ナタリー Super Power Push - きゃりーぱみゅぱみゅ

なんだこれ!?な2ndアルバム「なんだこれくしょん」

“多層に足された”きゃりーという視聴覚レイヤー

きゃりーぱみゅぱみゅはミュージッククリップも本当に素晴らしいですね。僕は文化庁メディア芸術祭で、ももいろクローバーZと共に訪れたドイツ・ドルトムントのホテルで当時YouTubeにアップされたばかりの「PONPONPON」のミュージッククリップを何度も繰り返して観ていたことを覚えています。ディレクターの田向潤くんはもともとCAVIARにいて、彼がデムラタクヤくんと組んでいたtamdemという2人組のユニット時代からすごく注目していました。彼らが担当した木村カエラ「Jasper」でのCINEMA4Dでのコンポジットは「PONPONPON」に至るオーディオビジュアルの片鱗が見てとれます。この前DOMMUNEに出演してくれたときにいろいろ話していたら「PONPONPON」はCAVIARから独立するタイミングで、名刺代わりに命がけで作った作品だったと言うわけです。あれは僕が今まで観たミュージッククリップの中でも驚異的なカット数を誇り、支離滅裂かつエクストリームでグロテスクなのに絶対的に「kawaii」! それをドイツのホテルで初めて観て仰天したわけです。

個人的にはいまだに「PONPONPON」を超える世界はないと思いますし、しかもきゃりーぱみゅぱみゅにとってのデビュークリップですから、あそこで「PONPONPON」のクリップが生み出されることによって、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュース自体の指針が見えてきたんだと思います。きゃりーの「kawaii」偏執嗜好と、増田セバスチャンの極彩色あふれるアートディレクション、中田ヤスタカ(capsule)くんの極端にフリーキーな楽曲、MAIKOさんのキレた振り付け、そして田向くんが本来持っていたサイケデリアが見事に融合した。先ほどレイヤー獲得後の「足し算」についてお話しましたが、ここまで“多層に足し尽くされた”表現は、30/secの時間軸からは認知できない情報量を秘めていて、ドラッギーな中毒性があるから何回も再生してしまう。5000万ビュー以上の再生回数のうち、僕自身も100回ぐらいは観ていると思います。

「PONPONPON」が収録されている1stミニアルバム「もしもし原宿」初回限定盤ジャケット。

きゃりーぱみゅぱみゅのミュージッククリップがYouTube以降の動画共有時代に生まれたという事実も大変重要ですよね。それによってきゃりーぱみゅぱみゅの存在は拡散し広く世界に受け入れられ、彼女はブログやSNSを駆使して、ソーシャルメディア以降のポップアイコンとして君臨しているわけです。当然のごとく、以前は音楽の話題をソーシャルに共有できる現場はお茶の間や職場や学校でした(クラブやディスコやライブハウスについては話が長くなるので今回は割愛します)。前世紀では例えば「ザ・ベストテン」のような番組を観てヒットチャートを探り、同時代のポップミュージックを老若男女で共有していました。だからこそ「時には娼婦のように」も「北酒場」もピンク・レディーの「UFO」も沢田研二の「TOKIO」も、大人から子供までが歌える楽曲として存在していた。しかしバブル期以降、メガヒットを続出させながらも、音楽がより細分化されてリスナーの耳もタコツボ化して、世代を逸したリスナーたちと共通意識として音楽を語れる時代はついに終焉を迎えることになったと。

それに伴い自宅で音楽を聴くという行為の常態も変化したわけですね。 昭和の時代は、応接間にある木目調のステレオシステムで家族と一緒にアナログレコードを共有していましたが、当時応接間にあったものは今、すべてスマートフォンの中に入っています。ステレオもテレビもビデオも電話も、あの頃家族で共有していたものが今やそれぞれのポケットに入ってしまいました。世代を越えて文化を共有できるチャンスが失われてしまった今、YouTubeのような動画共有サービスがインターネット以降に生まれたことによって、タコツボにフジツボが付着し始めたリスナーの耳が、今度は国境を越えたソーシャルな空間に開かれることになりました。そしてもはや音楽は聴く / 観るだけではなく、リスナーが解体 / 再構築~リエディットするためのマテリアルとしても機能しています。そんな時代にきゃりーぱみゅぱみゅが生まれたのは、日本の文化にとって本当に幸福なことだと思います。彼女の楽曲からリリックを共有できなくとも、つまりは物語世界からも解放された、“多層に足し尽くされた”視聴覚レイヤーの中から、リスナーそれぞれが思い思いにシンパシーを感じ取りやすい構造になっている。それもあって彼女の存在はワールドワイドに拡散していくことになったのだと思います。

