ナタリー PowerPush - 黒崎真音

イビツな世界に見つけた「ちょうどいい」場所

世界はイビツにできている

──そしてもうひとつの疑問っていうのが「なぜそのfu_mouさんのトラックが表題曲なんだろう」っていうことなんです。

なぜって?

──1曲目の「生まれ出づる物語」はオーバーチュアだからまた別だとしても、前半3曲、黒崎さんらしいヘビーでアッパーな曲が続くじゃないですか。そして「さあ次はリード曲だ!」って待ち構えていたら、ミドルテンポで空間系のこの曲が流れてきた。今作の中ではいい意味で異色の1曲ですよね。

黒崎真音

でもアルバム全体のイメージに近かったのがあの曲なんです。曲のアレンジ作業を始める前、作家さんからいただいたデモをバーッと聴いてみたんですけど、fu_mouさんのあの曲が一番「VERTICAL HORIZON」っぽかったというか(笑)。聴いた瞬間、頭の中に自分自身が浜辺に座って海とその向こうのHORIZON、水平線を眺めている景色がすごく浮かんできたんです。

──あっ、レコーディング前からアルバムタイトルや、収録曲を通して伝えたいことは決まっていたんですか。

「大まかに」ではありますけど。

──じゃあfu_mouさんのトラックを表題曲に選ぶ以前の話、アルバムタイトルはなぜ「VERTICAL HORIZON」なのかを伺わないといけないですね。

前回の「Butterfly Effect」は日が昇ってから沈んでいく様子をイメージして作っていたんですけど、今回は日が沈んでからの物語。だんだん太陽が昇ってくるイメージで作りたくて。水平線に太陽が沈んで、また昇ってくるようなアルバム、最終的に聴いた人の心の中にも太陽が昇るような作品にしたいっていう思いがまずあって。ただここで言うHORIZONはVERTICAL、垂直なんです。垂直な水平線ってすごくイビツじゃないですか。そういうイビツな世界、私の目に映っているこの世界にも温かい太陽を昇らせることのできるようなアルバムにしたかったんです。

イビツな世界から抜け出すための新境地

──黒崎さんにとって今の世界はイビツなんですか?

「イビツなところもあるよな」って感じですね。それこそ5曲目の「VERTICAL HORIZON」で「変わらぬ平穏願い 人は慣れていくのだろう」って歌っているように、私自身なんか慣れることに慣れすぎている気がするんですよ。社会で「変わらぬ平穏」を願って普通に生きていくにはルールに従うことも当然必要なんだけど、毎日の生活にまるで疑問を感じないのも、それはそれですごく好きじゃなくて。特にここ数年「あれっ? この場ではこれが普通ってことになってるし、私もそう思ってたけど、なんかヘンじゃない?」って感じることが多々あったので(笑)。

──ありましたか(笑)。でも実際の話、空気を読みすぎちゃうというか「ホントはヘンだと思ってるし、イヤなことがあっても、楯突くのも面倒だしまあいいか」って問題点や疑問点をあえてスルーしちゃうことって誰しもありますよね。

そうやって周りの思惑によって自分が慣らされることって私にとってはイビツなことなんですよ。でも「イビツです」とばかり言っていてもしかたがない。だから4曲目までで、まずそのイビツな世界の姿をハードでダークな曲に乗せて歌って、5曲目の「VERTICAL HORIZON」ではイビツなことに対して私が感じている疑問と「こうあるべきなんじゃないか」っていうメッセージを伝えて。そして6曲目以降は曲が進むごとにだんだんイビツさが消えていって優しい気持ちになれるアルバムに仕上げてみました。

──確かに6曲目の「starry×ray」以降の楽曲ってちょっとだけアレンジがライトになりますよね。しかも「Dresser Girl...▽」(▽は白抜きハートマーク)や「FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!」みたいな、いい意味で聴き手に何も考えさせない楽曲。底抜けに楽しめる曲もあるし。

その2曲はちょっと遊ばせてもらいました(笑)。

──でも単なる遊びじゃない。実は黒崎さんにとってこの2曲って新境地ですよね。

そうなんですよ。去年いろんなライブやフェスで歌わせていただいて「私ってホントにライブが大好きなんだな」っていうことにも改めて気づきまして(笑)。

──アニソンが好きだったことに気づくと同時に。

黒崎真音

ええ(笑)。それで「次にアルバムを作るなら、ライブでもっとみんなが一体になれる曲、ライブの起爆剤になるような曲がほしいな」って思うようになっていたので、今回ちょっとチャレンジしてみました。あともうひとつ、ここ最近、自分自身がすごく変化している気がしていて。というのも「VERTICAL HORIZON」を作る前に改めて「Butterfly Effect」を聴いてみたんですけど、なんかあのアルバムってすごく暗いんですよ!(笑)

──その暗いアルバムを作ったのは黒崎さんですよ!(笑)

全体的にシリアスで聴き終えるとなんか考えさせられるんですよねえ。でも、なんか今の私にはそれってちょっとしっとりしすぎなんです。

ニューアルバム「VERTICAL HORIZON」 / 2013年4月10日発売 / GENEON UNIVERSAL
初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 3885円 / GNCA-1353
通常盤 [CD] / 3150円 / GNCA-1354
CD収録曲
  1. 生まれ出づる物語
  2. UNDER / SHAFT
  3. [Dreamed wolf]
  4. 十鬼の絆
  5. VERTICAL HORIZON
  6. starry×ray
  7. Dresser Girl...▽
  8. Distrigger
  9. 鳴り響いた鼓動の中で、僕は静寂を聴く
  10. FRIDAY MIDNIGHT PARTY!!
  11. Just believe.
  12. 黎鳴 -reimei-
  13. story ~キミへの手紙~
初回限定盤Blu-ray収録内容
  • SHIBUYA-AXで行われたデビュー2周年記念ワンマンライブの映像

※▽はハートマーク

黒崎真音(くろさきまおん)

アニソンシーンを中心に活躍する女性シンガー。2000年代のアニソンに多大な影響を受け、音楽活動を開始する。2010年にテレビアニメ「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」で全話異なるエンディングテーマを歌唱。これらの楽曲全てを収録したアルバム「H.O.T.D.」でCDデビューを果たす。その後もテレビアニメ「とある魔術の禁書目録II」やOVA「薄桜鬼 雪華録」のエンディングテーマ、映画「リアル鬼ごっこ3」「同4」「同5」の各主題歌、テレビアニメ「薄桜鬼 黎鳴録」オープニングテーマを担当。2012年10月にはアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のオープニングテーマを収録した5thシングル「UNDER / SHAFT」を発売した。2013年4月、2ndアルバム「VERTICAL HORIZON」をリリースする。