クミコ with 風街レビュー|“根無し草”の3人が多彩アーティストと作り上げた恋歌

09. 砂時計[作詞:松本隆 / 作曲:つんく♂ / 編曲:冨田恵一]

──9曲目は、先ほども話題に上がりましたが「松本隆 VS つんく♂」という夢の組み合わせが初めて実現した究極のナンバー「砂時計」です。

松本 悲しみ感がハンパない曲だよね。

クミコ アルバムで聴くと「この曲はこのアルバムのためにあったのか」という気がします。このアルバムの本性が現れたと言うか、そんな感じがします。シングルではわからなかった悲しみ感がアルバムを通して聴いていくとわかるという。

松本 「砂時計」そして、最後は「輪廻」ですからね。

冨田 終盤はそうですね。

松本 すごいフィナーレだよ(笑)。

クミコ いろんなことが腑に落ちてしまうという。

──この詞は……?

松本 これは10年くらい前に書いていた未発表詞。寝かしてあった詞に曲を付けてもらったんだ。つんく♂さんは大病を経験され、そこから復活して元気になられたでしょ。ドラマチックな人生を歩んでると思う。彼もTK(小室哲哉)と同じように一世を風靡している。そういう人たちに認められるというのはすごく光栄なことだし、うれしい。まさか、つんく♂さんとやるとは思ってなかったから自分でもビックリなんだけどね(笑)。

10. 輪廻[作詞:松本隆 / 作曲:菊地成孔 / 編曲:冨田恵一]

──さて、ラストを飾るのは菊地成孔さんの「輪廻」です。先ほどからちょいちょい話題に上がっている「問題曲」です(笑)。

松本 菊地成孔さんに関しては、僕から曲をお願いしようと提案したんだ。ダメ元でいいから頼んでみようよって。アルバムの全体像が見えてきたから、あと1曲やるとしたら、僕が一度やってみたい人がいいなって。菊地さんのことは前からずっと気になっていた。本も読んでるしCDも買ってる。ちょっと気難しい感じも僕の好みだし(笑)、クミコとも合うんじゃないかなって、そんな勘が働いた。

クミコ

クミコ 私も菊地さん、大好き。菊地さん「ホントに僕が書いていいんですか?」とおっしゃったみたい。「松本さんがぜひと言ってますよ」と伝えたら、「光栄です!」と。

松本 これは曲が先だったんだけど、菊地さんに「どんな曲がいいんですか?」と聞かれたんだよね。で、「コールポーターみたいな曲がいいな」って。それでこの曲が上がってきた。クミコ、大喜びしたよね。

クミコ 「ついに好みの曲がキターッ!」って(笑)。もちろん、すべての曲が素晴らしいんです。でも「とりわけ私はこういう曲が好きだったんだわ」って改めて認識しました。

冨田 すごくいい曲ですよね。僕も大好きですが、でも「歌うの大変そうだな」と最初に思いました。「大丈夫か?」と(笑)。

クミコ あはははは(笑)。私も思いました、正直。でも冨田さんがすごく上手にアレンジしてくださったので、なんとか凌げました(笑)。

冨田 この曲の歌入れは非常に印象に残っています。1テイク目からクミコさんの本領発揮と言うか。語弊があるかもしれないけれど、クミコさんの歌唱力を一番生かせるのはこういう曲調なんだなって思いましたね。レコーディングでも、クミコさんがこの曲にかける本気な感じをすごく感じました。もちろん、全曲本気には違いませんが。

クミコ 松本さん、どうして「輪廻」という詞が思い浮かんだの? どうしてこういう言葉が出たんだろう。なんかあったんですか?

松本 いや、菊地さんに曲を頼んだ瞬間、「輪廻」だなって。

クミコ え! なんでなんでなんで?

松本 わかんない。直感。意外と僕の中には「デラシネ déraciné」の設計図が最初からあったんだ。だから最後にパズルの1ピースがハマれば完成するなと思ったとき、それはもう菊地さんの曲で「輪廻」しかないなと。ホントにそう思ったんだ。

本当の意味でのポップスが詰まったアルバム

──では最後に。このアルバムはどんなふうに聴いてもらいたい、どんな人々に届いてもらいたいと思っていますか?

クミコ 「歌が好き、ラブソングが好き、ポップスが好き。でも今の音楽では物足りないな。もう少し感情移入ができる音楽がほしいな」そう思ってる人はいっぱいいると思うんです。特に私たちのような世代を中心とした大人たちにはね。「デラシネ déraciné」は、そんな方々の期待に応えられる1枚となったんじゃないかなって思います。とにかく聴いてもらいたい。私、自分の録音物を聴かないほうなんですが、今回はサンプルのときからずっと聴いてるんです。きちんと聴いて、最後にね、「素晴らしい!」って自分で自分に拍手しちゃったの(笑)。

松本 あはははは(笑)。

クミコ 自分で驚いちゃった。まるで他人のCDのように。そういう自分に驚いた。こんな経験生まれて初めてだなって。みんなに感謝してます、はい。

冨田 クミコさんがおっしゃる通りです。このアルバムで聴かれる普遍性みたいなものがポップスの真髄という気がします。そういった意味でも、本当の意味でのポップスが詰まったいいアルバムができたなと。もちろん、松本さんの詞、曲を書いてくださった方々、そしてクミコさんの歌が最高のバランスで組み合わさった結果がこのアルバムですが、ポップスアルバムとして聴いていただければ、いろんな楽しみ方ができるんじゃないかなと思います。

