プロレス観の相違が原因

──まず「音楽でプロレスをやりたい」っていう概念をメンバーが理解できるかどうかっていうのがあるわけじゃないですか。

大致　そうですね。なので昨日とかも新しいメンバーになってほしい人を朝までずっと口説いてて、その人はベーシストなんですけど、ベーシストじゃなくて仮面ライダーとしてウチのバンドに入ってくれないかって。

──……えーと、そこもちゃんと説明してもらえますか？

大致　彼は太平洋不知火楽団っていうバンドで、大内ライダーっていう、変身ベルトを着けて結構アグレッシブなパフォーマンスしてる方なんですけど。

──そのライダーとしての魅力に惹かれたわけですね。

大致　そうです！ ライダーとしての魅力と、あとプロレスについて話ができるプロレス頭を持ってる人がメンバーに欲しいっていうことで。ちょっと前にウチのギターに初めてプロレス見せたんですよ。「燃えろ！新日本プロレス」ってDVDマガジンの武藤特集を見せたときに、「ムタ強えなあ」とかって、初めての感想がそれだったんですよ。「ムタ強えなあ」ってなんだろう。ありえないと思って。

──ダハハハハ！ それは正解じゃなかったわけですね（笑）。

大致　いや、ある意味正解なんですけど。で、「強いってなんだろうね？」っていう話を昨日はその大内ライダーっていう人と1時間以上盛り上がって。まあ、「最初の感想が強いっていう時点で違うよね」っていうことで。

──よく言いますけど、プロレスは勝敗じゃ語れないジャンルであり、強弱でもない、いろんなものを越えたところを見るものですからね。人間力というか……。

大致　そうです。ムタ強えなって思う気持ちもわかるんですけど、単に強いなってだけじゃ違いますよ。全くプロレスを理解していない！（笑）

──つまり、音楽性の相違じゃなくてプロレス観の相違による脱退なんですね（笑）。

大致　まあ……。

──決定的になったのはそこ。

大致　そこはデカいです。それをこの何カ月かで痛感しましたね。

──今度はプロレス的な感覚がわかるメンバーを集めたい、と。

大致　そうですね。プロレスを通ってなくてもプロレス的な考え方ができる人とか、なぜこれをやるかっていうことを一緒に考えられる……それがバンドだと思うんですよ。でも、前のギターは「プロレスを観に行きたい」とか言い出したりとかもあったんですけど、結果観に来なかったし……。

マネージャー　観に行ったよ。

大致　行ったっけ？ ……あ、一緒に行ったな。

──一応ちゃんと努力はしてたんですね（笑）。

マネージャー　「プロレスラーって強いな」って言ったことにおまえが怒って。

大致　そうだ！ でも結果、畑が違ったというか、やりたいことが全然違ったんで。

──ミュージシャンとしての概念しかない人と、そうじゃない人との違いっていうことですか？

大致　それとも違うんですよね。それは今回のPVで新宿FACEを借りて、アントーニオ本多＆俺 vs. 男色ディーノ＆葛西孝治（元ギタリスト）の試合をやったんですけど、そのときにいろいろ考えてくれるかなと思って。結果、俺は満足してるんですけど、あいつはやっぱりプロレス知らないぶん、中途半端だったかなっていうのがあって。それが今や、脱退説明PVみたいになっちゃった（笑）。

──心の通じ合わない試合が行なわれているわけですか。

大致　煽りVとかの作りも完全にそうだったので、全部辻褄合ってんじゃねえかなっていう、いつものポジティブ解釈ですね。

──ロックンロールをやろうと思ってバンドに入った人が、プロレスとアニメとアイドルの要素をガッと入れた新バンドに移行されて、さあ対応できますかっていったら難しいと思いますけどね。

大致　そうですね。だから、よくやってくれてたと思います。その点は感謝してます。

バンド内イデオロギー闘争

──今興味があるものをどんどん取り入れるのは、正直だとは思うんですよ。

大致　そうですね。その物事に対して一緒に考えたりとか、これってこうだよねっていうことを、俺とこいつ（マネージャー）でしかできなかったことがバンドとして成り立たなかった原因というか。最初はバンドが念頭にあったんですけど、1人ずついなくなって、全員いなくなって。計画が崩れていきましたよね。

マネージャー　説明不足なんですよね、結局今までのメンバー全員。成田がみんなにいろんなもの、バンドの方向性的に必要なアニメとかプロレスとかを見せようとしたんですけど、全員感想はいつも「強いね」だったり「楽しいね」とか、そういう感じで。

──深い話ができない状態だった。

マネージャー　それが我慢できなくて「やりたくない！」って。こいつはもう覚えてないですけど（笑）。

大致　そうだったね。

──わかりやすく言うと原因はプロレス観の相違でいいんですね。

大致　イデオロギーの違いですね。

──ダハハハハ！ バンド内でイデオロギー闘争が行なわれた（笑）。

大致　ホントそうです。しかもアルバムが出る前にこんなことになって……大丈夫なのかな？

──話題作りとしてはいいんじゃないですか？　むしろ、それを前面に出したほうが面白いですよ。

大致　そうですよね。俺も面白いと思ってます。

──トラブルは全部表に出してネタにしていくしかないっていうのもプロレスで学んだことだと思うんですよ。

大致　はい。それをアングルに組み入れてストーリーを作ってっていうのが、今までやってきたことなんで。もっとそれを追求したい欲が、今はすごい強いです。

──それをどう面白く転がすかですよね。

大致　はい！

マネージャー　……おまえのアングル、今まで誰も乗ってきてないんだけどな。

大致　ハハハハ！（笑）

所属レーベルへのフォロー

──東京には1人で来てるんですか？

大致　家族は青森です。だから帰れるときは半分帰って。基本、青森が家だと思ってます。

──妻子がありながら、この自由な感じもすごいじゃないですか。

大致　それはありますよね（笑）。誕生日とかも覚えてないし。

──えーっ！ 奥さんの？ 子供の？

大致　子供の誕生日もこの前忘れてました。

──怒られますよね、それ。

大致　そうですね。夜12時過ぎて1分後ぐらいに、「なんの日だったか覚えてますか？」って一言だけメールが来て、どっちの誕生日だったかなって。もう全然抜けてますね。

──プロレスのこととバンドのことで頭がいっぱいで（笑）。

大致　そうですね（笑）。

──現状、ただの無職のボンクラみたいな状態じゃないですか。

大致　そうなんですよ（笑）。

──妻子は抱えちゃいけない状況だと思うんですけど。

大致　はい、ホントそうです……。

──しかも、ちゃんとしたレーベルで無茶なことやって。

大致　そうです、いっつも思うんです。そもそもこのアルバムをガルル・レコードからなんで出せるんだろうって。なんでこれが許されるんだろうってことばっかり思ってます。ガルルの皆さんには本当に感謝していますね。