ナタリー PowerPush - 映画「マン・オブ・スティール」

ヒャダインが夢想する「僕がスーパーマンだったなら」

アメコミヒーロー、スーパーマンの新たな映画「マン・オブ・スティール」が8月30日に公開される。脚本・製作を手がけるのは、「ダークナイト」で斬新なバットマン像を提示してみせたクリストファー・ノーラン。監督は走るゾンビで映画ファンの度肝を抜いた「ドーン・オブ・ザ・デッド」のザック・スナイダーだ。

ナタリーでは公開に先駆け、この映画の連続特集を展開中。その第3弾として、いち早く本作をチェックしたヒャダインを直撃。無類のスーパーマンファンだと語る彼にスーパーマンへの思い入れや、新しいスーパーマンに対する感想をシリアスに聞きつつ、もしも自身がスーパーマンだったら何をしたいかを妄想全開で明かしてもらった。

取材・文 / 成松哲 撮影 / 福本和洋 企画 / 富樫奈緒子

クリプトン星の描き方とスピード感に感服

──そのTシャツって……。

ヒャダイン

自前です。

──ということは「スーパーマン」は……。

大好きですね。70~80年代の「スーパーマン」(1979年日本公開の「スーパーマン」から1987年公開の「スーパーマンIV / 最強の敵」まで)から、前作の「スーパーマン リターンズ」(2006年)までちゃんと観てるんですけど、これまでの映画ではスーパーマンの生まれ故郷のクリプトン星のことってあんまり描かれてなかったんですよ。

──第1作目の時点でクリプトン星はなくなったものとしてお話が進んでましたもんね。

爆発して終わり、みたいな感じで(笑)。でも今回の「マン・オブ・スティール」ではそのクリプトン星について詳しく描かれているんです。しかも今回は映像のクオリティが「~リターンズ」の頃と比べて進化どころの騒ぎじゃない。リアリスティックでありながらも、すごくファンタジックな感じじゃないですか。そのクオリティでクリプトン星を見せてくれたことにまず感動しましたね。今まではクリプトン星はどんな感じなのか、勝手に妄想するしかなかったわけですから。

──ザック・スナイダー監督の描くクリプトン星はヒャダインさんの妄想通りでした?

いや、いい意味でイメージを裏切ってくれてました。僕が妄想していたのとはまったく違うんだけど、でもちゃんと答えを出してくれたこと、しかも納得できる答えを出してくれたことはホントにうれしかったですね。あと映像のクオリティの高さのおかげで改めて気付いたことなんですけど、実はスーパーマンって歴代のアメコミヒーローの中でも最速なんですよね。「そこまで速くせんでも」ってくらいの勢いで、その圧倒的な速度感をきちんと表現していたのもビックリしました。

──確かに格闘シーンは「クリプトン星人同士が地球上で本気で空を飛んで闘ったら、こういう大災害みたいになるはずだよな」ってことを再確認させてくれましたよね。

そうなんですよ。「肉眼で追えないほど速いんだから、見えないところは撮らなくてもいいだろう」なんて手抜きをするわけじゃなくって、すごい勢いでビルに体を叩きつけられたり、その衝撃でビルの窓ガラスが粉々に割れたり、ほかの映画なら10秒くらいかけて描くシーンを1秒間の中に詰め込んでくれたおかげで、スーパーマンが普段体感しているんだろうスピード感を僕も体験できました。そういった意味でも本当に革命的な作品だな、って思いましたね。

2013年にチューニングをあわせたスーパーマン像

──物語についてはどうご覧になりました?

これまでのシリーズってすでにスーパーマンは地球で暮らしているものとして物語が進んでいたから、今回「実はそのスーパーマンになるまでにはいろんな苦悩や葛藤があったんだ」っていうことが語られたことにはビックリしたし、新しさを感じました。

