ナタリー PowerPush - LEO今井

「無からできた」4年ぶりの新作アルバム

LEO今井から、実に4年ぶりとなるニューアルバム「Made From Nothing」が届けられた。向井秀徳とのユニット・KIMONOSでの活動を挟み、「自分の表現の限界を広げるために、音楽的ビジョンを白紙の状態に戻そうとした」というところから制作がスタートした本作は、独自のハイブリッド感覚に彩られたサウンドと、深い哲学性を帯びる歌がひとつになった、きわめて質の高いロックアルバムに仕上がった。“無からできた”とタイトルされた本作の制作プロセスについて、本人にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 インタビュー撮影 / 八島崇

音楽的なビジョンをゼロに戻したかった

──ニューアルバム「Made From Nothing」、傑作だと思いました。オルタナ、ニューウェイブ、プログレ、エレクトロなどの要素が融合されていて、しかも独特のポップ感覚もあって。

LEO今井

ありがとうございます。うれしいです。

──LEOさん個人の作品としては、2009年の「LASER RAIN」以来4年ぶりの新作となりますが、この4年という時間についてどう思いますか?

4年……私自身はそこまで長くは感じてないんですけど、長いような気がしますよね? 何をしてたんでしょう……。

──まず、KIMONOSの活動がありました。

そうですね。KIMONOSのアルバム(2010年発売「KIMONOS」)を2年半前に出して、その後、1年近くライブを重ねて。KIMONOSではもともとライブをやる計画はなかったんですけど、やっているうちに楽しくなってきたんですよね。ドラマーも入れて、さらにパワーアップしたし。LEO今井としてのアルバムについて考えはじめたのは、その後ですね。

──「LASER RAIN」をリリースした直後、次作についての構想はありましたか?

きっとあったと思うんですが、それがどういうものかは忘れてしまいました……忘れたというのは「そのときにイメージしていたものがフレッシュではなくなってしまった」ということなんですけど。

──そのときの音楽的ビジョンを故意に捨てた、ということですか?

はい。あとは自分の表現の限界をもうちょっと広げたい、という気持ちもありました。そのためには、音楽的なビジョンをゼロ、つまりNothingな状態に戻したかったんですよね。そういうプロセスが何回かあったんです。今のバンドメンバーとライブを重ねて、いくつか曲ができて、「やっぱりフレッシュじゃないな」「独創性やオリジナリティが足りない」と思って、それを捨てて。そういうことが5~6回はあったと思います。実際、そのときに作った曲は、1曲もアルバムに入ってないんですよね。リフだけとかアイデアだけが残ったというのはあるけど、曲としては1つも残ってない。それよりもバンドの一体感を育もうとした時期だったと思います、今考えてみると。今回のアルバムにつながるような、一貫して筋の通った青写真が見えるまでは、だいぶ時間がかかってますね。

自分特有のハイブリッド感を目指してた

──「FIX NEON」「LASER RAIN」といった過去のアルバムにも、LEOさんのオリジナリティは色濃く表現されていたと思うんです。それを捨ててゼロに戻すことは、かなり思い切った決断ですよね? でもそれが必要だったと。

そうです。一番の理由は「自分はどういう音楽を徹底的にやりたいのか?」という課題と向き合いたかったからです。それが自分の枠を広げることにつながると思ったし、進化をしたかったので。あと頭の中には理想のサウンドが鳴ってるんですよね。それを技術的、肉体的に実現することができるのか?という苦悩もありました……イメージの中ではパーフェクトですから。でもそれを形にするのは本当に難しい。1音1音追求していくしかないんですが、1週間のうち6日はうまくいかないんです。7日目にようやく「うまく録れた」っていう感じになって……。そしてアルバムの全体像が見えてきたのは1年くらい前ですかね。デモの段階でほぼ完成形が見えていたものが半分、あとの半分はバンド形式で録り直して。

──アルバムの最初のきっかけになった曲は?

「Furaibo」「CCTV」「Ame Zanza」あたりだと思います。曲の作り方や歌詞の書き方を含めて、自分の中では一貫した公式があるというか、一貫したものがあると感じられたので。

──例えば「Furaibo」と「CCTV」では、曲の手触りがかなり異なりますが、LEOさんの中では共通するものがある?

