ナタリー PowerPush - LAMA

牛尾憲輔&中村弘二インタビュー

03. バンド内での役割

──ところで、牛尾さんは自分のバンド内での役割はなんだと思います?

なんだろうなあ。端的に言うと散らかし役だと思うんです。散らかす役と、ナカコーさんとまとめていく作業を一緒にやっている2面性を持ってるんじゃないかと。客観的に見ると多分、4人の中で僕だけ音楽的に文脈が違うんですよね。僕はギターを持たないし、そもそもバンドの人じゃないし。そうすると感覚的な部分で違うんですよね。ミクロな視点から言うと、エディット前提で作曲するみたいに、曲作りの進め方が全然違う。だからアザーな視点というか「こんなんあるよ」ってアイデアを出して散らかす役。そういうのをやりつつ、できる限りみんながやりたいアレンジを形作っていったり、まとめていったりっていう作業を僕の解釈でさせてもらってるのかなあと思うんですけど。

──実際に制作作業で、そういうことを肌に感じた実例はあります?

例えば、最終的に田渕さんのギターを切っちゃうとか。バンドで作る人は互いの演奏を尊重してて、さらに楽曲をライブで再現することを考えるから、あんまりそういうことはしないのかもしれないですけど、僕はそういう考えがないんでバチバチ切っちゃう。「ナカコーさんが作ってくれた音いらなーい」って切っちゃったり(笑)。

──ほかのメンバーはビックリします?

引かれてんのかなー、と思うようなことを、あえて無視するようにしてます(笑)。「若いから許してー兄ちゃん姉ちゃん許してー」と、末っ子っぽい上目づかいでカバーって感じで。キャラクターでカバー。「えへへっ」って言いながらデリート(笑)。そういう感じで天真爛漫にやろうかなと思ってますけど。

──(笑)。しかし、バンドをやったことがないっていうのはLAMAの中では特殊な立ち位置ですよね。

そうですね。でも、僕がバンドマンとしてゼロから始めますっていうのは、3人が僕を入れた意味を考えると、多分無駄だと思うんですよ。だから僕は僕が培ってきたもの、3人が持っていないものをLAMAに足していくように。例えば、ナカコーさんは自分のプロダクトで、今作のカップリングに入ってる「one day」みたいな細かいことはやらないと思うんですよ。で、「じゃあ俺がそこは変質的にやりますわ」ってガーっと作り込んだり。それは、僕が聴いてきた音楽からするとすごくナチュラルな音だけど、ほかの3人とは違う音のはずだから、うまく化学反応が起きるようにしていけばいいのかなと。

──LAMAの4人って全く違うバックグラウンドを持っている4人ですよね。その“違い”を4人が4人とも自覚して進めているのが、このバンドの強みなのかなと。

そうですね。それはすごく良いところで、いい意味でバンドではないというか、プロダクションチーム的な側面があるのかなと思ってるんですよ。3人とも立派なキャリアを持ってる人たちですし、僕も普段からプレイヤーではないので楽曲に対して引く視点を常に持つようにしてて。しかもその視点で曲を作るので、僕が出した音を誰かがカットしてもそれで曲が良くなるならばそれでいいし。みんな、自分が出した音に対するエゴよりはプロデューサー的な視点のほうが強いんですよ。例えば僕が田渕さんのギターを切っても、そのほうが良ければ田渕さんは「そっちのが良い」って言える。自分の持ってるアイデアなり音なりをテーブルの上に出して、みんなで腕組みして俯瞰の視点で考えられるっていうのが、LAMAのすごく良いところだと思いますね。

04. ほかの活動とLAMAの相違点

──牛尾さん、最近とてもお忙しいとお伺いしたんですが。

ありがとうございます、おかげさまで。貧乏暇なしってやつですか。

──なんてことを言うんですか(笑)。agraphという自分の中心活動があって、そのほか2 ANIMEny DJ's(2AD)やいろんな楽曲制作があったりする中、それらの活動とLAMAが違うところってどこでしょう? やはりほかの3人がいることなんでしょうか。

