松本隆 作詞活動50周年トリビュートアルバム「風街に連れてって!」|作詞家・児玉雨子&スカート澤部渡が歌詞とサウンドを紐解くクロスレビュー アルバム参加者3名からのコメントも

「風街に連れてって!」に寄せて
アルバム参加アーティスト3名からのメッセージ

川崎鷹也

川崎鷹也

松本隆の歌詞を一言で表すと

時代も世代も越えて愛される、等身大で純情な恋物語

松本隆の歌詞の魅力

松本隆さんの描かれる世界は、その経験をせずとも容易に想像ができ、まるでその世界に自分もいるかのような感覚を覚える、そんな魅力があります。例えば「赤いスイートピー」の一節、「四月の雨に降られて 駅のベンチで二人 他に人影もなくて不意に気まずくなる」。僕はこのような経験をしたことがないにもかかわらず、その風景、景色、色や匂いに至るまで、なぜかリアルにイメージができます。こんなふうに歌詞を通してさまざまな疑似体験をさせてくれるような歌詞世界が魅力だと感じます。

アルバムで歌唱した楽曲の感想

歌唱曲:「君は天然色」

この曲は僕自身がCMで耳にしたり、親が聴いていたり、事務所の社長が大好きだったりと、どこか耳馴染みがあり、そして気持ちが落ち着くような楽曲でした。そんな楽曲を歌わせていただくのはとても光栄でしたし、それと同時にとてもプレッシャーに感じました。それは、川崎鷹也という新人が松本隆さんというレジェンドの楽曲をカバーするなんて、恐れ多かったからです。でもその分、レコーディングには覚悟を決めて臨みました。同じ歌詞が繰り返されるサビでは、自分なりの解釈や思い、チャレンジの意味も込めて、歌い方を少しだけ変えたりして、それにいち早く気付いてくださったのが、レコーディングに立ち会ってくださった亀田誠治さんでした。「鷹也くんなりに考えてくれたんだね。それでいこう」と否定することなく、むしろ楽しみながら僕の背中を押してくださいました。亀田さんのアレンジはとても心地よく、原曲を損なうことなく進化している気がして、歌っていて気持ちが高まりました。事前にバンドのレコーディングにも立ち会わせていただき、バンドメンバーの皆さんの思いも背負って歌いました。僕の100%の力が出せたと思います。

松本隆へのメッセージ

松本先生、この度は作詞活動50周年、誠におめでとうございます。世代を超えて愛され続け、そして今も最前線で活躍し続けておられる先生に、心からの尊敬と、そして絶大なる憧れを持っております。そしてそんな松本さんと音楽を通して関わることができて本当に光栄であり、今後の音楽人生における揺るがぬ誇りとなりました。これからも、恐縮ながら先生と同じ世界にいる端くれとして背中を追い続けます。改めて、作詞活動50周年、おめでとうございます。

川崎鷹也(カワサキタカヤ)
1995年5月16日生まれ、栃木県出身のシンガーソングライター。2018年にアルバム「I believe in you」を発表し、本格的に音楽活動を開始。同アルバムの収録曲「魔法の絨毯」が2020年にTikTokや音楽配信サービスを中心に話題となり注目される。2021年1月にシングル「サクラウサギ」、3月にしたら領によるマンガ「眠れないオオカミ」の世界観を表現した楽曲「Answer」を配信リリース。同年7月に大阪と東京でワンマンライブ「みんなで繋がる広がる輪」を開催する。

Daoko

Daoko

松本隆の歌詞を一言で表すと

すぅー、と心に染み渡る言葉たち

松本隆の歌詞の魅力

松本隆さんの歌詞は本当にどの曲も大好きなのです。最近は南佳孝さんの楽曲を聴き直していて、特に「おいらぎゃんぐだぞ」の歌詞が好きです! 「ほろ酔い気分の時花歌 せなで泣いてる唐獅子牡丹」など、言葉たちから日本語ならではの艶やかさや美しさを感じます。私は、少しキザな男性が主人公の歌詞が昔から好きで、特に松本隆さんの表現力にいつもキュンとしています。昭和のロマンスや香りを想像できるところも素敵ですね。でも風化せずに、いつまでも新鮮に、言葉が胸に響いてくるのが松本隆さんの詩の魅力の1つだと思います。