──しかも、降りかかってくる苦悩とその乗り越え方が本当にヘビーで……。

ヒャダイン

ねえ。これまでのスーパーマンってちょっとコミカルな要素が入っていたんだけど、今回はそれが一切ない。ネタバレになるから詳しくは言えないけど、昔の映画ではスーパーマンの地球での父親、ジョナサン・ケントって気付いたら死んでたって感じのキャラクターだったんですよ。なのに、その裏には実はあんなことがあったのか、とかね。あとゾッド将軍との闘いの決着の付け方とか、そういう苦悩をしっかり描いている。それは見た目にも現れてましたよね。スーパーマンって言ったら「お婿さんにしたい男No.1」じゃないんだけど、明るいイメージがあるじゃないですか。クラーク・ケントのときは几帳面で潔癖症なんだけど、基本的にはボーッとしてて、でもスーパーマンに変身したら清潔感があってパワフルな、本当にヒーローらしいヒーローになるって感じで。

──そうですね。

でも今回のクラーク・ケントは無精髭を生やして汚い船に乗っていたりする。そういう画にしたのは、彼のヘビーな内面や力を持つ者の宿命を描きたかったからだと思うんですよ。力を持つ者とか目立つ人って嫉妬や畏怖の対象になりがちじゃないですか。だからジョナサンは幼少期のクラークに「滅多なことで力を使うな」って釘を刺していたわけで。それでもクラーク少年は誰かのために力を発揮してしまうんだけど、そうするとやっぱりジョナサンが心配した通りになってしまう。最初こそヒーロー扱いされるものの、結局は化け物扱いされてしまう。パワーを持つ者っていうのは何かしらのリスクを追わなきゃいけないし、逆にパワーを持たない人は、パワーを持つ相手、自分が理解できない相手を畏怖の対象として見てしまう。そういうことをしっかり描いているあたりは、ちゃんと今の時代にチューニングをあわせてるなあ、すごいなあと思いましたね。

──クラーク・ケントがスーパーマンになる以前のエピソードでありながら、2013年と同時代性のある作品でもある、と。

ええ。例えばネットで目立ったことをした人がとたんに叩かれてしまうことや、国同士、民族同士の文化的な対立みたいなことって今でも当たり前のようにあるわけじゃないですか。やっぱりわからないものや、目立っているものってちょっと怖いですよね?

──確かにそうですね。

ヒャダイン

だから思わず攻撃的になってしまうこともあるんでしょうし。あと、今回脚本を書いたクリストファー・ノーランの撮った「ダークナイト」に代表されるように、もうアメコミヒーローといえども「やったぜベイベー!」みたいなノリでは生きていけない時代なんですよね。力を持つ者が孤独であったり、力を持っているがゆえに責務を負っていたりすることをみんな知ってるから。

──だからコミカルなノリは引っ込めた、と。

そうなんだと思います。ただ「マン・オブ・スティール」がいいな、と思うのが、スーパーマンをダークヒーローにはしていませんよね。「みんなのために正しいことをやっているんだけど、誰にも理解されない」みたいな悲しい状況には絶対に置かない。「確かに人は理解できないものを畏怖するかもしれないけど、それでもちゃんと救いはあるんだ」って内容になっているのはホントによかったな、と思いますね。

映画「マン・オブ・スティール」2013年8月30日(金)全国ロードショー
映画「マン・オブ・スティール」

あなたは知っているだろうか。アメコミ史上最高のヒーローを。
すべての戦うキャラクターの中で、圧倒的な人気を誇り続ける不動の男を。
──それこそが、スーパーマンだ。ヒーローと名の付く男たちは大勢いても、ナンバーワンは、世界にスーパーマンしかいない!
そんな最強ヒーローの誕生秘話が、この夏、初めて明かされる! これまで一度も描かれることのなかった核心のストーリー。新たなるスーパーマンの物語が、いよいよここからスタートする──!

脚本・製作:クリストファー・ノーラン(「インセプション」「ダークナイト」シリーズ)
監督:ザック・スナイダー(「300<スリーハンドレッド>」)
キャスト:ヘンリー・カビル、エイミー・アダムス、ローレンス・フィッシュバーン、ケビン・コスナー、ダイアン・レイン、ラッセル・クロウ

ヒャダイン

ヒャダイン

1980年7月4日生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身に付ける。京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として、倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たした。2012年11月には初のソロアルバム「20112012」を、2013年1月には6枚目となるソロシングル「23時40分 feat. Base Ball Bear」を発表。同5月には7thシングル「笑いの神様が降りてきた!」をリリースした。