2009～2012年は修業期間

──2009年からの3年間は活動の中心がプロデュースや曲提供やDJになり、音源をリリースするような目立った活動はなくなっているわけですが。

はい。修行してましたね。

──その3年は修行の期間だったんですね。

修行ですよ、ほんとに。通常は作家事務所に入って、先輩にいろんなことを教えてもらったりしながら、いろんな課題をクリアしていって1曲を作るみたいな道程もあったと思うんですけど、自分の場合は2008年にメジャーで出したんで、そこからは完全に放り出された形になってしまった。でも、当時の自分にはそこで戦うだけのスキルもないし、心構えもなくて。そこでひたすら鍛錬しなきゃいけないっていう。仕事を受けて、そのつど100％納得できるものを作ってるつもりなんですけど、1カ月経ったら過去の自分に満足できなくなる。3年くらいそういう修行を繰り返してた感じですね。

──そうなんですね。その中で自分を成長させたと思うものは？

1つひとつの仕事ですね。制作もそうだし、DJの現場でダイレクトに伝わるお客さんの反応から感じることもあるし。全部が勉強だったと思います。でも、今もそうですよ。日々精進だと思ってやってるし。ただ、その度合いが大きかったのは2009年、2010年の頃だったと思います。

──その頃、ニコ動という場所やボカロのシーンはどう見ていました？

2009年くらいからは、ゲーム動画をたまに見るぐらいでしたね。単純にほかのことが面白くなっちゃったというのがあって。たぶん、クローズドのコミュニティがそんなに好きじゃないんだと思います。戦いたがりなんですよ（笑）。

──なるほど。広いフィールドで自分の力を試したかった。

そうですね。やっぱりどんどんステップアップしなきゃいけないし、やっぱりクラブシーンに対しての思い入れが強くて。クラブ的なポップスをうまく作りたいというのがあるので、EDMとかエレクトロハウス全般は基本戦う相手だと思ってました。あれと同じ音圧出してやろう、とか。そっちのほうが楽しいんですよね。目標を高く設定しないと自分の作る音楽が腐っちゃうので。

インターネットにはただただ感謝

──で、2011年の末にGoogle Chrome -初音ミク編-のCMソングを作ってほしいという依頼が来た。これはlivetuneが世間に広く知られる大きなきっかけの1つになったと思うんですが、最初に話を聞いたときはどう思いました？

なんとしても応えなきゃいけないなっていうのはありました。インターネットには感謝の気持ちが非常にあるので、モチベーションもすごく高かったし。まず単純にうれしかったですよね。Googleなんて毎日使ってますし、そこと関われるだけでうれしいし。ポジティブな気持ちしかなかったです。プレッシャーはもちろんあったんですけど、話をもらったときの映像のデモを見せてもらったときにプレッシャーも吹き飛んでて。完成形のCMと構成もほとんど変わらない、すごくいい映像だったんです。

──Googleの話が来たというのは、自分の力を試す場所としては最高の舞台ですよね。

そうですよね。だから、いろんなことを考えました。ポップスとしての精度を高めるためには、ビートを強調しすぎるのはむしろ邪魔なことなんだっていうことも、そこでようやく理解したし。そこに気づけたのも大きかった。

──あの曲はインターネットとソーシャルネットワークを介してクリエイター同士がつながり、共に創作できるようになった00年代後半以降の状況を歌い上げた「インターネット賛歌」なわけですよね。あのテーマは自分の中では必然として出てきた？

そうですね。じゃなかったら僕、今ここにいないですから。インターネットがなかったら、ひょっとしたらまだ何も発表できてなかったかもしれないし。そこに関してはただただ感謝するしかないです。