かれている立場もわかるし、差別はなくすべきだと思う。ただ、俺らも黒人にめちゃくちゃいじめられてきたんですよ。初めてジャマイカに行ったときもひどくて。こっちの気持ちはボブ・マーリーよろしく“One Love”なんだけど、それがまったく通じなかった。

COJIE 人生の厳しさを感じたね。

SAMI-T まさに。

MASTA SIMON 20数年前は今より治安もよくなかったし、俺らが泊まっていた地域はやんちゃなやつらが多かったんですよ。そこに「レゲエが好き」みたいなアジア人が来たら、そりゃカモられますよね(笑)。

SAMI-T もちろん音楽は最高なんですけどね。ただ全然受け入れてもらえなかったし、悔しくて負けた気分になって。

COJIE 正直「二度と来ない」と思ったよね(笑)。

SAMI-T 思った(笑)。でも、2度目に行ったときは……。

MASTA SIMON 「最高!」って(笑)。

SAMI-T 2回行って、いい面と悪い面を体験しました(笑)。僕らがやってることは同じなんですけどね。ダブ・プレート(一般にリリースされない1枚だけのオリジナルのアナログ盤)を取りに行って、レコーディングして。

MASTA SIMON 天国と地獄くらい違ったよね(笑)。普通だったら見られないものを見て、体験できないことを味わって。いいところも悪いところも全部受け止めなくちゃいけないと思うんですよ、こういう音楽をやるためには。うわべだけのLOVEは通用しない世界なので。

SAMI-T ケチョンケチョンにやられたけど(笑)、強くなれましたね、人間として。

COJIE 現実を知ると強くなるよね。いいことばかりじゃないなって。

MASTA SIMON うん。表も裏もあるのが人間だし、音楽にはそれが全部出ると思うんですよ。

MASTA SIMON

MASTA SIMON

──世界の厳しさを目の当たりにしたからこそ、得られるものがあったと。

MASTA SIMON そうですね。サウンドクラッシュにしてもそうで。勝てば勝つほど、ファンだけじゃなくて敵も増えていきますから。妬みも差別もたくさん受けましたよ。

COJIE それも宿命だね。

MASTA SIMON いろんなことをやられましたから。「え、裏でそんなことされてたの?」というようなこともあったし。

SAMI-T ブーイングも食らいましたね。向こうはお客さんの態度がハッキリしていて、よければ「お前ら、最高だ!」ってめちゃくちゃ盛り上がるし、ダメならすごい勢いでブーイングして帰っていくので。日本だとほとんどないでしょ、そんなこと。

MASTA SIMON みんな温かいからね。

SAMI-T 向こうのブーイングは怖いですよ。ステージに投げ込まれたボトルが頭に当たって、血を流しながらライブをやったこともあるし。

──ええっ?

MASTA SIMON それは俺らに投げたわけではなくて、サウンドクラッシュの判定に不服だったやつが投げたんですけどね。

SAMI-T 凹みますよ、本当に。普通だったらサウンドクラッシュなんて辞めてると思う(笑)。もちろん、いい経験もたくさんありますけどね。ブーイングに立ち向かってライブを続けて、歓声に変えたこともあるし、そのたびに「また上に行けた」という実感があって。単にブーイングの免疫ができただけかもしれないけど(笑)。

MASTA SIMON そうかもね(笑)。

SAMI-T いいことも悪いことも、両方ないとダメだと思うんですよ。その2つがあるからビルドアップできたんだなって、30年を振り返って実感しますね。

MASTA SIMON うん、すべてをエネルギーに変えてきたので。

MIGHTY CROWN。彼らが所属する事務所のオフィスには、サウンドクラッシュで獲得した数々のトロフィーが飾られている。

MIGHTY CROWN。彼らが所属する事務所のオフィスには、サウンドクラッシュで獲得した数々のトロフィーが飾られている。

最後の挑戦は日本初のミュージッククルーズ

──今年9月のシルバーウィークには、世界最大級の豪華客船による新しいエンタテインメントクルーズ「Mighty Crown 30th Anniversary -The Final- FAR EAST REGGAE CRUISE」を催行します。クルーズ船に乗って5日間のイベントを楽しむという、日本初のプロジェクトですね。

