ナタリー PowerPush - THEラブ人間

青春期を終え第二期へ メンバー証言で迫る新展開

“いつか死んでしまう”ことを歌いたい

──新曲「アンカーソング」はTHEラブ人間・第二期の最初の曲ということになるわけですが。

金田 そうですね。第二期の曲を書き始めたのは今年の1月からなんです。2011年12月の終わりに祖父のガンが再発して、年が明けてから一度実家に帰ったんですけど、そのときに歌いたいことが明確になったんですよね。それは“いつか死んでしまう”ということ、要は死生観なんですけども。

──「アンカーソング」には「きみ以外の歌はもう作らないかも、ね」「きみがアンカーだ」「きみが最後の女」というフレーズがあって、これは明らかに「恋に似ている」のときとは違いますよね。それも金田さんの死生観から生まれてきた言葉なんでしょうか?

金田 うん、そうだと思います。「恋に似ている」はすごく後ろ向きなことを歌ってるアルバムなんだけど、「アンカーソング」は全然違いますからね。それはつまり、他者との共生なんですが。「恋に似ている」のときは、「誰かとつながりたい(けど、他人だからできませんよ)」っていう感じだったんです。でも、祖父のことがあってから「いやつながれるはずだ。自分がつながろうとしてなかっただけじゃんよ」って思ったんですよね。

──大きな価値観の反転ですよね。音自体もかなり変化していると思うんですが、そこはどうですか?

ツネ・モリサワ(Key)

ツネ うん、それは自分たちも感じてます。

金田 レコーディングのエンジニアも違う人だし、正直、うまくなったしね。

──演奏が?

金田 いや、演奏がうまくなったという話ではなくて。THEラブ人間の曲作りというのは、楽曲の意味合いを共有するところから始まるし、それに長けることが“うまい”ということだと思ってるんです。「アンカーソング」について言えば、砂埃が舞ってるような演奏ですよね。さらにイントロとアウトロでは全く雰囲気が違うんですよ。同じコード、同じフレーズなんだけど、イントロはゴールが見えない中で模索している感じで、アウトロはゴールが見えてる状態。つまり、心の高揚感が全然違うんです。いつ果てるかわからないけど、夢中で走ってる感覚ですよね。

ツネ ミドル(中音域)からロー(低音域)がさらに出てると思いますね。重心が下がってる感じもあるし。

大人になるのはまだ早い

──バンドの音が太くなってるんですよね。そういうところからもいい意味での落ち着きというか、本当に青春期が終わったんだなという印象が伝わってきて。実際「青春が終わって、大人になった」という感覚はあるんですか?

ツネ どうだろ? 多分「青春期1」が終わったっていうことじゃないですか。大人になるのは早いんじゃない?

金田 そうだね。これから「青春期2」が始まるのかも。相田みつをさんも「一生青春」って言ってるし(笑)。

ツネ 多分小5、小6が終わったくらいの感じじゃない? これから中1になるっていう。

金田 小学生が「女を酔わせて朝まで安ホテル」(「悪党になれたなら」)って歌わないだろ(笑)。今僕は26歳ですけど、正直、まだまだ子供ですからね。自分の親父を見てても、子供だなって思うし。「大人と子供(初夏のテーマ)」というシングルを出したときにも言ったんですけど、そういうことって繰り返しますからね。26歳くらいで「俺、大人になったな」と思っても、5年くらい経てば「5年前はガキだったな」と思うだろうし。これはね、多分止まらないんじゃないかな。

金田康平(歌手)

ツネ 俺らのディレクターさんを見ててもそう思うよね。

金田 そう! 47歳なんですけど、俺よりガキだと思う(笑)。

ツネ 「お菓子ちょうだい」とか言ってるし(笑)。

金田 録音とライブの音作りに関してはすごいんだけどね。あといい雰囲気を作ってくれることとか。

──それってもしかして「男はいつまでも子供」っていうことじゃないですか?

金田 そうかもしれないですね(笑)。

最近やっと男女差がなくなった

──THEラブ人間には女性メンバー(ベーシストのおかもとえみ)がいますが、男女差みたいなものもあります?

金田 どうなんでしょうね? 最近、なくなってきた気もするけど。

ツネ うん。この前、メンバーだけで初めて飲んだんですよ。音楽の話は関係なく。

金田 「メンバーだけで話さないといけない」とか、ミーティングという名のケンカは今までもあったけど、音楽の話を抜きで飲んだのは初めてだったんですよね。名古屋で「手羽先食べよう」って(笑)。

ツネ・モリサワ(Key)

ツネ 「最近どう?」みたいな話から始まって、いろいろんなことを全部聞きました。

金田 ここで全部話したいね(笑)。でも、そこでやっと男女差みたいなものがなくなったんじゃないかなって。元々男女差を気にしてたのは男たちのほうで、えみはちょっと冷めてたんですけどね。女の子のほうがクールじゃないですか。

──精神年齢も上ですからね。男女差がなくって、バンド=ひとつの人格という感じも強まった?

金田 どうですかね? 価値観はそれぞれ違うし、会いたくないときだってあると思うんですけど、それでいいと思うんですよ。そういう違いが曲に侵入してこなかったら、それでいい。

──あくまでも大事なのは曲である、と。

金田 なんといっても曲は曲ですから。一番大切にしなくちゃいけないし、要は「曲にどれだけ向き合えるか?」っていうことなんですよね。楽曲に対する意思だけは全員で理解しないとダメだし、それがないと続かないと思うんです。続いたとしても、なあなあになっちゃう。

──惰性で続くTHEラブ人間は想像できないですね。

ツネ そうですね(笑)。

金田 逆に言えば、そこだけビシッとしてれば楽しくやれるんじゃないかな、と。楽しくないとダメなんだなって、最近やっとわかりました。

ニューシングル「アンカーソング」 / [CD+DVD] / 2012年12月19日発売 / 1890円 / SPEEDSTAR RECORDS VIZL-513
ニューシングル「アンカーソング」
CD収録曲
  1. アンカーソング
  2. 黒いドロドロ
DVD収録内容
  • 青春期終焉GIG映像集【恋に似ていた】
THEラブ人間(らぶにんげん)

金田康平(歌手)、谷崎航大(Violin)、おかもとえみ(B)、服部ケンジ(Dr)、ツネ・モリサワ(Key)によるロックバンド。2009年1月、金田を中心に結成され、同年4月に自主制作音源「恋街のすたるじい」を発売。2010年8月には、都市型フェスティバル「SUMMER SONIC」への出演権を賭けたオーディション企画「出れんの!?サマソニ!?」を勝ち抜き、「SUMMER SONIC 2010」幕張公演に出演を果たした。また同年9月にツアーファイナルとして下北沢のライブハウス3会場を貸し切り「THEラブ人間決起集会『下北沢にて』」を実施し、成功を収める。2011年5月にインディーズ1stシングル「砂男・東京」をリリース。さらに7月15日に東京・渋谷CLUB QUATTROで初のワンマンライブを開催し、650人の動員を記録した。8月にはビクターエンタテインメントからミニアルバム「これはもう青春じゃないか」でメジャーデビュー。翌2012年5月にメジャー1stアルバム「恋に似ている」、12月にDVD付きシングル「アンカーソング」をリリースする。12月23日に3度目となる自主企画イベント「下北沢にて'12」を、下北沢のライブハウス9カ所を舞台に開催。