松本 ホント、その通りだと思うよ。

左から松本隆、クミコ、冨田恵一。
クミコ with 風街レビュー「デラシネ déraciné」
2017年9月27日発売 / 日本コロムビア
クミコ with 風街レビュー「デラシネ déraciné」CD

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3000円 / COCP-40092

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クミコ with 風街レビュー「デラシネ déraciné」アナログ

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4320円 / COJA-9328

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収録曲
  1. 不協和音[作詞:松本隆 / 作曲:七尾旅人 / 編曲:冨田恵一]
  2. 消しゴム[作詞:松本隆 / 作曲:吉澤嘉代子 / 編曲:冨田恵一]
  3. フローズン・ダイキリ[作詞:松本隆 / 作曲:横山剣 / 編曲:冨田恵一]
  4. しゃくり泣き[作詞:松本隆 / 作曲:村松崇継 / 編曲:冨田恵一]
  5. さみしいときは恋歌を歌って[作詞:松本隆 / 作曲:秦基博 / 編曲:冨田恵一]
  6. 枝垂桜[作詞:松本隆 / 作曲:亀田誠治 / 編曲:冨田恵一]
  7. セレナーデ[作詞:松本隆 / 作曲:シューベルト / 編曲:冨田恵一]
  8. 恋に落ちる[作詞:松本隆 / 作曲:永積崇 / 編曲:冨田恵一]
  9. 砂時計[作詞:松本隆 / 作曲:つんく♂ / 編曲:冨田恵一]
  10. 輪廻[作詞:松本隆 / 作曲:菊地成孔 / 編曲:冨田恵一]
クミコ with 風街レビュー『デラシネ déraciné』リリース記念 トーク&サイン会

2017年11月2日(木)東京都 二子玉川 蔦屋家電 2F ラウンジスペース
<出演者>
クミコ / 松本隆
スペシャルゲスト:クリス松村

デビュー35周年記念 クミコ・ザ・ベスト・コンサート 1982-2017

2017年11月18日(土)大阪府 森ノ宮ピロティホール

クミコ
クミコ
女性シンガー。1982年にシャンソニエの老舗・銀座「銀巴里」でプロ活動をスタートさせた。2000年に松本隆が手がけたアルバム「AURA」で一気にその名を広める。2010年「INORI~祈り~」がヒットし、同年「第61回NHK紅白歌合戦」に初出演を果たした。2015年9月、つんく♂がプロデュースを手がけた楽曲「うまれてきてくれて ありがとう」をシングルリリース。レコード大賞作曲賞を受賞する。2016年9月、松本隆と16年ぶりにタッグを組み、「クミコ with 風街レビュー」として両A面シングル「さみしいときは恋歌を歌って / 恋に落ちる」を発売。2017年9月にクミコ with 風街レビュー名義のアルバム「デラシネ déraciné」をリリースした。
松本隆(マツモトタカシ)
松本隆
1949年生まれの作詞家。ドラマーとして所属していたはっぴいえんどでは、多くの楽曲の作詞を手がけていた。1972年のバンド解散後は、作詞家として本格始動。太田裕美「木綿のハンカチーフ」、寺尾聰「ルビーの指環」といった数々の名曲の作詞を手がけ「日本レコード大賞」などを受賞する。作詞家生活45周年記念として2015年に開催されたコンサート「風街レジェンド2015」が伝説的なライブとなり、記念アルバム「風街であひませう」はその年の「日本レコード大賞」アルバム賞を受賞した。また同年、昭和から現在まで第一線で日本の音楽史を支えてきた功績が認められ「第66回芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞。2016年、クミコとタッグを組み、新プロジェクト「クミコ with 風街レビュー」を発足。9月に両A面シングル「さみしいときは恋歌を歌って / 恋に落ちる」、2017年9月にアルバム「デラシネ déraciné」をリリースした。
冨田恵一(トミタケイイチ)
冨田恵一
音楽家、プロデューサー。 キリンジ、MISIA、平井堅、中島美嘉、ももいろクローバーZ、矢野顕子、RIP SLYME、椎名 林檎、木村カエラ、bird、清木場俊介、Crystal Kay、AI、BONNIE PINK、畠山美由紀、JUJU、 坂本真綾、篠崎愛、Uru、他数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供する。“アーティストありき”で楽曲制作を行うプロデュース活動に対し、"楽曲ありき" でその楽曲イメージに合うボーカリストをフィーチャリングしていくことを前提として立ち上げたセルフプロジェクト「冨田ラボ」として今までに5枚のアルバムを発売している。自身初の音楽書「ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法-」を2014年7月に発売。2016年度横浜国立大学の入学試験問題には著書一部が採用された。1つの曲が出来ていく工程をオーディエンスの前で披露する「作編曲SHOW」の開催や、世界中から著名アーティストが講師として招かれることで話題のRed Bull Music Academyでのレクチャーなども行いつつ、音楽業界を中心に耳の肥えた音楽ファンに圧倒的な支持を得ている。