はっとり(マカロニえんぴつ)×柳沢亮太(SUPER BEAVER)|先輩と後輩、ジャンル違えど共鳴し合う2人の価値観

ライブで大切なのは「会話」

──柳沢さんはものすごく深いところまで、マカロニのことをご覧になっていますね。

左からはっとり(マカロニえんぴつ)、柳沢亮太(SUPER BEAVER)。

柳沢 あんまり偉そうなことは言いたくないですけどね(笑)。でも最近、ひさびさにeggmanで観たライブは、すごくよかった。

はっとり ああっ! よかったー!

柳沢 「こいつら、自覚し始めたぞ」と思った(笑)。自分たちの音楽が受け入れられている、届いているという自信が付き始めたんじゃないかなって。リスナーに届いている実感があるからこそ、音を放つときの空気感って変わるものだから。それは自分が経験してきたからこそ思うことで、マカロニもそういうすごく手応えのあるツアーやライブを、ここ1、2年で経験してきたんじゃないかなって。

はっとり その通りです。ヤナギさんが観てくださったのは「レモンパイ」(2018年10月発表のシングル)のリリースツアーファイナルだと思うんですけど、まさに今、自分たちに自信が付いてきているのがわかります。それまでは「ライブがよくならない。どうしたらよくなるんだろう?」と悩んでいた時期が僕らには長くあって。正直、自分たちでもライブが楽しくない期間があったんですよね。なぜそうなるのかを今考えると、そもそもなんのために、誰のために音楽をやっているのかが自分たちでわかっていなかったからだと思うんです。でも、「CHOSYOKU」(2017年12月発表の1stアルバム)を一昨年に出して、それが2018年に1年かけて浸透していって。そのうえで発表した「レモンパイ」が、さらにいろんな人たちに届いた。「レモンパイ」のツアーが全公演ソールドアウトしたのが、驚きと共に自信につながったんですよね。ライブはお客さんとの意思疎通を図る会話の場なんだと、そのときのツアーでわかったんです。

柳沢 うん。

はっとり 「なんで自分はお客さんに向き合っているんだろう?」の答えは「会話をするためなんだ」と気付いてから、ライブが楽しくなりました。MCも「今日、何しゃべろう?」と考えず、「思っていることをしゃべればいいだけなんだ」というシンプルなところにたどり着いた。お客さんをノせるためではなく、自分たちが一番ノれる曲をやれば、お客さんも楽しくノれるし。ありがたいことに、去年は年末のフェスにも呼んでいただいて。「COUNTDOWN JAPAN」はビーバーと同じ日だったんですけど、あそこでは8000人くらいの人が観てるんですよね。

柳沢 大きいよねえ。

はっとり あれだけ大きなキャパは初めてだったんですけど、あのステージでギターを弾いて、自分の声が響いていることを感じたときに、最初にヤナギさんがおっしゃってくださった「ホールで観たい」という言葉の意味がわかった気がしました。そういうことを意識して曲作りをしてきたわけではないんですけど、あの規模感でやったときに、自分たちの曲がすごくハマった感じがして。「この曲たちは、こういう場所でやりたがっていたんだな」とすごく感じました。

世代を超えて受け継がれる〇〇イズム

──僕は去年、スピッツ主催のイベント「ロックのほそ道」でSUPER BEAVERのライブを観させていただきました。あのとき草野マサムネさんが「音楽の隔世遺伝」についてMCで語っていたんですよね。「THE BLUE HEARTSに憧れてバンドを始めたはずの自分たちは、甲本ヒロトさんのようにハンドマイクで歌えないけど、初めて買ったCDがスピッツだったというSUPER BEAVERの渋谷龍太はハンドマイクで歌っている。これは隔世遺伝なんじゃないか?」って。

柳沢 ああ、言ってましたね。

──この隔世遺伝の感覚は、もしかしたらSUPER BEAVERとマカロニえんぴつにも通じる話なのかなって思うんです。SUPER BEAVERとマカロニえんぴつって、端から見ればまったくカラーの違うバンドだし、世代も違うけど、最初におっしゃったように、メロディのツボのような部分でつながっている。これはすごく面白いなと。

はっとり(マカロニえんぴつ)

柳沢 なるほど。ただ、そもそもはっとりが何を聴いてきたのかっていうのも、僕はあんまり知らなくて。はっとりって、何を聴いてきたの?(笑)

はっとり 「バンドを始めたい」と思ったきっかけはユニコーンなんですけど、日本語ロックの衝撃を受けたのはサンボマスターですね。あとメロディのわびさびを学んだのはスキマスイッチで、もっともっと幼少期に遡ると、ゆずとaikoさんの影響もあるかもしれないです。僕には4つ上の姉がいるんですけど、ずっと車の中でゆずとaikoさんが流れていたんですよ。

