空白ごっこ|経験を経てチャンスをつかみ、今こそ花開くとき

空白ごっこが新作音源「開花」を10月20日にリリースした。

本作には今年の元日に配信された「運命開花」や、ユニット初のツアー「全下北沢ツアー」で披露されていた「プレイボタン」、「下北沢カレーフェスティバル2021」のテーマソングである「カレーフェスティバル~パパティア賛歌~」、テレビアニメ「闘神機ジーズフレーム」のオープニングテーマ「天」など計7曲が収録される。音源の発売を記念して、音楽ナタリーでは「全下北沢ツアー」を終えたばかりの空白ごっこにインタビュー。初ライブでもあったツアーを振り返りつつ、数々のタイアップに対してさまざまなアプローチで応えるユニットのソングライティングの制作背景を語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦

初ライブがツアーでよかった

──まずは9月に完結した「全下北沢ツアー」の話を。空白ごっこにとって初のツアーはどうでしたか?

セツコ そもそも空白ごっことして初めてのライブでもあったから、自分がフロントマンとしてステージに立つということに対してものすごくプレッシャーを感じていました。いろんな大人が観に来てるし、お客さんはみんな空白ごっこに期待して来てくれているわけだから、それにちゃんと応えなきゃって。だから最初のほうはガチガチで、ツアーを終えてから振り返ると初日なんかはみんなに忘れてほしいくらい固くなってたかもしれないです(笑)。

──僕はツアーファイナルを観させてもらったんですが、むしろ堂々とステージに立っているようにすら見えました(参照:空白ごっこ、すべて下北沢開催のツアー完結「今やっとスタート地点に立てた」)。

セツコ 繰り返しライブをする中で、ようやく手応えが出てきた感じというか……。最初は緊張してばっかりだったけど、人前で歌うのが楽しいと思えるようになりました。

針原翼 確かにツアーの最初のほうはたどたどしさがあったけど、ライブが失敗したわけでもなく、初日からすごく素敵なライブができていたんですよ。その上で、1回目より2回目、2回目よりも3回目、みたいな感じでどんどんセツコさんが成長できたツアーだったから、そばで観ていてすごく感動しちゃったな。主にライブはバンドメンバーとセツコさんで実施していたから、コンポーザーのkoyoriくんには映像配信で観てもらってたんだけどどうだった?

koyori 最初のライブからすごくよかったですよ。ライブが終わるたびに反省会というか、振り返りを毎回してたんですけど、それがすごくしっかりしていて。セツコさんは自分自身でその日何ができなかったのか、ちゃんと分析できているんですよ。ステージに立って歌いながら客観視できてるのはすごいと思います。

針原 そういう反復ができたから、空白ごっことしての初めてのライブがツアー形式だったことも幸いでした。例えば単発のワンマンを重ねていく方法もあるけど、ライブとライブの間に時間が空いてしまうと、本番で見つけた改善点を試す機会がなくて、よくなかったところがどんどん肥大化していってしまうようなこともある。とにかく次の本番がすぐあるという状態で、回数を重ねられたのは非常に貴重な機会だったと思います。

──ツアーを終えて、直後に追加公演が決まったことには驚きました(参照:空白ごっこ「全下北沢ツアー」の“おかわり”開催)。

針原 実を言うと、ツアーのうちいくつかは新型コロナウイルスの影響で飛んじゃう可能性を考慮していたのが関係しています。下北沢のライブハウスとは協力関係にあったので、ツアーが終わってからもライブハウスを仮押さえという形で押さえてもらっていたんです。結果としてツアーを無事全公演行うことができたんですが、仮押さえとなっていたライブハウスを空けちゃうのももったいないし、僕らで何かできるなら恩返しの意味も込めてライブをやるのが一番いいかなと思って。それにセツコさんがツアーファイナルで「やっとスタート地点に立てた」と言っているのがすごく印象的だったから、ならその一歩を踏み出したあとのライブを観てみたかったんですよね。それと、ツアーでは2日間連続でライブにならないように調整していたんだけど、追加公演は2日間連続で行われるんです(取材はツアーの追加公演開催前に実施)。これは今のセツコさんだったらこれくらいは大丈夫という判断でもあるわけで……。

セツコ なんかいろんな実験をされてる気分になるなあ(笑)。こういうときのハリーさんって、ちょっと挑発的に聞いてくるんですよ。「次は2日連続だけど大丈夫だよね?」みたいに。私はちょっと強気に答えちゃう性格だから、やれるかわからなくてもそう聞かれると「もちろんやれますけど?」みたいに言っちゃうんですよね。

針原 ははは(笑)。でも今のセツコさんなら難なくこなせるよ。

セツコ

空白ごっこの作家は“3本の矢”

──ツアーでは新曲として「プレイボタン」が披露されており、新作「開花」にはこの曲が収録されています。「プレイボタン」はセツコさん自身が作詞作曲を手がけていますが、どのように生まれた曲なんですか?

