“とにかくギターがうまい人”と“界隈で飛び抜けてすごい人”
──meiさんと鳥居さんが初めて会ったのはいつ頃ですか?
mei ehara 10年以上前ですね。友達に誘われてライブハウスに行ったら、そのイベントにトリプルファイヤーが出てたんです。昔から洋楽ばかり聴いていたので日本のバンドについてまったく詳しくなかったんですが、トリプルファイヤーはすごくカッコよかった。その後は自主的にライブを観に行くようになって、共通の友人もいたりして、鳥居くんと話すようになりました。
──10年前だったらmeiさんはmay.e名義で音楽活動を始めた頃ですよね。
mei 13、4年前なので、もうやってましたね。曲を作ってSoundCloudに上げたり、自主でCD-Rを作ったりしていました。
──当時はお互いにどんな印象がありましたか?
mei 当時は鳥居くんのパーソナルな部分は知らなかったので、「とにかくギターがすごくうまい人」という印象です。鳥居くんが弾いてるギターが好きだったので、いつかバンドをやるときは彼に弾いてもらいたいと思ってました。ちょっとしたフレーズであるとか、間の取り方であるとか、私の好きな要素が詰まっていたんですよ。
──鳥居さんはいかがでしょう?
鳥居真道(トリプルファイヤー) なんて言うんですかね……インディー界隈で音楽をやってる人の中でも飛び抜けてすごい、というイメージでした。
mei えーっ?(笑)
鳥居 いや、本当に(笑)。当時から歌とかメロディにオリジナリティがあったし。いつか一緒にやってみたいという気持ちもありましたよ……僭越ながら(笑)。
ちょっとカート・コバーンみたい
──今の鳥居さんから見て、meiさんのボーカリスト / ソングライターとしての特徴や魅力はどういうところにあると思いますか?
鳥居 メロディの動き方がすごく独特なんですよね。こんな動き方するの?という感じで、ちょっとカート・コバーンみたいなんですよ。特徴的だし、ありきたりじゃない。そこにmeiちゃんの声が合わさって、ほかの人にはないものになっていると思います。
──そういうmeiさんの声に対し、鳥居さんはギタリストとしてどのようにアプローチしようと意識しているのでしょうか。
鳥居 自分はオタク気質なので、「この曲だったら、こういうことをやったらハマるな」っていうものが見えちゃうんですよね。meiちゃんとやるときは、あえてそういうことはやらないように意識しています。なるべくありふれたものにならないよう、自分の癖に寄せていったり、その場で思い付いたことに重きを置いたりしています。
mei デモの音源をバンドメンバーのみんなに渡すとき、ギターのパートは入れていないことが多くて。絶対に入れたい特定のリフなんかは自分で作って彼に弾いてもらったり、自分で弾いたりしていますけど、それ以外は「鳥居くんの好きにやって」という感じで信頼しています。
──基本お任せなわけですね。
mei そうですね。私は「この曲を完成させるため、あの名曲のあの雰囲気を取り入れてみよう」というような、特定のロジックに沿ったことは避けたいんです。鳥居くんはちゃんとロジックをかいくぐって工夫しながら弾いてくれる。それでも私が目指したい曲のイメージが変わってしまうことはないし、何よりも鳥居くんのギターが好きなので、鳥居くんに任せていれば、自然に私がいいなと思えるところに収まるんです。
──信頼関係ありきのやり方ですよね。鳥居さんはちょっと大変そうですけど。
mei そうだと思います(笑)。
鳥居 まあ、大変ですね。このバンドは鍵盤のメンバーもいるので、役割が被っちゃうところもあるし、メロディの邪魔をせず、かつ印象的なこともしなきゃいけないわけで。
「meiちゃんがやりたいことをやる」
──今回のアルバムを作るにあたって、音楽面ではどんなことを意識していたのでしょうか。
mei メンバーはみんな「このアルバム、どんなものになるんだろう?」と感じていたと思います。「どこに向かってるんだろう?」と。(鳥居のほうを向いて)そうですよね?
鳥居 確かに、制作には長い時間がかかりました。アルバムとしてのイメージがまずあり、そこに向かって進んでいくという作り方ではなくて、一歩一歩考えながらやっていって。振り返ってみると、今回は「meiちゃんがやりたいことをやる」ということははっきりしていたと思います。それだけが指標みたいな。
──前のアルバムはほぼ全曲リズムパターンから作っていったそうですね。その分、1曲ずつリズムが違い、音楽面ではすごく多彩な作品になったわけですが、今回はリズムのループ感が重視されているように感じました。
mei 前半で話したように、制作のプロセスとしてロールプレイングゲームを思い描きました。曲作りをするとき、以前からゲーム音楽のようなループする音楽の影響が大きいんですが、今作にもそれが表れていると思います。今まで以上にわかりやすいループを取り入れるために、レコーディングしたドラムを切り出して並べ変えたり組み合わせたりしてループさせている音源もあります。
──例えば「風景が」とか?
mei そうですね。
成長に第三者からの影響は必要不可欠
──その「風景が」では中盤で鳥居さんのスライドギターが暴れる場面がありますし、「ゲームオーバー」でも鳥居さんのギターが大活躍しています。meiさんの歌に寄り添うだけではなく、少しだけはみ出す感覚は前作になかったものではないかと。
鳥居 そのへんはmeiちゃんのリクエストでそうなりました。
mei 私は鳥居くんのギターがすごく好きなので、以前から見せ場を作りたいと思っていました。去年のアメリカツアーで「ゲームオーバー」を披露したら、自然にすごく盛り上がったんです。鳥居くんが目立ってほしいパートで実際に盛り上がったということがすごくうれしくて。こういう曲をもっと作りたいなと思って「風景が」のあのパートを作りました。
──そこまで考えてくれるバンドリーダーはなかなかいないですよ(笑)。
mei ありがた迷惑かな?(笑)
鳥居 いやいや、ありがたいですよ。アメリカで「ゲームオーバー」と「風景が」を演奏するとすごいんですよ。お客さんの声でギターの音がかき消されるぐらい。
mei その光景を見ていると、私が気持ちいい(笑)。今回のアルバムに関して、ライブでやることを想定しながらアレンジを考えたところがあるかもしれないですね。
──1つ気になったのが、今回は前のアルバムに比べてコーラスが多くないですか?
mei 確かにダブリング(同じメロディを複数回録音し、それらを重ねること)は多いかもしれないですね。1人で音楽を作っていた頃はよく声を重ねていたんです。今回は自分のやりたいことを出し切ろうと考えていたので、原点に戻るという意味でも二声を重ねた曲を作るのもいいんじゃないかと思いました。
──「風景が」でハモってるのは誰ですか? 男性の声に聞こえるんですが。
mei あれは自分の声のピッチを下げてるんですよ。「風景が」では自分の二面性みたいなものを出したかったので、ちょうどいいかなと。誰かにイメージや印象を決めつけられることもあるけど、何かを決定したり、自分が成長したりするうえでは第三者からの影響は必要不可欠だと思うんです。この曲ではそういうことを歌いたかった。
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夢見心地のまま終わったアメリカツアー