ナタリー PowerPush - ミドリ
制服を脱ぎ、童貞を捨て、経験という武器を得て──最高傑作「shinsekai」ついに完成!
ミドリが2年ぶりのフルアルバム「shinsekai」を完成させた。この作品はバンドの現在を大きく更新する、まごうことなき最高傑作。ナタリーはすかさず取材を申し込み、小銭喜剛(Dr)、後藤まりこ(Vo,G)、ハジメ(Key)の3人に話を訊いた。
インタビューで後藤まりこは「もう洗いざらい全部しゃべるわ」と制作の裏側を明かし、ハジメは童貞を捨てるに至った経緯を語る。このアルバムが作られるまでの2年間、バンドにいったい何があったのか。ここでしか読めない貴重なテキストをじっくりと味わってもらいたい。
取材・文/大山卓也
前のアルバムは一生懸命すぎてあんまり良くなかった
──2年ぶりのアルバムですよね。新作の話をする前にまず訊いておきたいんですが、前作「あらためまして、はじめまして、ミドリです。」って、今振り返ってみてどういうアルバムだったと感じてますか?
ハジメ(Key) そうですねえ、まあ粗いなっていうのは思います。曲はいいんですけど。
──今のライブでやってる定番曲がたくさん入ってますよね。
ハジメ 「ゆきこさん」だったり「ハウリング地獄」だったり。すごくいい曲だとは思うんですよ。
──なんだか煮え切らないですね(笑)。後藤さんは?
後藤まりこ(Vo,G) んー、あの時期はたいへんやったなあって思う。
──たいへんっていうのは?
まりこ いや、今思ったらな。そのときはがんばろうって思ってやっとったけど、今こう振り返って聴いたら、あんま良くないねんな。
──それは録音がうまくいかなかったということですか?
まりこ 曲は好きやで。せやけどCDがあんま良くないなあってボク思うねん。もうちょっと時間かけて作ったりな、愛情持ってあげたらよかったなと思って。なんか出すことに対して一生懸命過ぎて、うーん、もうちょっとちゃんとできたらよかった。
──メジャーで初めてのフルアルバムということで、気負いみたいなものもあった?
まりこ うん、気負いはあったと思うよ(笑)。
──ですよね。正直そういう印象は受けました。
まりこ うん。いろいろ考えとってさ、AmazonってCD買うとこあるやん。それでな、家に最近パソコンが導入されて、インターネットができるようになってんな。ボク、インターネット嫌いやねんけどインターネットの通販を好きになって(笑)。なんかそれで、Amazonでな、CD自分のも売ってるやん。で、見たら「レビュー」って書いてるのな、星が付いてて、あれ5点満点やねんな。で、「あらためまして」が平均点3点やねん。
──ああ、いろんな人が点数つけてますよね。
まりこ そうそう、5点の人もいれば1点の人もおって。で、ボクわざと悪いコメントのとこばっかり読んでてん。あんまり覚えてないけど、まあ「ダサい」とか「あんまり好きやない」とかそういうやつ。せやけどなんか1人、点数ひっくいのにめっちゃいいこと書いてあって。「このCDは、ミドリのメンバーと関係者の私利私欲を肥やすためのものだ」みたいなことが書いてあって「あなたたちの才能は本物だから、10年くらいかけてもっといいCDを作ってください」っていうメッセージみたいなのも書いてくれてて、ボクはそれを見てすごい感動して。ちゃんと聴いてくれてんやなって。
小銭喜剛(Dr) へえー、そんなんあるんや。
──その人はミドリ自体が嫌いなわけじゃないんですね。
まりこ いや、多分すごい好きやねん(笑)。「セカンド♥」と「清水」と「あらためまして~」のレビューを書いてくれとるんかな。で、見ていったら「セカンド♥」はもうバリほめとんねん。しかも言ってることがすごい的を射てて。うん、ハッとさせられた。
──それはやっぱりその人の批評に、自分でも思い当たるところがあったということ?
まりこ あった。なんか、すごいなと思った。やっぱ客観性を持たなあかんね。で、その批評が優しいねん。批評っていうのは、普段はそんな見いひんようにしてんのよ、自分の精神状況に対して害やと思ってるから。でも、それは見てよかった。
ミドリ
2003年7月に小銭喜剛(Dr)と後藤まりこ(Vo,G)を中心に、大阪で結成されたロックバンド。ジャズ的要素を盛り込んだサウンドと、紅一点の後藤による観る者を釘付けにする強烈なパフォーマンスが、アンダーグラウンドシーンで話題となる。幾度かのメンバーチェンジを経て、2004年にハジメ(Key)が加入し、2005年に1stアルバム「ファースト」をインディーズレーベルからリリース。2007年にはメジャーに移籍し、ミニアルバム&ライブDVDの2枚組作品「清水」を発表して注目を集める。2008年に新ベーシスト、岩見のとっつぁんが加入。2009年6月の日比谷野音ライブを最後に、後藤はそれまでトレードマークだったセーラー服の衣装を捨て、バンドは新たなステージへ。2010年5月には、約2年ぶりとなるフルアルバム「shinsekai」をリリース。