ナタリー PowerPush - 黒崎真音
イビツな世界に見つけた「ちょうどいい」場所
アニソンが甘くてポップな詞を書かせる
──それもちょっと面白いですよね。デビュー直後のほうがハッピーな気持ちに包まれていて、その後、キャリアを重ねることで、考えることも増え、だんだんシリアスになるっていうほうが……。
わかりやすいですよね。
──はい。なのに黒崎さんはキャリアを重ねるごとに多幸感にあふれてきている、と。
もともと根が暗すぎるからなんでしょうね(笑)。もちろんデビューできたことや「Butterfly Effect」を作れたことはうれしかったんですけど、その先のこと「私の音楽を楽しんでくれる人は本当にいるんだろうか?」って考えると「バンザイするにはまだ早い」ってなっちゃって。なので「Butterfly Effect」では「もう自分の殻を打ち破れ!」っていうテーマの詞が増えていったんだと思います。でも2年ちょっと活動してきて、イビツな世の中にも楽しいことや幸せなことがいっぱいあることを知ることができた。それも「Dresser Girl...▽」や「FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!」を書いた理由なんです。
──自称・根が暗い(笑)黒崎さんにとってこういうポップな詞は書きやすかった?
今回は書きやすかったです。これまで情景を描写するっていうことがすごくヘタクソだったんですけど、レーベルの先輩である川田まみさんやKOTOKOさんの詞を読んで勉強させていただいて。そうしたら視野が広がったというか、苦手だった具体的なアイテムの名前を挙げて情景や心情を描写することが意外なくらい楽しくできちゃいました。
──その取り上げている名詞って「王子」「チョコレート」「コロン」(「Dresser Girl...▽」)と明らかにこれまでの黒崎さんの歌詞にはないボキャブラリーですよね。でもスムーズだった?
はい。たぶんなんですけど、デビューしたての頃はアニメやゲームのエンディング曲を担当することが多かったのに、最近オープニング曲を担当することが増えたことも影響しているんだと思います。オープニング曲って「誰かを守りたい」とか「強い意志が」っていった前向きな詞を求められることが多いので、そういう気持ちを描いているうちに根暗な自分の中にもついにハッピーな気持ちが生まれ(笑)。それを生かして楽しく書けたのが「Dresser Girl...▽」と「FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!」なのかな、って。
温かい気持ちになるための決意
──ほかの曲の詞についても特に行き詰まることはなかった?
どの曲でも「もう1文字も書けません!」みたいなことにはならなかったですね。ただ「story ~キミへの手紙~」は一回書いた詞を全部書き直してます。私の人生観っていうとちょっと大げさなんですけど、人って1人1冊ずつ白紙の本を持って生まれてきて、そこにずーっと自分の人生を書き綴っていて、最後の瞬間、本を閉じてその表紙にこれまで自分がしてきたことなんかをタイトルとして書き加えるんじゃないかって気がしてるんですよ。そのストーリーをよりよいものにするために、より温かいタイトルを記せるようにするために生きてるんじゃないかって。そういう思いを書いてみたかったんですけど、テーマがテーマだけに最初はうまくまとめられず、プロデューサーさんに見せたときにも「これが今、君が本当に言いたいこと? もっと聴いてくれる人に伝えたいことってあるんじゃない?」と言われてしまい(笑)。
──そうやって一度ブラッシュアップしているからか「story ~キミへの手紙~」の詞って面白いですよね。それこそチョコレートにコロンとポップな世界を歌っていた人が「決める権利は 君の中にある」と歌の文句っぽくない言葉をあえて使うから、より説得力をもって言葉が響くんですよ。
そう聴いてもらえるとうれしいですよね。アルバムを通して温かい気持ちになってはもらいたいんですけど、ただそこにいるだけでは温かい気持ちになれはしない。イビツな世界に対して「違う!」って言ったり、幸せなことや楽しいことを探しに行ったり、温かい気持ちになるためには何かを決断しなきゃいけないと思っているので。でも「決める権利は 君の中にある」。「story ~キミへの手紙~」は「VERTICAL HORIZON」を聴いてくださった皆さんに対する「温かい気持ちを見つけるために何かを決断してみようよ」っていう私のメッセージなんです。
- ニューアルバム「VERTICAL HORIZON」 / 2013年4月10日発売 / GENEON UNIVERSAL
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 3885円 / GNCA-1353
- 通常盤 [CD] / 3150円 / GNCA-1354
CD収録曲
- 生まれ出づる物語
- UNDER / SHAFT
- [Dreamed wolf]
- 十鬼の絆
- VERTICAL HORIZON
- starry×ray
- Dresser Girl...▽
- Distrigger
- 鳴り響いた鼓動の中で、僕は静寂を聴く
- FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!
- Just believe.
- 黎鳴 -reimei-
- story ~キミへの手紙~
初回限定盤Blu-ray収録内容
- SHIBUYA-AXで行われたデビュー2周年記念ワンマンライブの映像
※▽はハートマーク
黒崎真音(くろさきまおん)
アニソンシーンを中心に活躍する女性シンガー。2000年代のアニソンに多大な影響を受け、音楽活動を開始する。2010年にテレビアニメ「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」で全話異なるエンディングテーマを歌唱。これらの楽曲全てを収録したアルバム「H.O.T.D.」でCDデビューを果たす。その後もテレビアニメ「とある魔術の禁書目録II」やOVA「薄桜鬼 雪華録」のエンディングテーマ、映画「リアル鬼ごっこ3」「同4」「同5」の各主題歌、テレビアニメ「薄桜鬼 黎鳴録」オープニングテーマを担当。2012年10月にはアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のオープニングテーマを収録した5thシングル「UNDER / SHAFT」を発売した。2013年4月、2ndアルバム「VERTICAL HORIZON」をリリースする。