majiko「愛編む」インタビュー|コロナ禍で見つけた“救い“を力に変えた最新作

majikoがメジャー3rdアルバム「愛編む」をリリースした。

majikoがオリジナルアルバムをリリースするのは、前作「世界一幸せなひとりぼっち」以来約2年ぶり。「白い蝉」「FANTASY」「劫火のエトワール」「交差点」といったこの2年間で配信してきた楽曲に新曲を加えた計13曲を収録した今作は、さまざまな感情とカラフルなサウンドを体感できる作品に仕上がっている。majiko自身が「すごくいいアルバムだと思うし、ずっと浸ってます」と話す今作の制作背景には、彼女の生活に大きな影響を及ぼした“救い”があったという。収録曲に込めた思いを聞きながら、前作アルバムからの2年でそのマインドを大きく変えたという彼女の胸の内を語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 曽我美芽

“救い”というテーマの二次創作を作る感覚

──ニューアルバム「愛編む」が完成しました。感情の起伏とサウンドの振り幅が共鳴する、素晴らしい作品だと思います。

うれしいです! 自分でも「いい作品ができた」と思っていて、ずっと聴いています。基本的に自分の曲は好きなんですけど、こんなにじっくり浸っているのは初めてかも。「がんばったな。いい曲を書いたな」と思うし、手応えを感じています。

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──前作「世界一幸せなひとりぼっち」以降にリリースしたシングル「白い蝉」「FANTASY」「劫火のエトワール」「交差点」も収録されていますが、アルバム全体のテーマはいつ頃から定まっていたんですか?

2021年の夏にリリースした「白い蝉」のときから「ここから次のアルバムを作っていくぞ」という意気込みがあって、「白い蝉」という曲を含めたテーマを考えていった感じですね。テーマについては私だけの考えじゃなくてチームのみんなとも話し合っていて、「majikoには“救い”みたいなものを歌ってほしいし、そういう曲を待ってる人も多いと思う」という意見が出たのが大きかったと思います。

──“救い”はいろいろな解釈ができるテーマですね。

はい。大きいテーマだし、受け取り手によっていろんな解釈できるというか。コンセプトアルバムにするつもりはなかったんですけど、チーム内の共通認識として“救い”というテーマがずっとありました。漠然と進めるよりは、柱が決まっていたほうが楽曲も作りやすいし、迷ったらテーマに立ち返れるよさもあって。感覚としては二次創作を作っている感じもあって、いろんな曲を作れました。

──majikoさんにとって「日常的な救い」はどんなことなんですか?

しゃぶしゃぶを食べてるときか(笑)。あとはやっぱり筋トレ。最初はダイエット目的だったんですけど、途中から「筋トレをやると気持ちが軽くなる」ということに気付いて。何もしていないと、どうしても気持ちがズーンと沈んじゃいがちなんですよ。でも体を動かすことでスッキリするというか。今は気持ちを上げるために筋トレをしているところもあります。朝起きたとき、どんなにダルくてもジムでトレーニングすると「世界って最高! 生きてるって素晴らしい!」という気持ちになるんですよ(笑)。たぶん、幸せホルモンみたいなものが出てるんだと思います。このアルバムができたのも筋トレのおかげだと言って過言ではないです。

──本当ですか!?

ホントですよ! 気分が沈まなくなって、自分のモードを俯瞰できるようになって。感情に任せすぎず、冷静なマインドで曲を作れるようになったのも大きいですね。例えばアルバムの3曲目の「ジャンプ」は、筋トレした直後の感覚そのものを曲にしようと思い立ったもので、それも勢いに任せて作ったわけじゃないんですよ。

──「ジャンプ」はアルバムの中でもひと際ポップで、アッパーな曲ですね。

はい。アルバムの制作が佳境に入ったところで「アップテンポの曲が足りない」ということに気が付いて。ライブでテンションを爆上げするような、アッパーな曲が必要かなと。今まではアップテンポな曲を作るのに苦手意識があって、どちらかと言うとミドルで横揺れの曲を好んで作る傾向にあったんですよ。でも今回は、いい意味でバカっぽくて(笑)、ガンガン盛り上がれる曲として「ジャンプ」を意識的に作ることができました。以前haruka nakamuraさんに「声」というアッパーな曲を作ってもらったことがあって、今回は自分でアッパーな曲を作ってみたかったのもあります。ライブでみんながジャンプしてくれたらいいな。

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アルバムに入れるつもりはなかった“攻撃的な曲”

──アッパーな曲の話からしてしまいましたが、アルバムのリード曲「Princess」はダークな楽曲で、トラックがすごくカッコいいですよね。特に低音の深さが印象に残りました。

めっちゃうれしいです。「Princess」は最初、「こういう曲、遊びで作ってみました。てへ」みたいな感じで作った曲で。自分ではカッコいいと思ってたんですけど、ここまで暗い曲がみんなに受け入れられるかわからなくて、アルバムに入れるつもりはなかったんです。でも周りの人が「すごくいい」と言ってくれて、あれよあれよとリード曲に決まりました(笑)。こういう“攻撃力が高そうな曲”は個人的にも好きだし、気に入ってます。音響のことまでよくわかっているわけではないので、低音に関してはリファレンスになる曲をディレクターさんやエンジニアさんに送って整えていただきました。私がやりたいことをちゃんと汲み取ってくださって、すごくいい音になったと感じています。みんなのナイスプレーのおかげですね。

