NAKAKI PANTZインタビュー|気鋭のイラストレーターが描くMAISONdesの“顔”

MAISONdesは、「架空の六畳半アパート」を標榜する謎多き音楽プロジェクト。“管理人”とと呼ばれる人物が、歌い手と作り手を“住人”として招聘する。過去にはyama、asmi、花譜、美波、和ぬか、meiyo、安本彩花(私立恵比寿中学)など、さまざまなアーティストがMAISONdesに“入居”してきた。

MAISONdesの活動において“管理人”と“住人”は姿を現さず、視覚情報として見ることができるのはNAKAKI PANTZによるイラストのみ。音楽ナタリーでは、MAISONdesのジャケットやアーティストビジュアル、ミュージックビデオ、オフィシャルサイトのデザインに携わる彼女にインタビューを行い、その制作の裏側に迫った。

取材・文 / 一条皓太

“MAISONdes一味”に加入するまで

──まずはNAKAKI PANTZさんがMAISONdesに参加するようになった経緯から伺えたらと思います。

2020年の年末に、管理人さんからご連絡をいただきました。「MAISONdesというプロジェクトを始めるので、イラストを描いてくれませんか?」という依頼をくださって。でも、その頃の私は歌い手さんに詳しくないし、ボカロPさんのこともわからないし、あんまりピンと来なかったんです。

NAKAKI PANTZ

NAKAKI PANTZ

──それでもお仕事を引き受けたいと思ったのはなぜですか?

何か新しいことを始めるにあたって、私のイラストがそのイメージに合うと思っていただけたことがまずうれしくて。お声がけいただいたのは私がNAKAKI PANTZという名義で活動を始めて間もない頃でしたが、その後MAISONdesのアートワークをきっかけに、私のイラストをたくさんの人に知っていただけるようになりました。人生を変えてくれたと言っても過言ではないと思います。運とご縁がつないでくれたお仕事ですね。

──普段、MAISONdesのアートワークはどのような流れで制作されるのでしょうか?

私はプロジェクトチーム、いわゆる“MAISONdes一味”に入っているような状態で(笑)。早い段階で新曲を聴かせてもらって、そこからイメージしたものを自由に描いています。「この曲は、こういう人に聴いてもらえそうだな」とか想像しながら。

クリックしたくなる絵

──MAISONdesには多数のアーティストが携わっていますが、イラストはすべてNAKAKIさんが1人で描かれていますよね。

はい。私1人だけでいいのかな?と思っていた頃もあったけど、イラストの安定感がMAISONdesのブランドイメージを作り出すんだということに気付いて。コンスタントに依頼をいただけて、本当にありがたいです。

──MAISONdesのアートワークを制作する際に意識していることはありますか?

MAISONdesのイラストは、1枚絵の状態でも目を引くように描いています。YouTubeのサムネイルになったとき、皆さんがクリックしたくなるようにしたくて。ビビッドな色味にして、いわゆる“令和感”を出して、「気になってくれ!」「クリックしてくれ!」という気持ちでデザインしていますね(笑)。

──逆に、楽曲ごとに変化させている部分などあればお聞かせください。

特別意識しているわけではないですが、人物の表情は曲によって違うかな。曲の雰囲気に合った絵柄になるように心がけています。

──制作時に使用する機材についても伺ってもいいですか?

「CLIP STUDIO PAINT」という制作ソフトに「ざらつきペンを調整したペン」というものがあって。それを使って描いています。

──妙に複雑で面白い名前ですね(笑)。

「CLIP STUDIO PAINT」にはもともと「ざらつきペン」という機能があって、そのパラメータを調整したプリセットが「ざらつきペンを調整したペン」です。私自身はペンの改良とかまったくわからないので、プリセットを作ってくれた人の技術を借りながら、お仕事している状態です(笑)。

NAKAKI PANTZの作業机。

NAKAKI PANTZの作業机。

MAISONdesのミュージックビデオ

──NAKAKIさんのイラストはジャケットだけでなくMVにも使用されていますよね。MV制作ではどのような作業をしているのでしょうか?

動画編集の方がイラストを動かしやすいように、レイヤーごとに分けた状態で納品しています。前髪のパーツと後ろ髪のパーツで分けたり、目を開けているパターンと閉じているパターンを用意したり。とりあえず分けられるパーツはすべて分けて、「これで大丈夫ですかね……?」という感じでデータをお渡しします。編集者さんを信用しているので、動画の仕上がりについては完全にお任せで。毎回ワクワクしながら映像の完成を待っています。

──MVができあがるまでには膨大な時間がかかりそうですね……。

いえ、基本的にいつもスピード勝負です(笑)。正直苦しいときもあるんですけど、その分完成した映像を観たときにすべてが報われます。こんなふうに動かしてくださるんや……みたいな。レイヤーを数枚しかお渡しできなかったときでも、ちゃんと1曲分の尺を持たせてくれていて。編集者さんの構成力に感服すると同時に、もっとたくさん渡せばよかったな……と毎回反省しています。

──イラストの方向性が固まるまでの過程も気になります。僕は2021年9月リリースの「夏風に溶ける feat. りりあ。, 南雲ゆうき」のジャケットがすごく好きなんですが、例えばあのイラストはどのように作られたのでしょうか?

MAISONdes「夏風に溶ける feat. りりあ。, 南雲ゆうき」ジャケット

MAISONdes「夏風に溶ける feat. りりあ。, 南雲ゆうき」ジャケット

「夏風に溶ける」の場合は、扇風機の絵を描くのに時間をかける必要があったので、まず考えたのはどうすれば早く描けるかということでした。MVの制作のことを考えると、扇風機の羽もレイヤーに分けて描かないといけない。それなら女の子はできるだけシンプルにしたほうがいい。顔を描かない代わりに、ツインテールで視聴者の目を引くようにしよう……といったように、納期とモチーフのバランスを取っていく感じでした。