MASTA SIMON クルーズイベントは世界中でやってるし、俺らも何度か経験しているんですよ。ヨーロッパはもちろん、タイやシンガポールにもあって。ただ日本ではこれが初めてですね。

SAMI-T エンタメ業界では初だよね。

MASTA SIMON うん。しかもめちゃくちゃ規模がデカいんですよ。船の大きさも、横浜のランドマークタワーよりデカくて(笑)。

MASTA SIMON MIGHTY CROWNのサウンド活動のファイナルとして、とにかくすごいことをやりたかったんです。30年の活動の中でミュージッククルーズを超える楽しさはなかったから、それをぜひ日本でやりたくて。これもサウンドシステムと一緒で、説明しないとピンとこないと思うんですけど(笑)、まず日本人はクルーズで旅行する習慣がないじゃないですか。

COJIE シニアの世界旅行みたいなイメージだよね。

MASTA SIMON ミュージッククルーズはそうじゃなくて、フェス、クラブ、海外旅行、食事、リゾートのすべてを船の中で体験できるんですよ。こんなエンタテインメント、ほかにないと思います。

SAMI-T しかも世界レベルのクルーズですからね。世界との距離を意識しているのは、今も同じなので。

MASTA SIMON 具体的に言うと、メインデッキが野外ステージになっていて、毎晩ショーが行われるんです。

SAMI-T しかもメンツがすごくて。詳細は追って発表しますけど、このラインナップは二度とないんじゃないかな。

MASTA SIMON 船内に100m四方くらいのショッピングモールがあるんですけど、LEDで囲まれていて、夜はクラブになるんですよ。そのほかにも大人が楽しめるラウンジだったり、ジムやフットサルのコート、ボーリング場やプールもあって。

──めちゃくちゃ楽しそうですね!

MASTA SIMON そうでしょ? フェスやイベントとも違う5日間を過ごしてもらえるはずだし、クルーズの中でいい出会いもあると思うんですよ。

SAMI-T クルーズに乗っているだけで、一体感がすごいんですよね。たぶん陸に戻ってからも、クルーズで一緒だった人に会うとすぐにクロースな関係になれると思う(笑)。

COJIE いいバイブスがずっとあるからね。

MASTA SIMON 日本初のミュージッククルーズ、ぜひ皆さんに体験してほしいですね。俺らにとってもファイナルを飾るデカい挑戦なので。

MIGHTY CROWN

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プロフィール

MIGHTY CROWN(マイティークラウン)

1991年に神奈川・横浜で結成されたレゲエサウンド。設立からのメンバーであるMASTA SIMONとSAMI-Tの兄弟2人と、ファンデーション担当のCOJIE、アメリカ・ニューヨーク在住のNINJAで構成される。選曲やMCの妙で誰が一番観客を盛り上げたかを競うサウンドクラッシュに積極的に取り組み、1999年にアメリカ・ニューヨークで行われた「WORLD CLASH in New York」で優勝。アジア人初のサウンドクラッシュ世界一の称号を勝ち取った。2017年にはボブ・マーリーファミリーが主催する、カリブクルーズ船上でのサウンドクラッシュで3連覇を果たし、翌2018年にはジャマイカでの世界大会「WORLD CLASH 20th Anniversarry」で優勝。世界屈指のサウンドとして北米、カリブ諸島、ヨーロッパなど、海外各地を沸かし続け、これまでに11個の世界タイトルを獲得した。2021年に、翌年9月をもってサウンド活動を休止することを発表。休止前のファイナルステージとして、日本初のエンタテインメントクルーズ「Mighty Crown 30th Anniversary -The Final- FAR EAST REGGAE CRUISE」を催行する。