──majikoさんが抱いていた音のイメージが具現化された、と。

そうですね。ただ、どうやって曲を作ったか、よく覚えてないんですよ。いつものように「いいな」と感じるリズムや音を重ねていったんだと思うけど、筋トレのあとの脳が覚醒した状態で、アイデアがどんどん湧いてきたときに作った曲なので(笑)。「グリム」という曲を聴いてくれた人に「オペラ的な歌い方もできるんだね」と言われて、その歌い方ができる曲が欲しいという気持ちもあったのかな。

──いわゆる“プリンセス”的なイメージとは相反するサウンドですよね。

どちらかと言うと、この曲はアンチテーゼ的な視点かもしれないですね。「邪魔な髪は切った」という歌詞に表れているように、女性らしさと言われるものを取り払いたいという思いのほうが強いかも。もちろん捉え方はいろいろあっていいんですけどね。

──2010年代の半ば以降、映画の世界でもプリンセスの描かれ方が変わってきて、それに近いかもしれないですね。王子様を待つのではなく、自立し、自分で幸せをつかむという女性像が増えている印象です。

いろんな形があっていいと思うんですよ。“王子様が助けに来る”みたいな従来の形も素敵だし、家族愛も素晴らしいし、男性が男性を助ける物語もいい。愛の形は人によって違うので、いろいろあったほうが楽しいじゃないですか。そういうことをあまり過激じゃないやり方で提示できたらいいなという気持ちがあるのかも。女性的な部分とそうじゃない部分、どっちも楽しみたいんですよね。

──そういえば「Princess」のミュージックビデオでmajikoさんの髪型がオールバックになっていて驚きました。

それは私の案です(笑)。何か面白いことをやってみたいと思い、前にモヒカンはやったから、次はオールバックだなと。お風呂上がりに自分でやってみて、「いけんじゃない?」って(笑)。深夜2時半起きで撮影だったし、吊るされるシーンもあって意識がボーッとしている瞬間もあったけど、撮った映像をそのまま見せてもらった時点で「最高じゃん!」ってテンション上がりました。

中華とロックの融合

──2曲目の「TENGIC」はアジア的な雰囲気を持ったロックチューンですね。

中華とロックの融合がテーマですね。Måneskinのようなバンドが存在感を持っていることもあって、音楽仲間とは「ロックの流れが来てるよね」みたいな話をよくしていて。自分でもやってみようと思い、作ったのが「TENGIC」です。自分がどこまで流れについていけているのかわからないけど、いろんな流行が繰り返しながら進化していくのは面白いし、その中で変わらないもの、普遍的なものを見つけたいという気持ちもあって。もともとロックやファンクは大好きなので、「TENGIC」みたいな曲を作るのは楽しいですね。

──歌詞のテーマは「西遊記」ですか?

はい。それもさっき話した“救い”から来ていて。それぞれの“天竺”を目指す、みたいな歌にできたらいいなと。孫悟空の目線ではなくて、全員を見守っている仏様の目線で歌詞を書けたことが自分としては激アツでした。すごくカッコいい歌詞が書けた手応えがあります。

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──この数年間、majikoさんの楽曲は中華圏で広く聴かれています。ストリーミングの総再生数は2億回以上とすごい広がりですが、この状況をどう分析してますか?

わからないんです、それが。中国のプロモーターの方がしっかり宣伝してくれたのか、中国で撮影した「狂おしいほど僕には美しい」のMVが人気になったのがきっかけなのか。理由がわからないというのもすごいですけどね(笑)。

──中華圏のマーケットを意識したわけでもないですよね。

そうなんですよ。コロナが流行する前の2019年10月に初めて中国と台北でライブをしたとき、最初の公演ではカバーを多めにやったんです。「ニコニコ動画にアップしたカバーで知ってくれた人が多いだろうな」と思ってセトリを組んでみたんですが、いざやってみたら反応があまりよくなくて。むしろ自分のオリジナル曲の方が盛り上がっていたんですよね。なので次の公演からは自分の曲を増やしたんですけど、「カバーじゃなくて、オリジナルを聴いてもらえている」ということを実感できたし、うれしかったですね。また行きたいなあ。

──中華テイストの「TENGIC」から一転して、「いろはにほへと」はタイトル通り、和のテイストを色濃く反映した楽曲ですよね。

実はこの曲は別のアーティストに提供するために作った曲なんですよ。2019年にリリースした「春、恋桜。」が人気だったのもあって、和風の曲と私の相性もいいのかなと。曲名に関しては、パッと見て和の曲だとわかったほうがいいなと思って、「いろは歌」の「色は匂へど 散りぬるを」から取りました。私、大和言葉が好きなんですよ。言葉の組み合わせによって意味が深まるし、イメージに合う言葉を探すのも面白くて。大和言葉で作詞に挑戦したこともあります。大和言葉と向き合うたびに「日本語は美しい。奥深いな」と感じています。