アルバムで歌唱した楽曲の感想

歌唱曲:「風の谷のナウシカ」

映画「風の谷のナウシカ」も宮崎駿さんによる作品「シュナの旅」も大好きで、小さい頃から大切に思っていました。この曲自体も大好きで、詩も素晴らしいということ、それと「きっと私の声に一番合うだろうな」という直感から歌唱曲として選ばせていただきました。今までこの曲を何気なく口ずさんだりはしてきたものの、ちゃんと世界観に沿って歌唱するのは今回が初めてでした。作品の世界観と詩の言葉たちを頭で想像しながら歌うのは、まるで空を飛び舞うナウシカの気分を体験するようでとても心地よかったです。

松本隆へのメッセージ

この度はトリビュートアルバムに参加させていただきありがとうございました。そして!作詞活動50周年おめでとうございます。
大好きな音楽を聴いていると、松本隆先生の言葉たちによく出会います。
松本隆さんの詩は音楽そのもので、私が大切に思っている日本語ならではの美しさが表現されていて、今までたくさんの感動をいただきました。
本当にありがとうございます。心から尊敬しております。
私は作詞を始めて10年目になるのですが、
最近やっと「言葉たちと仲よくなってきたな」というような実感が湧いてきたところです。
50年作詞を続けたら言葉とどんな関係になれるのだろうとワクワクします。
何世代にもわたって受け継がれていく美しい表現の遺伝子を受け取って、私もずっと作詞を続けたいなと思いました。
これからのご活躍も心より楽しみにしております。

Daoko(ダヲコ)
1997年3月4日生まれ、東京都出身のアーティスト。中学時代にニコニコ動画に投稿した楽曲で注目を集め、2015 年にアルバム「DAOKO」でメジャーデビューを果たす。その後コンスタントにソロ作品やさまざまなアーティストと共作した楽曲を発表。バンド形式でのライブ活動のほか、小説執筆や写真と絵の個展の開催などにも取り組む。2019年に個人事務所・てふてふを設立。 2021年6月に自主レーベルからの第1弾作品「the light of other days」を配信リリースした。

松尾レミ(GLIM SPANKY)

GLIM SPANKY。左が松尾レミ。

松本隆の歌詞を一言で表すと

一瞬で曲の世界に引き込み、みんなの感情を操ることのできる歌詞

松本隆の歌詞の魅力

長野の田舎から東京に上京してきた大学生の夏、はっぴいえんどの「夏なんです」を聴きながら地元を思い出していました。「田舎の白い畦道で 埃っぽい風が立ち止る」「舞い降りてきた静けさが 古い茶屋の店先に 誰かさんとぶらさがる」「空模様の縫い目を辿って 石畳を駆け抜けると」という夏の風景を表現したこの言葉の後に「ぼくはたいくつ」という言葉の流れ。何もすることがなく、祖母の家でごろごろしながら窓から見える真っ青な空と入道雲を見つめた小学校の夏休みを思い出し、胸がギュウッとなります。大人になって時間があっという間に過ぎるようになりましたが、あの頃は1日がとっても長かったなあと子供時代の感覚が蘇ります。

アルバムで歌唱した楽曲の感想

歌唱曲:「スローなブギにしてくれ(I want you)」

非常に男性的な歌詞、歌なので、どうやったら自分の声がしっくりハマるかなあと考えながら歌いました。カッコつけ過ぎるのは違うし、強く歌い過ぎたくもないし。自然にこの曲の主人公になれているような歌になっていないと、自分がリスナーだとしたら納得できないなあと思いました。ブルージーな曲なので、亀田さんにアレンジの相談をしたときに“「Oh Darling」風味”をより強くしてほしいとリクエストしました。そのおかげで自分のルーツにも更に馴染み、楽しく表現できました。また歌詞のストーリーが1番、2番と進んでいくので、サビの歌い方に変化もつけました。

松本隆へのメッセージ

作詞活動50周年、おめでとうございます。幼い頃から、特に、はっぴいえんどやナイアガラ・レーベル作品など、松本隆さんの歌詞をたくさん聴いてきました。こうしてトリビュートアルバムに参加できることがとってもうれしいです。いつの時代も色褪せずに響く言葉は魔法のようで、キラキラしていて、大好きです。(いつか、松本さんといろいろな音楽の話をしたい!)

松尾レミ(マツオレミ)
1991年12月7日生まれ、長野県出身。亀本寛貴(G)との2人組ロックユニット・GLIM SPANKYのボーカルとギターを担当。2007年のバンド結成後、2009年にコンテスト「閃光ライオット」でファイナリストに選ばれる。2014年に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。以降もコンスタントに楽曲制作やライブ活動を行う。2020年に5thアルバム「Walking On Fire」、2021年6月に「風は呼んでいる / 未完成なドラマ」を配信リリースした。