Lenny code fiction「ハッピーエンドを始めたい」インタビュー|弱さをさらけ出した2ndアルバム

Lenny code fictionが約5年ぶりとなるアルバム「ハッピーエンドを始めたい」をリリースした。

本作には「炎炎ノ消防隊」のエンディングテーマ「脳内」、「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマ「ビボウロク」、「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ II」のオープニングテーマ「SEIEN」といったアニメタイアップ曲に加え、どっしりとしたアンサンブルでバンドの現状をつづった「夢見るさなか」、ハイブリッドなアレンジが光る「Memento」、ヒップホップ的なサウンドメイクが新鮮に響く「Sleepless Night」、アルバムの軸となる「幸せとは」など全11曲が収録されている。

1stアルバム「Montage」発表から2ndアルバム「ハッピーエンドを始めたい」が完成するまでの約5年間、4人はどんな思いで活動してきたのか。音楽ナタリーでは、メンバー全員にインタビューし、新作の聴きどころはもちろん、ジャケットの写真のように険しい道のりを這い上がってきたメンバーの葛藤、意識の変化などについてもたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 田山雄士撮影 / 入江達也

2年半リリースなし、そのときレニーは

──約5年ぶりのアルバムリリースおめでとうございます。音楽ナタリーでのインタビューも約5年ぶりになるので、まずは2018年11月に1stアルバム「Montage」をリリースしてから現在に至るまでの活動を振り返ってもらえたらと思います。

片桐航(Vo, G) 「Montage」のあと、2019年12月に今回のアルバムにも入っている「脳内」をシングルで出して、そのツアー中にコロナ禍になったんです。何かと思い通りにいかずに困る場面は当然あったんですけど、わりと早い段階で配信ライブを計画したり、有観客ライブができるようになってきたらリリースがない状況でもファンのみんなが楽しめるイベントを前向きに考えたり。ルーチン化していたこれまでの活動を見直して、新しいことを発見できる時間やったなという気がしますね。

ソラ(G) 振り返ってみると、一度立ち止まる時間があってよかったと思います。状況をネガティブに捉えるのは簡単だったけど、そんな中でピンチをチャンスに変えられたというか。劣勢をうまくポジティブに転換できて、音楽的な面だけじゃなく、人としても成長できた感じがするんですよね。「人生で一番大切にしたいことってなんだろう?」とか、本質の部分を改めて考えた形跡が、今作の歌詞にもサウンドにも表れているので。

Lenny code fiction

Lenny code fiction

KANDAI(Dr) 僕はコロナ禍で基礎に立ち返って、じっくりとドラムの練習ができました。その期間で得られたものをニューアルバムではもちろん、シングルの「ビボウロク」(2022年8月発表)、「SEIEN」(2023年2月発表)あたりから出せている感じがするんです。今までは手数で押していたところもあったんですけど、そういうアプローチを抑えて、より心地よい音を追求しながらここまで来られたんじゃないかな。

kazu(B) もし立ち止まる時期がなくて曲を出し続けていたとしたら、今こういうアルバムはできていないだろうなと思いますね。20代半ばの大切な時間に緊急事態が起こってしまったわけですけど、みんなが言ってくれた通り、個人もバンドも見つめ直すことができて、曲作りも普段より入念にやれた。結果、自分たちを大きく見せすぎない、飾らない感じで曲を作れたんです。「ハッピーエンドを始めたい」はそれを表現できた1歩目の作品になりました。

──航さんが言ったように、ライブをいろんな形でやっていましたよね。2021年11月に開催された「KIDS」(参照:Lenny code fiction、11月に原点回帰のワンマンライブ「KIDS」開催)、2022年2月から3月にかけて開催された音源化されていない新曲をメインでやるツアー「P.O.U~Preview Of Unreleased~」などを現場で拝見しましたが、今回のアルバムに収録されなかった新曲も果敢に披露していて。

 新曲はもう本当に……自分たちでも把握できていないくらいたくさん作りましたね。

──ちょっと答えにくい質問かもしれないんですけど、新曲ができていたにもかかわらず、Lenny code fictionは2年半ほど作品をリリースしていない時期があって。例えばレコード会社との契約が危ぶまれるような、何かしらの厳しい局面を迎えていたんでしょうか?

