ナタリー PowerPush - LEO今井

「無からできた」4年ぶりの新作アルバム

迷信や不合理な考えに走るのはよくないこと

──歌詞に関してはどうですか? 以前は“都市”というモチーフに焦点を当てることが多かったわけですが、それも1回ゼロに戻したんでしょうか?

LEO今井

私自身は、引き続きそういうテーマが表わされていると思いますけどね。具体的な街の風景描写みたいなものはちょっと減っているかもしれないけど。

──風景の描写が減って、そのぶん心象風景、内面的かつ精神的な世界を描く方向にシフトしているのかなと感じました。

あ、それは確かにそうですね。あと、全体を通してストーリー性があるんですよ。歌詞のテーマはそれぞれ違うんだけど、1曲目のキーワードが2曲目につながっていたり。

──その中にLEOさん独特の哲学も込められていて。「Akare / Prism」における「迷信的な考え方を打破すべく、進化論と科学の力を肯定的に歌う」というテーマも印象的でした。迷信的な考え方とは、例えばどんなことを指してるんですか?

いろいろありますけどね。マジック、魔法、霊、神などを信じることもそうだし、何か説明できないことがあるときに、不合理な考えに走ることもそうだし。それはよくないことだと思うんですよね、人を束縛するから。精神を蝕むというか……。

──現実逃避や思考の停止にもつながってしまいますからね。

人によってこだわりや考え方は当然あると思います。でも、「前例がこうだから、こうしましょう」とか、「身分が上の人が言ってるから、そうしましょう」ということになってしまうと、それはよくないと思います。そういう考え方を正解に結びつけることには、ちゃんとした理由がないですよね。だから、もっと論理的、合理的に考えましょう、と。

──音楽の場合はどうですか? 音楽という表現にも理論や構造が関係していると思うのですが……。

ただし、自分の音楽はそこまで堅いものではないです。まず、私は理論が問題になるような場所にいないですからね。音楽を作っているときに、そんな会話をしたことはありません。それはもっとアカデミックな世界の話ですよね、きっと。私が大事にしているのは、直感とか恍惚みたいなものなので。

歌というものは本当にミステリアス

──もうひとつ、1曲目の「Tabula Rasa」(タブララサ)についても聞かせてください。これはどういう意味の言葉なんですか?

もともとはジョン・ロックというイギリスの哲学者が使い始めた言葉だと思います。要は“白紙状態”という意味なんですね。人間は生まれたときは白紙状態で、そこに経験や知識が書き込まれていくっていう。最初にも言いましたけど、このアルバムを作る前は「白紙状態に戻りたい」という気持ちがあったんです。「Tabula Rasa」はまさにそういう気持ちから生まれた曲だし、それをオープニングに持ってくれば非常にわかりやすいんじゃないかなと。もちろん、白紙状態に戻す“つもり”ですけどね。

──そうですね、完全に白紙に戻すのは不可能なので。そういう意味では、「Made From Nothing」というアルバムのタイトルも象徴的ですよね。“無から作る”という意思の下で制作されたアルバムなので。

それもありますね。あと、曲がそろったとき、なぜか歌詞に“歌”という言葉を非常に多く使っていることに気付いたことも関係してるんですよ。歌詞を見ていると本当に、歌、歌、歌、歌っていう感じで……自分にとって歌はとても重要だし、自分は歌が好きなんだなということも再認識したんですよね、そのときに。もともと私は、歌がどうしても歌いたくて音楽を始めたわけではないんです。後になって「しょうがない、じゃあ、俺が歌うか」という気持ちで歌い始めたので。でも、いつの間にか歌うことだったり、自分の歌が好きになってたのかな、と。

──重要な発見ですよね。

LEO今井

しかも歌というものは本当にミステリアスなんですよね。メロディはまさに無の状態から突然浮かび上がる、つかみづらい存在だと思うんです。歌だけではなく、音自体もそうなんですけどね。夢の破片みたいな感じというか……。もうひとつは、「Made From Nothing」という響きも気に入っていて。苦悩、フラストレーションが表れているタイトルだと思うし、そういうのがけっこう好きなんです。

──普段から、負の感情にフォーカスしてしまうタイプなんですか?

うーん、そうでもないんですけどね。ただ、イライラする瞬間はもちろんあるし、そういう気持ちを糧にしているところはありますね。人間にはいろんな気持ちがありますけど、イライラや苦悩のほうに興味があるというか。「うれしい、楽しい」と歌われても「へー」としか思わないですから、私は。

野望もないし、目標も持たないほうがいい

──本作は、音楽的なスタイルにおいても、考え方や哲学においても、LEO今井という人間がさらにあらわになった作品だと思います。

達成感はありますね。自分では言いづらいですが、けっこういいアルバムができたと思うので。

──今後はライブ活動が中心になりそうですか?

そうですね。このアルバムをライブで再現すると言いますか、ライブの中でこのアルバムをフルに伝えていくことで、また別のものに進化させたいと思っているので。やりたいことはそれだけなんですよね、ホントに。野望みたいなものも特にないし、目標も持たないほうがいいと思ってるんですよ。「ゴールを決めて、それに向かって進む」という考え方は、あまりよくないですよね。

──世の中ではよいこととされてますけどね。目標を定めて、そのために何が必要かを考え、実行するっていう。

うん。でも、やっぱりよくないと思います。目標を達成できないと落ち込むじゃないですか。達成できたとしても、それはそれでたぶんむなしいはずなんですよ。そうじゃなくて、目の前のやるべきことだけに集中したほうがいいんじゃないかって。

──では、ミュージシャンとしての成功のイメージも持ってない?

具体的なイメージはないです。こうやって音楽を続けられればいいな、という気持ちと意志はありますけどね。その中で徐々によくなる、少しずつでもうまくなっていけば、それに越したことはないかな、と。

“Made From Nothing” Tour 【独り編】

  • 2013年8月29日(木)東京都 吉祥寺キチム
  • 2013年8月31日(土)京都府 京都Urbanguild
  • 2013年9月1日(日)長野県 松本瓦RECORD
ニューアルバム「Made From Nothing」 / 2013年6月26日発売 / 3000円 / EMI Records Japan / TOCT-29162
ニューアルバム「Made From Nothing」
収録曲
  1. Tabula Rasa
  2. Omen Man
  3. Furaibo
  4. Tundra Ghost Funk
  5. CCTV
  6. Doombox
  7. My Black Genes
  8. Ame Zanza
  9. Kaeru St.
  10. Akare / Prism
  11. Made From Nothing
  12. Too Bad / Kubi
LEO今井(れおいまい)

1981年に東京にて、日本人の父親とスウェーデン人の母親との間に生まれる。日本語、英語が堪能なほか、スウェーデン語、フランス語も話すことができるマルチリンガルアーティスト。幼少期をロンドンで過ごし、高校生の頃に一時帰国した後、再び大学進学のためにロンドンに戻る。オックスフォード大学大学院在籍中に、日本でアーティスト活動を行うため来日。2006年9月にデビューアルバム「CITY FOLK」をインディーズレーベルから発表した。洋楽とも邦楽とも区別の付かない独特のポップサウンド、英語と日本語を絶妙に組み合わせたユニークな詞世界が特徴。2007年11月にシングル「Blue Technique」でメジャーデビューし、2008年1月には向井秀徳(ZAZEN BOYS)と吉田一郎(ZAZEN BOYS)を迎えた2ndシングル「Metro」を発表。2010年に向井とのユニットKIMONOSを結成。アルバム「KIMONOS」を発売し話題を呼んだ。2013年6月、前作から約4年ぶりとなるアルバム「Made From Nothing」をリリースした。