ナタリー PowerPush - LOVE PSYCHEDELICO

6thアルバムへの期待煽る布石シングル

無理に作品を生み出そうとは思ってない

──このシングルは、カオスの中から突き抜けて響く「Beautiful World」で始まって、幸福感がシンフォニックに鳴らされている「Happy Xmas (War Is Over)」ときて、3曲目の「Good to me」でただただポップなサウンドが鳴っている。

KUMI そう、「Good to me」はあっけらかんとした曲(笑)。

NAOKI この曲はKUMIが中心になって作ったんだよね。

KUMI そうだね。アルバムに向けたレコーディングの中で、2人でセッションしようってことになって、ドラム叩いたり、ギター弾いたり、ベース弾いたり。その中で生まれた1曲で。カジュアルな感じで作ったムードが封じ込められているんじゃないかな。「Beautiful World」が心に深く入りこむような曲だから、こういう気軽な曲があってもいいかなっていう。シングルの中でのバランスを考えて、この3曲を選んだんだけどね。

NAOKI 今やシングルのリリースが減ってるしね。せっかく出すんだったら、ちゃんと残る曲を作ろうよって。

──今の時代、スタジオに入らずとも音楽を作ることができるようになり、さらにはそれを発表することも手軽になった結果、巷には音楽があふれ、音楽自体の相対的な価値も下がったと言われていますよね。そんな中、1曲に数カ月かけるLOVE PSYCHEDELICOの作品は、さらりと聴けると同時に聴き込んで楽しめる深みもあるように思います。

NAOKI そんなにね、頑なに信念を貫いてるような2人じゃないのに、周りがすごい変化しているから、際立っているように思うんじゃない?

──それは自分たちの中では当たり前なものになっているだけであって、LOVE PSYCHEDELICOは信念を持っているグループだと思いますけどね。

KUMI そうね。私自身とっても頑固なところはあると思う(笑)。

NAOKI シングルのリリースが減ったり音楽制作にお金をかけなくなったことで、音楽がチープになっていく中で、自分たちはやり方を変えずに音楽を作っているけど、だからといってハイエンドオーディオ用の立派な音楽をやりたいわけではないし、ハイクオリティなものを目指してるわけでもない。

KUMI とはいえ、無理に作品を生み出そうとは思ってないし、できなかったらできないでしょうがないって思っているし。作らなきゃって思って作っているわけではないから、なんで音楽を作っているのか、なんで作りたくなるのか、自分でもたまにわからなくなるんだけどね。まあ、でも無理に動機付けなくても、できるものはできるだろうし、それでいいのかなって思っているんだけど(笑)。

曲を作る際に余計な説明はいらない

──現在は新作アルバムをレコーディング中とのことですが、作業はどのように進められているんですか?

KUMI 昼過ぎから夜まで、自分たちのスタジオで規則正しくやってるかな。ただ、こんなに安定して作業を続けられてることは今までなかったかもしれない。

NAOKI これまでの経験上、無理に作業を詰め込まなくなったし(笑)。

──かつては昼夜問わず音楽制作に没頭して、作品ができあがると抜け殻のような状態になってたこともありましたよね。

KUMI うん。だから今は、調子が悪くなる前に「そろそろ、ヤバいかも」って感じたら、2週間くらい休んでみたり。さすがにバランスがわかってきたって感じ(笑)。

──前作「ABBOT KINNEY」はロサンゼルスでの滞在経験に触発されて作られた作品でしたが、今はどんなところからインスピレーションを得てますか?

NAOKI 以前は自分たちでファンタジーを作り出すために、例えばロスに滞在してみて、そこで得たものを作品にしていたんだけど、去年の震災以降、普通に日常生活を過ごす中で音楽を作る人も聴く人もみんな共通する何かしらが心に芽生えていると思うんですよ。メッセージソングでなくとも、聴く人は普通に奏でたポップスから哲学を知ろうとしているし、作る側からすれば「がんばれ」とか「がんばろうよ」って歌わなくても、音楽を奏でるだけで何かをキャッチしてもらえるという安心感があって、曲を作る際に余計な説明はいらない気がして。だから、みんなが日常を生きてるだけでもいろんなことを思い感じるように、俺たちも日常で思い付いたことをそのまま曲にしているっていうのが今の状況かな、と。

──ところで昨年末には自分たちの事務所を立ち上げたんですよね?

KUMI そう。元々私たちは等身大で音楽をやってきたつもりだけど、事務所を作ったことで環境的にも等身大になって、自分たちの生き方が音楽にそのまま反映されるようになって。だから日常からインスピレーションをどうすくい上げるのか。どこにも属さない生活の中で音楽を作るというのはどういうことなんだろうって、改めて考えながら音楽を作っている最中かな。

アルバムは普遍的なものがキーになる

──最後に、来たる6枚目のアルバムについて一言お願いします。

NAOKI 3年振りのアルバムに向けて、今はいろんなタイプの曲を作っていて。「ABBOT KINNEY」みたいなコンセプチュアルな作品ではないんだけど、多彩な内容になりそうだね。

KUMI そういう意味で今までの作品とは違うものになりそう。

NAOKI 「ABBOT KINNEY」の制作を通じて、ルーツミュージックも自分の血となり、肉となったので、そういうものも大切にしつつ、かつてのジョン・レノンがそうだったように、ロックからポップスへと昇華した内容に……なるのかどうなのか(笑)。

KUMI 自分の中でのシンプルさとか太さ、それから日常感……そういう普遍的なものがキーになっていることは間違いないと思う。

LOVE PSYCHEDELICO「Beautiful World」(Short Version)

LOVE PSYCHEDELICO (らぶさいけでりこ)

1997年に結成された、KUMI(Vo, G)とNAOKI(G, B, Key)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽をほうふつとさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。その魅力は瞬く間にリスナーに広がり、2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアワンマンツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開中。