majiko「愛編む」インタビュー|コロナ禍で見つけた“救い“を力に変えた最新作 (2/2)

筋トレのおかげで広がった音楽的な視野

──アルバム「愛編む」は、majikoさんのシンガーとしての魅力を堪能できる作品でもあると思います。特に「ラブソング」のボーカルにはグッと来ました。

激情型の歌い方も好きなので、思いきり感情を出せる曲を作りたいなと。「UP-DOWN」や「ラブソング」はそういう作り方ですね。

──歌い方重視のソングライティングなんですね。楽曲提供の仕事もありますし、このシンガーにはこういう曲が合う、という作家的視点も持ち合わせているんですか?

どうなんだろう? そこまで考えてはいないけど、ほかのアーティストに曲を書くようになって、少し意識が変わってきたかもしれないですね。提供するときは歌う人のことをしっかり考えないとダメなので、そういう脳みそが発達してきたというか。例えば母音の使い方もそうですけど、「この言葉だと気持ちよく声が出せるな」みたいなことをよく考えるようになりました。これからもっとよくなると思うので、乞うご期待です(笑)。

majiko

──声についての理解も深まってるのかもしれないですね。majikoさんはご自身の声についてどう感じてますか?

声は……好きですね(笑)。曲に合う声のニュアンスを探すのも面白いんですよ。例えば「デモ音源ではピッタリだったけど、生音に差し替えたら声のテイストが合わなくなった」というときも「じゃあ歌い方を変えてみよう」ってすぐに切り替えてみることもあります。1曲の中でどんどん歌い方を変えるのも好きで、それはSystem of a Downのボーカルのサージ・タンキアンの影響でしょうね。10代の頃、サージの歌にめちゃくちゃ感動していたし、「自分もこんなふうに歌いたい」と思っていたので。ニコニコ動画に“歌ってみた”をアップしていた時期は修行みたいにいろんな声のニュアンスを試していました。そうやって染み付いたものもあるし、ふいに生まれてくる新たな発見もあって。これが全然尽きないので、音楽は楽しいです。

──コロナ禍のステイホーム期間中も、歌い方の研究や音楽のリサーチをやってたんですか?

やってました。筋トレ中に聴くためのプレイリストを作って、「いいな」と思う曲をどんどん加えて。興味のあるアーティストも増えたし、かなりインプットできましたね。よく「音楽を仕事にするとプライベートで音楽を聴かなくなるよ」みたいな話ってあるじゃないですか。私も実際、一時期インプットが億劫になってしまったことがあったけど、そうなってはいけないと思って。筋トレのおかげでいろんな曲を楽しめるようになりました。

──それも筋トレのおかげ(笑)。音楽的な視野が広がるのはいいことですよね。

そうですね、面白い音楽はたくさんあるので。「オッドタクシー」をぼんやり観てたら、「今流行ってる映画もドラマも売れてる芸人も全部オモロないって、それってもうお前がズレてんねん」というセリフがあったんですよ。それがブッ刺さっちゃって。もっと視野を広げないといけないなと思ったきっかけですね、それも。

majiko
majiko

なくならないのであれば、どこかにしまっておけばいい

──「No More Robot」は現代社会を風刺したような、強いメッセージが感じられる楽曲ですね。

「これ以上ロボットみたいにならないで」という気持ちをそのまま書いています。サビでは「もっと震えるような言葉を言えないのか」みたいなことを歌っていて、これも日常で感じていることそのままですね。「震えるような言葉」とは言いましたけど、歌詞に使ったような“くさい言葉”でもいいんですよ。くさい言葉でも、声をかけてくれるだけでがんばれる瞬間ってあるじゃないですか。そんなことを思えること自体が、救いなのかなとも思いますが。

──majikoさんが表現する「くさい言葉」というのは、例えばどんな言葉ですか?

なんでもいいんですよ。「大好きだよ」でも「めちゃくちゃいいじゃん」でも「僕がいるからさ」でも。とにかく冷たい心になってしまうのがイヤだし、怖い。いいと思ったら、ちゃんと「いいね」と伝えることはすごく大事だし、私もそうありたいなと。こういうこともある程度大人になったから言えるのかもしれないですね。もともとはそういう性格じゃなかったから。

──「No More Robot」はサウンドがシックな感じで、大人びた雰囲気があります。

そうですね。イギリスのバンド・Sadeみたいな雰囲気にしたかったんですよ。コンガ、サックスなども取り入れて。確かにちょっと大人っぽいかも。

──最後に収録されている「アイアム」の「始まりの合図 / 聞こえてるだろ」というフレーズも印象的でした。この曲名は「愛編む」というアルバムタイトルにつながっているわけですよね。

アルバムのタイトル「愛編む」は「I am」とのダブルミーニングで、前回のライブタイトル「愛わかる」も「めでわかる」と読ませてみて、愛にまつわるいいタイトルを付けられたなと自分で思っています。「愛編む」という言葉は、けっこう前に友達と「全世界の人が、一瞬でもいいから、同時に幸せになるにはどうしたらいいだろう?」みたいな話をしたことがあって。そのとき私は「それぞれ会いたい人に会えたらいいんじゃないかな」と言ったんです。その話が今でも頭の中に残っていて、今回のアルバムは“会いたい曲に会える作品”になったと自分では感じているし、1曲1曲にしっかり愛を込めました。もちろん今までの作品にも愛は込めていたけど、私にとって「愛編む」は特別なアルバムになる予感がしています。あと「I am」には「私はここに存在している」という意味もあるから、それもいいなって。

──それにしてもmajikoさん、作品を重ねるごとにポジティブになってませんか?

筋トレのおかげです(笑)。今でも暗い部分はありますけど、大人になって、自分の暗い部分をしまっておけるようになった気がして。決して明るくなろうとしたわけじゃなくて、暗い部分がなくならないのであれば、どこかにしまっておけばいいんじゃないかなと思えるようになったんですよね。今回のアルバムが作れたのも、そのおかげかもしれないですね。

majiko

ライブ情報

majiko Presents "愛編む"Release Tour~愛縁奇縁 編~」

  • 2023年4月29日(土・祝)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2023年5月7日(日)東京都 日本橋三井ホール
  • 2023年5月21日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO

プロフィール

majiko(マジコ)

2010年に“歌ってみた”動画を初投稿し、「まじ娘」名義で歌い手としての活動をスタートさせる。人気の投稿者として注目を浴び、多数のライブイベントでその歌声を披露。2015年6月には東京・東京キネマ倶楽部にて初のワンマンライブ「Contrast release party」を開催した。2016年12月にmajikoへと名義を変更し、2017年2月にミニアルバム「CLOUD 7」を発表。2019年6月にメジャー1stフルアルバム「寂しい人が一番偉いんだ」をリリースし、同年10月には中国ワンマンライブツアー「majiko PRESENTS “寂しい人が一番偉いんだ” RELEASE TOUR ~SALUTE YOUR LONELINESS~ in CHINA」を開催した。2021年11月には5枚目のフルアルバム「愛編む」を発表した。