きゃりーぱみゅぱみゅという“グロテスクネ申”

中田ヤスタカくんが書くリリック、つまりきゃりーぱみゅぱみゅが発している言葉というのは、いわば呪文でありマントラであるわけです。そのマントラを求める世界中にいる信者たちが彼女の言葉に耳を傾け、言葉は真言となる。彼女は独自のスタイルによるkawaii説法を世界に向けて発していることになる。これは言い換えれば宗教ですよね。そういえばインド神話に登場する神々には、極端にグロテスクな風貌がたくさん見受けられます。ガネーシャは象の頭を持っているし、ドゥルガーは10本の手に武器を持っていて、カーリーは牙を剥き出しにしながら舌は伸び切っていて生首のアクセサリーを首からぶら下げているという2万パーセント職務質問されるシリアルキラーな風貌です(笑)。これらの神々は言ってみれば「グロ神々しい」存在なんです(笑)。要するに海外の信者にとって、不思議な呪文を唱えるきゃりーぱみゅぱみゅは、従来のありがたい神の存在を現代に置き換えて、原宿で購入できる「kawaii」をまとった神々しいキャラクターであると捉えることも可能なのです。

やはり神というのは超越的存在ですし、そうした視点で見れば実際にきゃりーは驚異的に超越している。ミュージッククリップの中で首は360度に回るし、口から目玉を50個くらい吐き出すし、ライオンを調教しているし、忍者でもあって、しかも分身するし、さらにはインベーダーでもあって世界征服するとカミングアウトしている。これは「ネ申」以外の何者でもないでしょう。そんなパラノーマルでサイキックな現場を、世界中の信者がYouTubeで目撃してしまっているわけです。疑似・空中浮遊している写真に魅了されモスクワでオウム信者が増えたのと何が違うのか?と問いたい。

3rdシングル「ファッションモンスター」初回限定盤(左)、通常盤(右)ジャケット。

そしてきゃりーぱみゅぱみゅが発してる教義とは何かというと「♪PONPONうぇいうぇいうぇい」だったり「♪おっしゃ Let's世界征服 だだだだ」だったり「♪みーみみーみー」だったり「♪つーけまつーけまつけまつける」だったりするわけです。これらの教えが意味するところは「PONPON出せ」とか「おしゃれして世界征服しろ」とか「アイスの実を食べろ」とか「つけまをつけろ」とかですよ。そしてそのマントラの合間からたまに聞こえてくるたどたどしい英語が「ファッションモンスター」だったり「インベーダー」だったりする。インドのサドゥーも苦行を捨てて改宗決意するに足りるエクストリーム教義です(笑)。

6thシングル「インベーダーインベーダー」初回限定盤(左)、通常盤(右)ジャケット。

ここで再度重要になってくるのが「可愛い」→「かわいい」→「カワイイ」→「kawaii」への概念の変遷です。増田セバスチャンさんの活動が現在の「Kawaii」の概念を構築し、海外から見ると「Kawaii」という形容詞自体がすでにグロテスクな意匠を含むと捉えられているならば、このことは快挙だと思います。「グロカワイイ」にしても「キモカワイイ」にしても例えば「ブサカワイイ」でもいいんですが、そういう相反するテイストが「Cute」という感覚の中に落とし込まれて「Kawaii」が海外で共有できているならば驚異です。なぜなら“美しい”という感覚よりも、“グロテスク”や“気持ち悪い”は比較的世界で共有できる感覚だし、インドの神々、もしくは大自然と同じく、畏怖の念には敬いと恐れが同居している。その上で初めて、きゃりーぱみゅぱみゅは神格化され、崇められる存在になるのだと思います。

