デビュー30周年を迎えた真心ブラザーズが、これを記念してセルフカバーアルバム「トランタン」をリリースした。ファンから募ったリクエスト結果の1位から10位までをセルフカバーした音源を収めた本作には、奥田民生、サンボマスター、東京スカパラダイスオーケストラ、サンコンJr.(ウルフルズ)、グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)などが参加。さらに新曲「はなうた」やボーナストラック「どか~ん」も収録され、30年の軌跡を刻むと同時に、現在の真心ブラザーズの音楽性が体感できる作品となっている。
音楽ナタリーではメンバーのYO-KING、桜井秀俊にインタビューを実施。「トランタン」の制作を中心に、デビューからの30年の中で生じた変化について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 吉場正和
自分の意志だけでやってたら、30年続いてなかったと思うんですよ
──30周年を記念したアルバム「トランタン」は、ファンからのリクエストで選ばれた曲をセルフカバーした作品ですが、このアイデアはどこから出てきたんですか?
桜井秀俊 最初はマネージャーのアイデアだったかな。セルフカバーアルバムで選曲も自分たちだと、自作自演感がすごいじゃないですか。30周年の記念アルバムなんだから、今まで一緒に遊んでくれたお客さんにリクエストを募るのがむしろ筋じゃないかなと。
YO-KING 基本的には、オリジナルアルバムを作って、アナログレコードを出すというのが目標というか、自分たちがやりたいことなんですよ。去年、一昨年はそれができたから(2017年の「FLOW ON THE CLOUD」、2018年の「INNER VOICE」)、今年もそれでいいのかなと思っていたんですけど、「せっかくの30周年なんだから、ワッショイワッショイするのもいいのでは」と言われて、それもそうだよね、と。僕は素直な天才なんで(笑)。
──なるほど(笑)。リクエストで選ばれた楽曲もとても興味深いです。代表曲「サマーヌード」が入ってないという。
桜井 ねえ? 「どか~ん」も入ってなくて、「それはいくらなんでも」ということで、ボーナストラック枠で収録したんですけど。でも「サマーヌード」がトップ10に入らないというのは予想してたんですよ。わざわざ投票してくれる人は、よくライブにも来てくれてるだろうし、「こういう機会じゃないと聴けない曲を」という心意気だったんじゃないかなと。それにしても「このラインナップかい!」というのはありましたけど(笑)。
YO-KING 「『サマーヌード』はほかの人が入れるだろうな」という気持ちもあったんじゃないかな。たとえばRCサクセションで同じことをやったとして、俺は「雨あがりの夜空に」とは書かないから。このリクエストの結果は面白かったけどね。「自分たちでベストな選曲をしてもね」と思ってたし、天に任せた感じというか(笑)。
桜井 ハハハ(笑)。
YO-KING 自分の意志だけでやってたら、30年続いてなかったと思うんですよ。“お任せ、お任せ”でやってきたから、ここまで続いたというか。
──外からのアイデアや意見もどんどん受け入れて。
YO-KING なるべくね。やりたいこともあるけど、「それはどっちでもいいよ。任せます」ということも多いから。「なんでも楽しいじゃん」っていう気持ちもあるし。
桜井 制作スタッフから「こういう真心が聴きたい」と言ってもらえるのもありがいたいんですよ。「それはできそうにないな」というときはちゃんと口にして、みんなで前を見ながら進むというか。
──真心ブラザーズに対するイメージも人によって違うだろうし。
YO-KING そうだよね。僕らも変化してるし、聴いてる人たちの感覚も変わってくるじゃない? お互いに変化しているのも面白いよね。
10年後、20年後にどう聴かれるかは知ったこっちゃない
──制作のとき、リスナーに求められていることを意識することもありますか?
桜井 いや、そんなには(笑)。どっちかというと、「これをやったら燃える」ということを中心にやらせてもらってます。
YO-KING 制作に関しては、自分たちがやりたいことをやったほうがいいよね。ライブのときは求められている曲を入れるし、それで喜んでもらえるのが楽しいんだけど。
──「トランタン」からも、楽しんで制作している雰囲気が伝わってきました。「突風」にはフラワーカンパニーズのグレートマエカワさんとウルフルズのサンコンJr.さん、「素晴らしきこの世界」と「同級生」には奥田民生さんが参加していますが、楽曲とゲストの組み合わせも面白くて。
桜井 選んでいただいた曲目を眺めて、どうやってカバーするか考えたんですよね。たとえば「愛」だったら、もともとブラスロックの曲だから「原曲と同じアレンジでスカパラにやってもらったら面白いんじゃないか」とか。
──なるほど。
桜井 そうやって順番にオファーさせてもらったんですけど、わりと第一希望が通った感じです。サンボマスターとやった「明日はどっちだ!」も面白かったですね。この曲をどう料理するのか見たくて、サンボのリハーサルに僕が赴いたんです。山ちゃん(山口隆)が木内くん(木内泰史)に「こんな感じでやってみて」って言うんだけど、木内くんが全然違うことをやりだして(笑)。でも、それがカッコいいってことになって、そのまま制作が進んだりとかね。人の家の台所を見ているような感じでした。
──YO-KINGさんの中で印象に残ってるレコーディングは?
YO-KING いろいろあるんだけど、今パッと思い浮かんだのは「うみ」かな。2人で弾き語りで録ったんだけど、最初はマイクを4本立てたんですよ。でも、「いいんだけど、面白くないね」と。
桜井 「普通だね」って。
YO-KING で、マイク1本で録ってみたんだけど、それが面白くて。ベストの選択かどうかはわからないけど、「面白い」というのが大事なんですよね。
──面白いと感じられるものを作るということですか?
YO-KING いや、それは4番目か5番目ですね(笑)。1番は、そのときが面白いかどうか。
桜井 面白く感じながらやるってことですね。
YO-KING うん。10年後、20年後にどう聴かれるかは知ったこっちゃなくて、そのときが面白くて、「今日は楽しいレコーディングだった」と思えることが一番大事。ここ15年くらいはずっとそんな感じかな。面白がれる体質作り、体力作りも仕事というか、遊びの1つなんですよ。普段から好きな音楽を聴いて感動したり、「The Bandの『MUSIC FROM BIG PINK』って、こうやって作ってたんだ!」とか単なる音楽ファンとしての日常を過ごす中で「じゃあ、次の制作はこんなふうにやってみるかな」と思ったり。そういう創造的な音楽生活が大事なんです。それもさっき言った、“天に任せる”に近いんだよね。
──出会った音楽から刺激を受けて、それが新たな制作につながって。
YO-KING 音楽だけじゃなくて、知り合う人だったり、自分が踏み入れたことがない表現を見たり聴いたりすることもそうですね。時間が許す限り、誘われたらなんでも行ってみるんですよ、俺。相撲も行ったし、人形浄瑠璃とか文楽とか。そのたびに「これが人気があるのはわかるな」って思うしね。お誘いだけで生きてます(笑)。
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やっぱりヒップホップがデカいんだろうね
2019年9月25日更新