柳沢 そっかあ。今言ってくれたものの中で、意外なものはなかったね。全部、今のマカロニの音楽性にしっくりくる。

はっとり やっぱり、今挙げた人たちの共通点って、メロディのよさだと思うんです。僕、曲の中にサビは絶対に入れたいんですよ。マカロニに大ちゃん(長谷川大喜 / Key, Cho)と僕の共作曲が多いのは、基本的には大ちゃんが作っているんだけど、サビだけ僕が作っているパターンが多いからなんですよね。「どうしてもサビは入れたい!」って、無理やり入れさせてもらっていて(笑)。自分の曲に絶対にグッとくるポイント、泣きメロポイントがほしくなるのは、僕の中のaikoイズムだし、ゆずイズムだし、スキマスイッチイズムなのかもしれないです。

自分たちはJ-POPだ

柳沢 今の話で思い出したのは、はっとりは「自分たちはJ-POPだ」って言うじゃん?

はっとり はい。

柳沢 僕らも微妙に意味は違えど、「ジャパニーズ・ポップ・ミュージック」という言葉を掲げているバンドで。僕らがこの言葉を掲げるのは、ある種の意志というか、「やむを得ない感」を欲していることの表明でもあって。自分が好きか嫌いかはさておいて、街で流れている音楽を知らぬ間に口ずさんでいることって、あるじゃん。

はっとり ありますね。

柳沢亮太(SUPER BEAVER)

柳沢 誰かが思わず口ずさむ音楽って、圧倒的に強いと思うんだよね。なぜかわからないけど覚えている曲とか、子供の頃に聴いていたものを知らず知らずのうちに今でも口ずさめるとか……。そういう音楽の力に、僕らはすごく魅力を感じていて。そんな音楽でありたいっていう意志を、僕らは“ジャパニーズポップミュージック”という言葉で表現しているんだけど、そこの共通項は、マカロニと僕らの間にはあるんじゃないかと思う。ポップだ、ロックだ、ジャズだとかってことはどうでもよくて、自分たちの根にあるものが聴いた人の内面にいかに土足で踏み込むかっていう気持ち。「気付いたときには、もう入られていた!」みたいな体験を引き起こそうとしている。はっとりがサビを欲する理由の1つも、そこにあるんじゃないかと思うんだよね。

はっとり まさにそうだと思います。

柳沢 サビを作りたい理由って、要は「どうしても聴いた人の頭の中に残したい」ということだから。「あの曲ってこうだよね」って人に話したとき、パッと頭に浮かんだフレーズはテレビから流れてくる音楽のサビだった、みたいなことが起こり得る。さっきの隔世遺伝の話も然りで、僕らとマカロニの共通している部分は、そういうリスナーの頭に残る要素を強く欲しているところにあるのかなって。もちろん「サビの強い曲とはどういう曲なのか?」なんて、一概に言えることではないんだけどね。

はっとり “サビ論”ですよね。もしかしたら、ギターソロがサビの人もいるかもしれない。

柳沢 そのときの気分によっても変わるだろうし、聴いた人の受け取り方でいいと思う。だけど、あくまでそれはこっちが責任を持って曲を世の中に投げてからの話だと思うので。サビへのこだわりは、はっとりが音楽を世に出していく中で、譲れないポイントなんだろうなって思う。

はっとり 僕が特に最近思うのは、2、3年だけバズることには、まったく興味がないんですよね。そんな姿勢で音楽を作るのは、表現者として寂しいと思っていて。マカロニえんぴつは、最初から「ずっと残る音楽を作りたい」と思い続けているんです。そこだけブレずに音楽を作り続けることができれば、あとは気付いてくれるのを待てばいいのかなって。

柳沢 そうだね。マカロニは今、すごく顔立ちに合った音楽をやっていると思うし、はっとりにも同世代のバンドとかで気になるバンドがいるかもしれないけど、変に意識する必要はないと思うよ。もちろん僕らのライブに刺激を受けてくれたとしても、僕らと同じような表現をする必要なんて一切ない。「なんとなく仲がいいから」とか、「なんとなく表現の仕方が近いから一緒にツアー回ろうぜ」みたいな空気感って、僕自身としても違和感を覚えたりする部分なので。「自分たちの音楽が大好きだ」って言い続けることができれば、本当の仲間は増えていくと思う。本当の仲間は全然畑が違ったり、もはや音楽の人じゃなくても、意識し合ったり、影響を与え合う存在でしょ。そういう意味でも、人と違うルートを探して、突き進んでいけばいいと思う。誰かから求められ続けられればいいんだから。アーティストはやっぱり、求められればうれしいものだからね。さっきのライブの話で、はっとりは「ライブが楽しくなかった」って言っていたけど、もしかしたらお客さんはめちゃくちゃ楽しんで帰っていたかもしれないんだよね。

はっとり そうですよね。そういう部分に気付けていなかったんだろうと思います。

柳沢 「ちゃんと好きでいてくれているんだ」と感じたとき、アーティストは「もっともっと楽しませたい」とか、「もっともっと笑顔にさせたい」って思うものだから。