目指したものは「ちょうどよさ」

──そして「Magic∞world」「メモリーズ・ラスト」当時の黒崎サウンドと、メタル指向の黒崎さんをつなぐものが「デジタル」だった、と。

そうですね。「[Dreamed wolf]」にしても、デジタル感を取り入れることで、ただメタルメタルしているだけじゃなくて、踊りやすいしノリやすい曲になりましたし。リスナーの皆さんとの距離は縮めつつ、でも妥協のないものになったんじゃないかな、っていう気はしています。なんて言えばいいんだろう。こういう言い方が合っているんだかはわからないんですけど「ちょうどいい」？（笑）

──すごく的確な形容だと思います（笑）。ディレクター的立場のR・O・Nさんにどういうオファーをすると「ちょうどいい」アルバムができあがるものなんですか。

オファーというよりは、話し合いあるのみというか（笑）。今回は私もミックスダウンやトラックダウンに立ち会わせていただいていて。R・O・Nさんとエンジニアさんが作ったトラックを聴いた上で「今のトラックより、さっきのトラックのほうが好みかも」っていうお話や、もっと客観的に「この音のほうがこのアルバムには似合うんじゃないか」っていう意見を言うようにしたんです。で、R・O・Nさんやプロデューサーさんに「いや、こっちでしょ」って言われたら、そこから何度も曲を聴き直しながら、ああでもないこうでもないってやってみたりして。

クロサキ流ディレクションの極意は「話し合い」

──これまでも歌入れのときには当然話し合いをしていたと思うんですけど、楽曲制作時にそういうディスカッションをしたことは？

なかったですね。

──なぜ今作ではやろうと思ったんですか？

やっぱり自分のアルバムですから。あとは2年ちょっと活動してきて少しは音楽のことや現場のことがわかってきたから多少は意見を言えるようになったっていうのも理由のひとつだし、今回参加してくださった作家さんが全員、私にとってはけっこう近くにいる方だったっていうのも理由になってますね。fu_mouさんとは事務所が同じでもちろん面識があったし、井内さんにも以前曲を書いていただいたことがありましたから。なので今回はミックスやトラックダウンはもちろんだし、曲作りの段階から関わらせていただきたいな、って。

──曲作りの段階って？

もう本当に発注の段階から。例えば「FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!」ならライブでみんなで盛り上がれるサウンドにしたい。「story ～キミへの手紙～」はアルバムの最後に入る曲なんだけど、しっとり終わらせるのではない。聴いている人が明日に希望をもてる曲、温かい気持ちになれる曲にしたいって感じで、それぞれの作家さんにお願いさせていただいて。で、実際にデモが上がってきてからも「この音は抜いてもらわない？」「この音はピアノに変えよう」ってお話をさせていただいたり。もちろん私の意見を押し通したわけではないんですけど、R・O・Nさんや作曲家さんやスタッフさんとそういう話し合いをしながら制作を進めていきました。

──一番時間をかけて作ったトラックってどれですか？

「VERTICAL HORIZON」ですね。fu_mouさんに最初にいただいたデモではもっと長くてシンセの音を効かせた壮大な曲だったんですけど、何度もメールでやり取りさせていただきながら、派手めの電子音を生楽器っぽい音に変えたり、尺を短くしたりしてタイトにまとめつつも、リバーブやディレイを深めにかけることで広がりも感じさせる今のバージョンに仕上げていただきました。

──アルバムの中でも特に印象的だったのがその「VERTICAL HORIZON」なんですよ。まずダンスミュージック畑のfu_mouさんがブレイクビーツをループさせながらではあるものの、けっこう直球のギターロックを作っているのが意外で。しかもカッコいいという（笑）。

「バンドアレンジの経験が浅いんですよ」なんておっしゃってはいたし「VERTICAL HORIZON」みたいな曲を書くのは初めてだったらしいんですけど、もともとロックバンドをやっていた方なので。やり取り自体はスムーズでしたね。私自身、そんなに音楽の知識や技術があるわけじゃないので、ちょっと申し訳ないくらいつたない言葉でイメージをお伝えしていたんですけど、それでもすぐに私の意図を理解してくれて。お願いするたび「こんな感じですか？」って、まさに「ちょうどいい」音を作ってきてくれました（笑）。

──黒崎さんとfu_mouさんの両者が納得のできるものが完成するまでには時間がかかったけど、ロックファン同士「ちょうどいい」ロックテイストをちゃんと共有していた、と。

そうですね。