LEO今井

確かにサウンド的には対照的かもしれないですね、「Furaibo」と「CCTV」は。「CCTV」はシンセサイザーやサンプラーがメインになっていて、「Furaibo」はもっと生々しいバンドサウンドになっている。でも、僕の中では温度や色味が少し違うだけなんです。なんていうか、自分特有のハイブリッド感を目指してたんですよね。単に「エレクトロとロックを混ぜました」というのではない、いい具合のハイブリッド感。それをオリジナリティのある形でやりたかったんです。

──なるほど。確かにすべての曲の中に複合的なテイストが含まれてますからね。例えば「Omen Man」にしても……。

「Omen Man」は、PEARL JAMの中期のノリに1980年代の初期のKING CRIMSONの要素を加えた感じでしょうか。

──それもLEOさん特有の混ぜ方ですよね。普段聴いてる音楽は、ここ数年で変化したんでしょうか?

いや、基本的には変わらないと思います。聴く回数が一番多いのは、おそらく1990年代のロックでしょうね。ギターサウンドに関しては、1990年代中期のPEARL JAM、リフやノイズソロに関してはHELMETのアルバムなどから影響を受けていると思います。青春時代に聴いていた音楽を繰り返し聴き直しているということですね。

──「CCTV」にはKRAFTWERKのテイストも反映されているのでは?

KRAFTWERKの音楽には、以前からずっとインスピレーションを受けていますからね。あと「Furaibo」に関しては、「ナックル」というドキュメンタリー映画を観たこともきっかけになってます。アイルランドに残っているストリートファイティングの伝統についての映画なんですが、その中で「Lost Highway」というカントリーの曲が使われていたんですね。映画の中ではアイルランドのミュージシャンがカバーしてたんですが、私は子供の頃、この曲を聴いていたんですよ。父親がカントリー好きで、ハンク・ウィリアムズが歌っていたバージョンをよく家でかけていたので。そのことを思い出したというか……。

──カントリーミュージックもLEOさんのルーツだった、と。

要はアメリカの音楽ですよね。PEARL JAMやALICE IN CHAINS、PANTERAなどを聴き始める以前に、カントリーミュージックをよく聴いてたんだな、と。そういう音楽もすごくいいんですよね。シンプルで、悲しくて……。

──音楽的なビジョンを一度ゼロに戻そうとしたことによって、もっと奥にある、根本的なルーツが出てきたのかもしれないですね。

まさにその通りだと思います。それがやりたくて、ゼロにしようと思ったのかもしれないですね。心の奥底から、純度の高いものを出すために。

ニューアルバム「Made From Nothing」 / 2013年6月26日発売 / 3000円 / EMI Records Japan / TOCT-29162
ニューアルバム「Made From Nothing」
収録曲
  1. Tabula Rasa
  2. Omen Man
  3. Furaibo
  4. Tundra Ghost Funk
  5. CCTV
  6. Doombox
  7. My Black Genes
  8. Ame Zanza
  9. Kaeru St.
  10. Akare / Prism
  11. Made From Nothing
  12. Too Bad / Kubi
LEO今井(れおいまい)

1981年に東京にて、日本人の父親とスウェーデン人の母親との間に生まれる。日本語、英語が堪能なほか、スウェーデン語、フランス語も話すことができるマルチリンガルアーティスト。幼少期をロンドンで過ごし、高校生の頃に一時帰国した後、再び大学進学のためにロンドンに戻る。オックスフォード大学大学院在籍中に、日本でアーティスト活動を行うため来日。2006年9月にデビューアルバム「CITY FOLK」をインディーズレーベルから発表した。洋楽とも邦楽とも区別の付かない独特のポップサウンド、英語と日本語を絶妙に組み合わせたユニークな詞世界が特徴。2007年11月にシングル「Blue Technique」でメジャーデビューし、2008年1月には向井秀徳(ZAZEN BOYS)と吉田一郎(ZAZEN BOYS)を迎えた2ndシングル「Metro」を発表。2010年に向井とのユニットKIMONOSを結成。アルバム「KIMONOS」を発売し話題を呼んだ。2013年6月、前作から約4年ぶりとなるアルバム「Made From Nothing」をリリースした。