セツコ この曲は成り立ちがちょっと特殊で、映像と連動して作ることが決まっていたんです。映像と楽曲、どちらもメインになるような作品作りをやってみたいという思いのもとに実現した企画で、楽曲のもとになったのは、映像の監督を務めるシタンダリンダさんが書いたプロットでした。そのプロットが「満たされない」というテーマだったので、それをもとに私が作詞と作曲をして、さらにその曲に合うように脚本を全然内容の違う脚本を新たに書いていただいて……みたいに作品を介した攻め合いのようなやり取りを始めて経験した1曲です。

針原 これまでもセツコさんには曲を書いてもらっていたけど、彼女はコンセプトとかテーマがあったほうが書きやすいタイプだと思うんですよね。それは僕やkoyoriくんのクリエイター気質なところと一緒で、いわゆる作家的な血脈をちゃんと受け継いでくれてるような気がして。

セツコ 自分で自由に考えるよりも、例えば「こういうテーマがあるんですが、何か経験ありませんか?」と聞かれたほうが昔のことを思い出せるタイプなんですよね。コンセプトやテーマが難しいものだとしても、自分の経験とか、昔友達に聞いた話や友達と話していたときの細かい表情の変化とかを思い出してみて、自分の人生の中でそのテーマと重なる部分を見つけ出すんです。架空の主人公になりきるとか、そういう大げさなことはまだできないけど、何か思い出して自分に重なる部分を曲にすることはできるようになりました。

koyori 与えられたテーマの中で表現するのはすごく上手だと思うよ。セツコさんの書き上げた曲を聴いて感じるのは、彼女が思ったことをちゃんと嘘なく書き上げられている感じ。しかもテーマや彼女の思いからそれがはみ出していないから、いい曲が生まれていると思います。今回の「プレイボタン」はもちろん、ほかの曲も同じですね。

セツコ

針原 僕とkoyoriくんは作家的な色合いが強いから、“ソングライターが2人とボーカルのユニット”と思われがちなんですが、僕の感覚では空白ごっこの作家って“3本の矢”なんですよ。もちろん僕とkoyoriくんは曲を書くのが仕事だからその割合は大きいけど、僕は最初からセツコさんの作曲能力をすごく評価していて、活動を続けていけば彼女が曲を書いて歌う割合が増えていくと核心していたんです。今回の「プレイボタン」で若い映像作家と一緒に組んで曲作りができたのも、セツコさん本人にとってものすごく刺激になったと思うし、彼女のポテンシャルをちゃんと引き出せる環境を整えれば、これから先もどんどん曲が生まれていくと思います。

──針原さんがセツコさんの作曲能力を評価したのはいつ頃からだったんですか?

針原 空白ごっこ結成前に、スタジオに集まったときからですね。彼女はもともといろんなクリエイティブに興味があって、その中の1つとして作曲があったんです。すぐやり方を忘れちゃうみたいだけど打ち込みもやっていて、その断片をちょっと聴かせてもらった時点で「これは天才だ!」と思って。

セツコ ハリーさんが言う通り、絵を描いたり動画を自分で作ってみたり、いろんなことに挑戦しているんですが、曲作りに関してはハリーさんやkoyoriさんが作っているから、自分もやってみたほうがいいのかな、と思って。それで作ってみたらハリーさんにめちゃくちゃ褒められるから、いい気になって作り続けてます(笑)。本当は恥ずかしい気持ちもあるんですが、おだてられて伸びるタイプなので……。

針原 全然ヨイショしてる感覚はないんですよ。ちゃんと作品を聴いて、褒めざるを得ないものがあるから。彼女の気分を上げよう、みたいなことは全然思ってないよね、koyoriくんも。

koyori うん。本当にいいものが上がってくるから「いい曲だね」と言ってるだけですから。

セツコ うわあ、なんだかこそばゆいなあ。