意味のある世界 / 意味のない世界

今回のアルバム「なんだこれくしょん」では「み」が象徴的だと思うんですが、コマーシャルソングとして中田ヤスタカくんが作った曲はいつも狂っていますよね。「のりことのりお」も中田くんがもっとも得意としている催眠誘導系のコマーシャルソングで、auへの乗り換えを勧める歌ですが、ずっとこの曲を聴いているとauへの心境の揺らぎと葛藤が心の深いところから沸き起こってきます(笑)。

同じ中田くんの作品で言えば、例えばPerfumeの「edge」もこうした路線の楽曲です。「♪だんだん 好きになる 気になる 好きになる」というフレーズを何回も聴いてるうちに催眠誘導され、男なのにコーセーの「Fasio」でカジュアルメイクしたくなってくる。今さらですが、あの曲は素晴らしいなと僕は思っていて、特に「♪誰だっていつかは死んでしまうでしょ だったらその前にわたしの一番硬くてとがった部分をぶつけて see new world」という歌詞はすごいです。もちろん当時も「see new world」が「死ぬわ」に聞こえると話題になりました。実は当時中田くん本人にこの歌詞について聞いてみたことがあるんですが、最初に書いた歌詞では「死ぬわ」にしていたけれど「死ぬわ」と言ってしまったらセカイ系の文脈に回収されてしまう。そこを「see new world」に置き換えることによってポジティブな未来を開示できるという話を彼は聞かせてくれました。そこにあるのはもちろん終末思想でもないし、主人公とヒロインを取り巻く物語でもない。そもそも彼の頭の中で思い描いた風景は、石柱状のモノリスのような物体が「テトリス」のように自分に向かってきているというもので。そこにとがった立体を与えて新しい未来を作りたい。失敗したらゲームオーバーになるというアブストラクトな世界だったようです。いずれにせよこの曲で彼はサイケデリックな超越世界をイメージしていたんだと感じました。

中田くんはPerfumeというフィルターを使って、こういう言葉遊びをずっとやってきているわけですが、これらの最終的な着地点はメタファーであって“意味の世界”なんです。でもきゃりーぱみゅぱみゅの歌詞はそこから突き抜けて、まったく具体的なイメージを喚起しない“意味のない世界”の開示にも成功しています。ビートたけしさん自らが北野映画を語るとき、暴力と愛、もしくはシリアスとギャグのように創作における振り子のベクトルの量と方向を極端に振り切ればその反動でバランスが取れるといった「振り子の理論」を提唱していますが、中田くんの振り子が今すごくいい感じで振り切れているであろうことを、対極にあるこの2組の創作から読み取ることができます。

2ndアルバム「なんだこれくしょん」 / 2013年6月26日発売 / unBORDE
初回限定盤 [CD+DVD+フォトブック] / 3800円 / WPZL-30633~4
通常盤 [CD] / 3150円 / WPCL-11518
CD収録曲
  1. なんだこれくしょん
  2. にんじゃりばんばん
  3. キミに100パーセント
  4. Super Scooter Happy
  5. インベーダーインベーダ—
  6. ファッションモンスター
  7. さいごのアイスクリーム
  8. のりことのりお
  9. ふりそでーしょん
  10. くらくら
  11. おとななこども
初回限定盤DVD収録内容
  • 「ファッションモンスター」ビデオクリップ
  • 「ふりそでーしょん」ビデオクリップ
  • 「にんじゃりばんばん」ビデオクリップ
  • 「インベーダーインベーダー」ビデオクリップ
きゃりーぱみゅぱみゅ

1993年東京生まれ。フルネームはきゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ。高校生のときから原宿系ファッションモデルとして活動し、キュートなルックスとブログでの奔放な言動が話題を集める。2011年8月にはワーナーミュージック・ジャパンから中田ヤスタカ(capsule)プロデュースによるミニアルバム「もしもし原宿」でメジャーデビュー。2012年は5月に1stフルアルバム「ぱみゅぱみゅレボリューション」をリリースした後、初の全国ツアー、初の日本武道館ワンマンライブ、「NHK紅白歌合戦」初出場と怒涛の快進撃を続ける。2013年も1月、3月、5月にシングルを発表し、2月からはヨーロッパ、アジア、アメリカを回る初のワールドツアーを開催するなど、より精力的に活動。6月には2ndアルバム「なんだこれくしょん」をリリースした。


2013年6月26日更新