 そういう不安に苛まれた時期も正直ありました。リリースができなかったのは、コロナ禍も理由の1つですけど、チーム全員のゴーサインが出なかったのもあるんです。僕自身は納得のいく曲が書けていたつもりだったから、かなり歯痒い気持ちになったりもしていて。

片桐航(Vo, G)

片桐航(Vo, G)

──そうだったんですね。

 ただ、腐っていてもしょうがないし、「いい曲を作れば、いつか絶対に出せる」と信じるしかなかった。あの時点で曲作りをやめていたら、このアルバムもなかったでしょうね。もちろん主導権が自分たちにないわけではなく、そこはちゃんとバンドにあって、リリースがなくてもいろんなライブを企画できたのが救いだったんです。とにかく止まっているようには見せたくなくて、精力的に動きながら新曲を書くやり方でギリギリ耐えていました。

ソラ 「ビボウロク」のリリースを発表したライブのMCで航が「苦しかったな。ようやく出せるよ」と話していて、その内心を言葉でちゃんと聞いたときに感情がブワーッとこみ上げてきたのを覚えてますね。ステージ上で思わず「本当につらかったよな」という気持ちになりました。

「悔しさを反骨心に変えるぞ」じゃなく「悔しい」と歌う

──今作について「初めてと言っていいほど自分と向き合ったアルバムになりました」と航さんがコメントされています(参照:Lenny code fiction、5年ぶりアルバム「ハッピーエンドを始めたい」発売決定)。苦しい状況の中、転換期があったということですか?

 そうですね。リリースの間隔が空いて“再スタート”が自然とバンドのテーマになったので、アルバムの制作に入る前、今歌っていくべきことを整理する期間を意識的に設けたんです。これまでの歌詞を全部なかったものにするくらい、ゼロから心の中の言葉を書き出す作業を始めてみたら、「ああ、自分ってこんな人間なんや」と気付ける部分が多くて。そのかいあってか、1stとはまったく異なるアルバムができました。

──大きく変わった点を挙げるとすると、どのあたりでしょう?

 以前は悔しさやしんどかった経験をカッコいいものに昇華したがっていたんです。マイナスな感情さえも美しくというか、きれいに梱包し作品にするのを正義としていた部分があって。「弱さを見せるのはダメだ」「弱さも言い換えれば強さになるから、強い自分として曲にしよう」という発想だったんですけど、そのプライドはだいぶ捨てられたと思います。歌いたいことを整理する中で、むしろ弱みを何もパッケージしないで出してしまったほうが潔いんじゃないかと考えるようになって、今まで隠していた気持ちを掘り返すのが逆に楽しくなりましたね。「悔しさを反骨心に変えるぞ」じゃなく、シンプルにただ「悔しい」と歌うのもいいんじゃないかなとか。

──弱さを出すのは、きっと勇気がいることでしたよね。

 はい。なかなか自分で発してこなかった言葉ですからね(笑)。やっぱりすぐにうまくはいかなくて、最初は言葉に深みが出なかったりもしたけど、ライブで歌い続けていくうちにだんだんと表現が鮮明になってきました。

ソラ 航って芸術家気質でありつつ、意外と4人の中で一番人間味があるんです。その部分が歌詞に出ることはあまり多くなかったんですけど、今回のアルバムでは11曲にわたって全面に出ているので、殻を破った感じがすごく見えますね。

kazu 「歌詞が変わったね」と、最近よく言われるようになりました。航の人間味が見えてきて、聴いてくれる人との距離感がより近くなったのかもしれません。

KANDAI わかりやすくなりましたよね。航が書く歌詞って抽象的なアプローチも魅力の1つなんですけど、こうやってダイレクトに思いをぶつけてくるのもいい。僕も「航くんの歌詞、すごくよくなったね」と言われることが多くて、自分たち以外にもちゃんと伝わっているんだなと実感しています。

KANDAI(Dr)

KANDAI(Dr)

──今までなら歌っていなかったような歌詞で特に印象的なものは?

 「夢見るさなか」は叶っていない夢についての曲なんですけど、その現状を1番のサビで「ウザいよなぁ 叶ってよ」と歌えたことは、自分の感情をちゃんと認められた変化で、これまでだと間違いなく書かなかった1行です。以前なら強がって「それでもがんばるだけだ」「いつかは絶対に成功する」みたいな言い回しにしていただろうから。

──その1行はライブで聴いたときと違う歌詞になっていて、曲のタイトルも変わっていたので、ブラッシュアップを重ねたのが想像できました。

 ありがとうございます。この変化がどう受け止められるのかは、実際にリリースしてリスナーの反応を聞いてみないとわからないところもあるんですけどね。でも、弱さを恐れずに出せたことはよかったんじゃないかなと思います。