人とのつながりが連鎖していくような8年
──DISC 2に関してはどうですか?
こちらは曲順も自分で考えて入れました。自分で聴いていても面白い1枚だなと思ってまして。1枚のアルバムに小山田(圭吾 / Cornelius)さんがいて冨田(恵一 / 冨田ラボ)さんがいて菅野さんもいる、この布陣を見ても胸アツですよね。こんな豪華な皆さんとご一緒できるようになってよかったなって思います。
──冨田さんは「ミツバチ」の頃からコラボがありましたが、その関係性も数を重ねて変わってきましたよね。どのアーティストとの関係も、以前とは少し違う向き合い方をしているように見えます。
冨田さんはすごく前の曲でアレンジをお願いしたのがきっかけで、そのときは受けていただけただけでも幸運だって思っていましたが、気がつけばご本人のアルバムやライブにも呼んでいただけるようになって。投げたボールをあちらからも投げ返してくれる感覚がすごくうれしかったんですよね。末光(篤)さんもそうだったし、小山田さんもご自身のNHKの番組のサウンドトラックに呼んでくださったり。人とのつながりが連鎖していくような8年。受け取るだけじゃない感じがしてうれしかったですね。
──DISC 2にはDREAMS COME TRUEのトリビュートアルバム「The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタVol.1」に収録された「三日月」のカバーも収められています。トリビュートの選曲はご自身でされたんですか?
はい。「なんでも自由に選んでください」という感じで。中学高校とドリカムさんをよく聴いていたので、思い入れのある曲はいっぱいあって……自分が歌うところをイメージしたときに、自分の曲にするまでに至る曲ってなかなかないなと思っていたんですけど、これはすごくしっくりきました。改めて聴くとこの「三日月」のカバー、相当よくできてると思うんですよ(笑)。多くの人に聴いてほしいです。オリジナルはすごく独特なメロディがシンプルな演奏で表現されていて、いかようにもアレンジを膨らませられる曲だったと思うんですけど、山本隆二さんがすごく秀逸なアレンジをしてくださいました。
理由があっての出会い
──「坂本真綾 コーネリアス」名義の楽曲では作詞家としての坂本慎太郎さんとの出会いもありました。まさかこの2人が音楽で交わる日が来るなんて想像もしておらず、最初に話を聞いたときは驚きました。
坂本慎太郎さんとの出会いは個人的に大きいです。歌詞が全部素晴らしいんですよね、本当に。坂本慎太郎さんと出会えてよかったですね……。
──影響を受けた?
影響、受けたかったですね。どうやって受ければいいんだろう。影響ってなんなんですかね(笑)。どうやったらあんな言葉を紡げるのか。哲学的でもあり、遊び心もあり……。
──ほかにもリスナーとして愛聴しているアーティストに対して「この人とやったら面白そうだな」と想像を膨らませることはありますか?
ありますあります。ただ、「この人とやりたい」というのが曲を制作する一番の動機ではないんですよね、どの曲も。例えば椎名林檎さんであっても、andropの内澤(崇仁)さんであっても、そのとき求められた作品のイメージを叶えてくれる人は誰だろう?と考えて出てきたアイデアだったりするので。リスナーとして聴いて「この人と一緒にやったらどうなるかな」とイメージすることはもちろんありますけど、それだけでは動き出せないというか。ふわっとしたイメージだけだと、頼まれた方も困ると思うんですよね。その点では「今日だけの音楽」はうまく形になったなと思います。先にアルバム全体のストーリーを作って「これをもとに曲を書いてください」とお願いすることで、初めて組んだ人にもイメージを膨らませてもらいやすかったと思うので(参照:坂本真綾「今日だけの音楽」インタビュー)。理由があっての出会いなのかなと思いますね。
──ちなみに今作には唯一の新録曲として、Negiccoに歌詞を提供した「私へ」のセルフカバーが収められています(参照:Negicco念願の初NHKホール決定、ニューアルバムに坂本真綾作詞ナンバー)。なぜこの曲を選んだのでしょうか?
もともとは自分でカバーしたいという気持ちはまったくなくて。この曲はあくまでNegiccoさんのために、Negiccoさんが歌うことだけを考えて書いたんです。でも、この数年の私の変化として、いろんな人に歌詞を提供する場ができたことは大きくて、それを1つ「アチコチ」に入れておくことにも意味があるかなって。それで過去に提供した歌詞の中でセルフカバーしたいものを考えてみたんですけど、やっぱりどの曲も歌ってくれる人をイメージして書いているから、自分が歌うとなると「なんか違うな」と感じる曲ばっかりだったんです。でも「私へ」に関しては、私自身やNegiccoさんの素の部分が出るような歌詞にしたいという思いがあったので、実体験に基づいた歌詞にしたんです。“手紙を書く”という歌詞の内容が、Negiccoさんが歌うと「未来の自分に手紙を書き残す」という印象になって、自分が歌うと「遠い昔に書いた手紙を発見して読んでいる」という印象になる。同じ歌詞なのに視点が変わっていいカバーになるかもしれない、と思ってこの曲を選びました。
──Negiccoはその後、Nao☆さんとMeguさんが現役アイドルのまま結婚するという大きな変化がありました。
彼女たちのアイドルとしてのキラキラと、1人の実在する女性としてのキラキラがすごくいい形で実を結んでいますよね。「私へ」を書いてるときも、いつまでも偶像であろうとするのではなく、自分で足を踏みしめてる感じがするところがNegiccoさんの応援したくなるところだよなと思っていて。自分の足で歩いている女性というイメージがあったので、最初にNao☆ちゃんが結婚したときは勝手にうれしくなりましたし、それを受け入れているファンの方たちを見て、彼女たちががんばってきたことがしっかり実っていていいなと思いました。
日々のいいことや悪いことを自分で残したい
──シングルコレクションという形でこの数年間の足跡を振り返って、改めてどう感じますか?
歩いてきた道のりを何年かごとに一旦まとめるというのは面白い作業だなと思います。自分でもいろいろと再確認できるし、なかなかよくやったんじゃないかと思える。いいもんだなって。
──今年はデビュー25周年に向けてのアニバーサリーイヤーでもあります。「アチコチ」はいいタイミングでのひと区切りとなりましたが、これからのこともいろいろ考えていたりします?
私はいつも1年くらい先のことまでしかイメージできなくて、そんなに先々のことまで考えてないんです。目の前のことに精一杯。
──この1年で言うと、コロナ禍でもともと決まっていた予定がなくなるようなこともあったのでしょうか。
いえ、20周年のときにいろいろと派手なことはやったし、今年はミュージカルが決まっていたので、もともと音楽活動についてはあまり具体的には考えていませんでした。でも実は、ステイホーム期間に新曲を作ったんです。それで「世の中のテーマ対自分の生き方」みたいなことを考える場面に至ったときに、こうして作品として消化できるってすごくありがたいことだなと改めて感じました。日々のいいことや悪いことを自分で書き残していきたいという思いは、淡々と熱くあります。同時に、到底自分には出し得ない個性や強さを持った曲を書いてくれる人が周りにはたくさんいるので、その両方があることが私には必要かなと思っています。