結成12年目にして初経験した「バンドっぽい作り方」

──舞子さんは今回のアルバムでのご自身の声に関してどう感じていますか？

片桐　私は自分の低いキーの声が一番好きなんですけど、今回はそれをふんだんに使うことができたなって思います。今まではわりと高いキーの曲を作ることが多かったりもしたけど、今回はすごく自由にできたというか。

──それってソロの影響もあるんじゃないですか？ ソロアルバムではディープな内容に合わせて低めの声をしっかり聴かせてくれていましたよね。

片桐　そうそう。ソロアルバムで自分の声の低い部分を使ってみたことがすごく面白かったんですよ。そこで改めて「やっぱり低い声が好きだな」って思い返せたのが、今回の作品を作る上でいいクッションになったところはあったかもしれないです。MAY'Sとしても、もっともっと自分のいい部分は出していってもいいんじゃないかなって。

河井　今回はすべての歌録りを自宅スタジオでやったんですけど、それもよかったと思うんですよね。レコーディングの環境がずっと一緒なので声的にも安定するところがあるし、いろいろ融通が利くというか。

片桐　そうですね。やりたいことをとことんやれるし、作業自体すごく早くなりますしね。

河井　うん。必然的にOKテイクも2人だけで決められるからすごくスムーズ。そもそも舞子はこちらが求めているものを瞬時に読み取るスキルが高いから毎回作業は早いんですけどね。そういった部分もソロで海外のアーティストと一緒に作業してみて改めて感じたことではありました。

片桐　歌入れもそうですけど、今回は自宅スタジオで一緒に作っていった曲がけっこう多いんですよ。セッション的な感じで。それも面白かったよね。

──それってMAY'Sとしては珍しいことなんですか？

河井　そうですね。僕らは昔からサウンドプロデューサーを立てることなく2人だけで楽曲を作ってきてはいたんですけど、基本的に作業は別々だったんです。僕が引きこもって作ったトラックを舞子が持ち帰ってメロディや歌詞をつけ、それを最後に合わせるっていう作り方だったので。でも今回は僕がピアノやキーボードを弾いている横で舞子が歌って、「お、今のいいね。使おうか」みたいな感じで組み立てていくことが多かったんですよ。時間がなかったっていうのがそういう作り方をした一番の理由ではあるんですけど（笑）、結成して12年目にして初めて経験した、ちょっとバンドっぽい作り方がすごく新鮮だったんですよね。

楽曲を自分だけで100％にしない

──より密になった制作作業の中で、お互いに何か新たな発見がありましたか？

河井　なんかあったかな？

片桐　ああ、私はありましたね。楽曲を自分だけで100％にしないってところが大人になったなって思いました（笑）。

河井　あははは。そうね、そうね。よく気付きましたね（笑）。

──どういうことですか？

片桐　さっき純ちゃんが言った通り、私たちは昔から2人で全部、作詞・作曲・プロデュースまでやってきたんですよ。で、インディーズのときは予算がなくて生楽器を入れられないことが当たり前だから打ち込みだけで作るしかなかった。つまり本当の意味で2人だけで1つの楽曲を100％にしなきゃいけなかったんです。

──なるほど。

片桐　で、そのクセがずっと残ってたと思うんです。活動を続けていく中で生楽器を入れる余裕、ほかの方の演奏を入れる余裕がだんだん出てきたけど、つい自分たちだけで100％にしてしまうっていう。

河井　そうだね。例えばピアノを生に差し替えようってなったときでも、自分が作ったラインをそのまんま弾いてくれないと気持ち悪く感じちゃってたんです。それくらい自分だけで作り込みすぎてたというか。

片桐　それが今回は、自分で作るのは70％とか80％、曲によっては50％くらいにしておいて、生楽器を演奏してくれるいろいろなミュージシャンの方の力で曲自体をどんどん進化させていくことがすごく多くて。

河井　うん。デモにはある程度の隙間を作っておいて、それをほかのミュージシャンとのコミュニケーションで埋めていくことができるようになりました。そこは自分でも成長したなって思えたところでしたね。

片桐　「そういう作り方ができるようになったんだね！」ってちょっとうれしくなりましたもん（笑）。ミュージシャンとしての余裕が出たというか、風格をちょっと感じた。今回はトラックメーカーというよりはサウンドプロデューサーの顔がすごく見えたから。

河井　ありがとうございます。かなり褒めてくれますね、今日は（笑）。