女性目線なんてわかるわけないから!
──柳沢さんから見て、はっとりさんの書く歌詞はどう見えますか?
柳沢 引っかかりのある言葉を使いますよね。「レモンパイ」の「鶴は千年、馬鹿は残念」とか。「あの、鶴は千年の曲ってなんだっけ?」と言える強さがあるなって。あと冷静に聴いてみたら、バンドのことを歌っている曲が多いよね? 「レモンパイ」のカップリングの「OKKAKE」もそうだし、ライブでずっとやっている「ワンドリンク別」とかもそうだし。
はっとり 確かにそうですね。
柳沢 バンド活動をしている中で生まれるバンドマンとしての欲求とか、自分たちの裏側の部分や本音をトリッキーに見せつつも、実は露骨に出しているなって思う。変な話、MCで言うようなことが歌詞になっていたりする。そういう言葉が、ポップなメロディや面白いアレンジの中にしれっと紛れ込んでいる感じが面白いよね。例えば「あのときのSUPER BEAVER、ムカついたな」なんて思ったら、それを僕らには直接は言わずに、曲にしそう(笑)。
はっとり それ、めちゃくちゃ暗いヤツみたいじゃないですか!(笑)
柳沢 はっとりはそういうクリエイティブに特化して脳みそを回転をさせているんじゃないかなっていう話です(笑)。
はっとり 皮肉については言いたがりなので、みんなが見ている角度からズラしたくなってしまう。僕、おばあちゃん子だったんですけど、おばあちゃんにも「お前はあまのじゃくだ」なんて言われていたんですよね。みんなが楽しがっているとつまらなくなってしまう……そういう、残念なタイプのあまのじゃくなんです(笑)。ヤナギさんにずっと聞きたかったことがあるんですけど、ビーバーの「Q&A」(2005年発表のアルバム「愛する」収録曲)って、女性目線で書いたんですか?
柳沢 あれは女性目線と男性目線のデュエットソングってイメージかな。ただ、毎回思うことなんだけど、例えば「赤を塗って」という曲も、女性目線で書いたんだよ。でも結局は女性目線をイメージして書いた男性目線だから、それが女性にどう届いているのかはわからないんだよね。僕がどれだけ「女性目線で書いたんですよ」なんて言っても、女性目線なんてわかるわけがないんだから(笑)。
はっとり そっかあ。僕も「働く女」とか「クールな女」みたいな曲で、女性目線の歌詞を書いたりするんですけど、それって“男から見た女性像”なんですよね。でも、僕は「Q&A」の歌詞を見たときに、女性の精神的な強さの中にある絶妙な弱さを描いているような感じがして。「なんで、こんな歌詞が書けるんだろう?」って、すごくうらやましかったんです。
柳沢 でも結局、願望であることが多いよ。僕は女性アーティストの方に楽曲提供したことがあるんだけど、ある曲で「思わず泣いた」って歌詞を書いたんです。でも、「たぶん、女の人は泣かないと思う」という話になって、その部分は変えたんだよね。ただ、はっとりも「女性の絶妙な弱さ」と言ってくれたけど、女性が弱いかどうかなんて、男には絶対にわからないから。それは、「きっと女性はこうなんじゃないか」みたいに想像しているだけなんだよね。男にロマンチストが多いのはわかる。「女性は傷付いたとき、1人で泣いているんじゃないか……」なんて思うんだけど、それは男の妄想だから(笑)。
はっとり そっか。前に付き合っていた女の人に、別れ際に「なんで、そんなに美化したがるの?」って言われたのを、思い出しました。
柳沢 うはははは(笑)。もちろん、男性が女性目線の歌詞を書くのは面白いし、「渋谷に歌わせたいな」と思って書いたこともあったけど、それが、女性にどう届くかはわからない。そこは面白いよね。
歌詞に見る美学、ライブとの関係性
──SUPER BEAVERの歌詞って、さまざまな語彙の中から、「これで伝わる!」という確信にまで研ぎ澄ませた一言をズバッと投げてきたりもするじゃないですか。あの熟練のシンプルさのようなものは、はっとりさんにはどのように見えていますか?