うん、そうですね。これは僕個人の考えで語弊があるのかもしれないんですけど、例えばagraphをやるときは1年とか長い期間をかけてコンセプトを作ることから始まるし、2ADはアニメっていうカルチャーがまずあって。それに対して、LAMAはどっちかっていうと、それぞれが持っている考え方だったり技量だったりやりたいことだったりが交錯する“点”として曲ができてくるんですよ。純粋に、それぞれのクリエイティビティの交点として曲ができていく。だから、LAMAはバンドであり、プロダクションチームであり、かつクリエイティビティのセッションであり。そこがすごく面白いですね、やってて。スタジオに入るとすっごい楽しいですよ。

──そのお互いの創造性の交点がLAMAだとしたら、日によってその交点が変わる場合もあるわけですよね、きっと。

全然変わってくると思いますね。だって今アルバム用に作ってる曲を並べて聴いてみると、なんのジャンルだかわかんないですもん。それこそ4つ打ちで、僕がベルリンで聴いてたクリックみたいな曲もあるし、かと思えばポップに10代の女の子の恋愛を歌った「助けて私のキューピット」みたいな曲もあるし。セッションを重ねる上で、その“なんでもある感じ”がLAMAなのかなって見えてきたんです。すごく面白いですよこのバンド。

──ちなみにミキさんには「バンド名がなんでLAMAになったか」という質問をしたら、名前を聞いたことはあるけれども実態はよくわからない存在を象徴する言葉、みたいな返事をいただいて。

その言い方、すごく良いですよね。クリエイティビティの交点だけど、実態はよくわからないっていう。

──表現が陳腐で申し訳ないんですが、ちょっと妖怪っぽいですよね。何かが集まって何かができる、でもその何かがまだわからない。

うん、で、多分わかることもないと思うんですよね、LAMAは。それがすごく面白くて。何か中心に据えるものがあって、そこから演繹的に物事が進んでいくんじゃなくて、1つひとつ生み出されていく交点のクリエイティビティから、帰納的にLAMAができてくる。LAMAはこうなんだって収斂していく感じなのかな。だから、曲を作るときはすごく自由なんですよ。「じゃあこういう音を足してみようよ」っていうときに、例えばagraphだと「これはコンセプトに合わないからやめよう」って排除して音をそぎ落としていくんですけど、LAMAはもっと自由で、勝手にボールを投げるとそのボールと誰かが投げたボールの交点が必ずできるから、そこで変なものができてくる。

──その、「これが交点だね」っていうジャッジは誰かがするんですか?

なんとなくナカコーさんが監督みたいな役割をしてるので、基本的にナカコーさんだと思うんだけど、その前に4人の集団的無意識があって、そこで判断されてる部分は大きいんじゃないかなと思うんですよね。これは僕の肌感覚なんですけど、LAMAで最終的な決断をするときに面白いのは、カッコいいって思ってるのがそれぞれの誤解に基づいてるんですよ。僕は多分、田渕さんが今までの音楽人生で聴いてきた曲、作ってた曲をほとんど知らないと思うので、結果的に出てきた音がカッコいいかどうかの判断基準が、田渕さんとは全然違うと思うんですよね。田渕さんがカッコいいって言ってる側面と、僕がカッコいいって言ってる側面って全然異なってるはず。それが面白い。その集団的無意識がまずOKって判断して、「じゃあナカコーさんちょっと聴いてみてよ」となる。で最終的に、ものすごい量の音楽を聴いているナカコーさんが“音楽生き字引”としてジャッジする。そういう複合的な要素があってどういう曲になるのか決まっていくので、すごく面白いプロセスだなと思うんです。

1stシングル「Spell」 / 2011年8月3日発売 / Ki/oon Records

  • 初回限定盤[CD+DVD] / 1500円(税込) / KSCL-1827~1828 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] / 1020円(税込) / KSCL-1829 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. Spell
  2. one day
  3. Spell(2 ANIMEny DJ's Remix)

アーティスト写真

LAMA(らま)

中村弘二(Vo, G)、フルカワミキ(Vo, B)、田渕ひさ子(G, Cho)、牛尾憲輔(Programming)の4人からなるロックバンド。2010年12月結成。2011年4月、東京・WWWでKIMONOSと対バンを実施。これがお披露目ライブとなる。この模様はライブストリーミングチャンネル・DOMMUNEにて生中継され、約8万人が視聴した。同年8月に1stシングル「Spell」をリリース。