はっとり ビーバーの歌詞は、すごく簡単な言葉で言っているように見えるけど、本当はかなり緻密に作られていると思うんです。今の僕には、あそこまでシンプルに見せる能力がないような気がしていて。ビーバーの歌詞って、限りなく一人称に近い三人称だと思うんですよね。さっきの「Q&A」もそうですけど、主人公はいるんだけど、聴いている人たちが自分に置き変えることができる。でも僕の場合は、三人称の曲は、完全に俯瞰で見てしまう。自分の本音も入れたいんですけど、どこか遠くから見ている感じになりがちなんです。でもそれは僕なりの美学でもあって、ビーバーのような歌詞を僕らの曲に乗せても、まったくよくならないと思うんですよ。
柳沢 うん、そうだと思う。僕らもそもそもはすごく説明的で、長ったらしい歌詞を書いていんだよね。そこからどんどんとシンプルな言葉にしているのは、すごく意識的なことで。過去に1度メジャーから離れたあと、自分たちに向き合うような、内向きな楽曲が生まれていった時期があって。そこに共感してくれる人もいたんだけど、その頃は「もしも違うニュアンスで捉えられたら嫌だな」という思いから、歌詞は説明的に長くなっていたんですよ。でも今は自分たちの進んできた道のりや、歌ってきたことに1本芯が貫けれていれば、どう言葉を投げてもちゃんと届くという自負や自信が強くなっていて。
はっとり 変化していったんですね。
柳沢 やっぱりライブが大きかったと思うんだけどね。ライブでお客さんに面と向かって歌い続けていく中で、しっかり届けられる自信が付いてきた。それにつれて、楽曲や歌詞の書き方の矛先も、少しずつ内から外に向き始めた。誤解を恐れなくなった、というか。具体的には、「361°」(2014年発表のアルバム)ぐらいから、歌詞の二人称を「君」じゃなくて「あなた」に変えていったんだけど、それは渋谷がMCで「『あなたたち』じゃなくて『あなた』に歌っている」と言ったことが、すごくしっくりきたからなんだよね。
はっとり なるほど……。ライブで得た経験から歌詞の書き方が変わったんですね。
柳沢 そう。だからさっき緻密と言ってくれたけど、自分の歌詞の書き方で、強いて緻密な部分を言うとすれば、今は「てにをは」をめちゃくちゃ気にしてる。「〇〇は」なのか、「〇〇が」なのか、その1文字で歌詞の主体性はすごく変わってくるから。あるいは、「〇〇していく」なのか、「〇〇している」なのか……そういうニュアンスで、歌詞の意味合いがすごく変わる。そこを今はこだわるようになったかな。
──今、はっとりさんはライブの現場で、どのような空間を生み出したいと思っていますか? それによって、もしかしたらこの先のマカロニえんぴつの歌詞のありようも変わっていくかもしれないですよね。
はっとり 最近感じるのは、「ライブは予期せぬことが起こる場所なんだ」ということで。「自分たちはこういうライブをしたいんだ」とカッチリした思いを持っていても、お客さんの生み出す空気が、自分が用意していたものに勝ることがあるんです。なので、「ライブはお客さんと一緒に作るものなんだ」という意識が最近は強くなっています。ただ、最初に柳沢さんが言ってくれましたけど、僕らのライブは手を挙げて盛り上がるようなものではなくて。前にくるりのデビュー当初のライブ映像を観たんですけど、すごくゆっくりなテンポの「街」という曲で、岸田(繁)さんがシャウトして、演奏も後半に行くにしたがって徐々に熱を帯びて荒々しくなって……。その中で、お客さんは横に揺れているんだけど、その揺れている様子が、家でヘッドフォンを付けて爆音で音楽を聴いているときの感じなんですよ。
──お客さん1人ひとりとバンドの間に、ものすごく濃密な空気が漂っているんですよね。
はっとり そう、完全に曲に入り込んでいる。ああいうつながり方ができるようになりたいです。お客さんの誰もが能動的にそこにいて、僕らは演奏を見せつける。それは「すごいだろ!」ってことではなくて、お客さんと一緒にもっとすごい景色を見たいということで。僕らが一方的にエモいライブをするのではなく、そしてお客さんが音楽を聴かずにはしゃぐのではなく、相乗効果で言葉を介さずに、音楽で会話をするような……そういうものが、今の僕らの理想のライブかもしれないです。「空気を読む」ということの一番美しい形がライブだと思うんですよね。誰かに気を遣って「空気を読む」のではなくて、「今日のライブはどうなっていくんだ?」って、先がどうなるかわからないからこそ、みんなが空気を読んでいく。そこがライブの面白さだなって思います。
ツアー情報
- マカロックツアーvol.7~ライクからラヴへ、恋の直球ド真ん中ストライク初全国ワンマン篇~
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- 2019年3月30日(土)広島県 HIROSHIMA BACK BEAT
- 2019年3月31日(日)福岡県 Queblick
- 2019年4月5日(金)石川県 vanvanV4
- 2019年4月6日(土)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
- 2019年4月12日(金)北海道 COLONY
- 2019年4月14日(日)宮城県 enn 2nd
- 2019年4月20日(土)愛知県 APOLLO BASE
- 2019年4月21日(日)大阪府 MUSIC club JANUS
- 2019年4月23日(火)香川県 高松TOONICE
- 2019年5月12日(日)東京都 LIQUIDROOM