空白ごっこが1st CD「A little bit」を10月21日にリリースした。
空白ごっこはボーカリスト・セツコ、ボカロPとしても活躍する針原翼およびkoyoriの3人からなるユニット。2019年12月に「なつ」を動画共有サイトに公開したのを皮切りに音楽活動をスタートさせた。定期的に楽曲を公開し続けているが、ユニットの構成員と楽曲以外の詳細はオフィシャルサイトを含めどこにも明かされていない。
謎多きユニット・空白ごっこの実像に迫るべく、音楽ナタリーではユニット結成のきっかけとなった針原にメールインタビューを実施。空白ごっこ結成の経緯や、ユニット結成のきっかけになったセツコのボーカリストとしての魅力はどういうところにあるのかなどの質問を投げかけてみた。また特集の後半にはセツコ、koyori、編曲担当のEDDYの3人からのコメントを掲載。それぞれのクリエイターが感じる空白ごっこというユニットの魅力を語ってもらった。
取材・文 / 倉嶌孝彦
SNSでのカバーがきっかけ
──空白ごっこというユニットが生まれたきっかけは?
セツコさんがSNSで僕の楽曲をカバーしてくれたことがきっかけですね。SNSやアプリでカバーを公開するのが彼女の周りで流行っていたようなので、おそらく遊びでアップロードしたものだと思うんですよ。でもそれをたまたま作曲者である僕が見つけてしまって、心から感動したんです。誰かにすぐセツコさんの歌声を聴いてほしくて、当時よく一緒に制作をしていたkoyoriくんと、空白ごっこで編曲をお願いしているEDDYくんにすぐ連絡して。僕の曲でなければ出会えなかったと思いますし、歌声で僕らを惹き込んだセツコさんは本当にすごいと思います。
──SNSでセツコさんを発見してから、どういう経緯でユニットが作られたんでしょうか?
すぐにセツコさんに連絡を取って音楽活動にお誘いして、そこから数カ月くらいはいろんな曲のカバーを歌ってもらいました。僕の歌だけじゃなくて、koyoriくんの曲をどう歌うのかも聴いてみたかったし、僕らが所属するクリエイターチーム・ELSの曲とか、あとはRADWIMPSや椎名林檎の曲も。この時期はセツコさんの自宅で収録してもらったり、スタジオで一緒に録ったりして、セツコさんの歌の魅力を研究していた期間でもあると思います。
──セツコさんのボーカリストとしての魅力はどういうところにあると感じていますか?
それはもうすべてと言いたいところですが、まず声の音色そのものが素晴らしいと思います。それに彼女の歌唱力や表現力として、強弱の揺らぎが最高にカッコいいです。あとはブレス。これは無理をして出せるものではないですが、息遣いまで音楽的な表現の一部になるのはまさに天才的だと思います。
何もないように見えて何かある=空白
──空白ごっこの楽曲制作は針原さんとkoyoriさんの2人が主に担当していますが、koyoriさんがユニットに参加した経緯は?
1年半くらい前に下北沢のライブハウスでkoyoriくんとセツコさんの2人に弾き語りのライブをしてもらったんです。2曲くらいの軽い感じのセッションだったんですが、僕は2人の相性に期待していたんです。このときはまだ空白ごっこの「く」の字もないときで、どういう形で活動をしようか模索していた時期でもあったので、ライブでの相性を見てkoyoriくんには絶対参加してもらおうと心に決めました。
──このユニットにおいて針原さんはどのような役割を担っているんでしょうか?
僕は楽曲制作とレコーディング全般を担っていますが、前述の始まり方もあって、僕がセツコさんとkoyoriくんの中間にいることが多いかもしれません。それと自分で言うのも変かもしれませんが、僕は歌に関するこだわりがとても強くて、セツコさんのボーカルレコーディングをする際には必ずディレクションをさせてもらっています。僕がいなくてもセツコさんの歌は素晴らしいので、その必要性の是非は置いといてください(笑)。
──おそらく針原さんはプロデューサーとしての立ち位置も担っていると思いますが、空白ごっこでの曲作りで意識していることはなんですか?
まず重要視しているのは「楽曲を第一にする」ということ。それに加えて、この空白ごっこというプロジェクトで意識していることは2つあって、1つはセツコさんの歌を最高にカッコいい形で知ってもらうことですね。もう1つは音楽的なワクワクやドキドキを提供し続けて、空白ごっこの新曲が待ち遠しいと思ってもらうこと。そう思ってもらえるためには僕ら自身が楽しんで制作することが大切だと考えていて、その精神は「空白ごっこ」というユニット名にも表れているのかもしれません。
──ユニット名にはどんな意味が込められているんですか?
「空白」という言葉はセツコさんがメンバーに持ってきた言葉で、何もないように見えて何かあるという意味で使っています。「ごっこ」は文字通り、ごっこ遊びから来ています。目には見えない精神的な世界をいろいろな観点から見つめてみたい、そんな気持ちを音楽で表現したいと思って、この名前を付けました。
創作のいい部分が詰まったユニット
──新作「A little bit」は、どのようなテーマを設けてまとめた作品ですか?
僕なりの考えですが、空白ごっこ最初の音源ということもあり、聴いてくれる皆さんに見つけてもらえて、空白ごっこの音楽を楽しんでもらえる作品にしたいと思いました。メンバー全員が作り出す音楽を聴いていると“それぞれの感情から湧いて出たもの”をすごく感じるんです。なので僕はみんなのやりたいことを取りこぼさないようにパッケージしようと意識していました。
──空白ごっこには、針原さんが作る曲とkoyoriさんが作る曲がありますが、曲作りの際にお互いで何か相談をしているんでしょうか?
お互いにコミュニケーションは取っていますが、これから作る曲に関して相談するようなことはあまりないんですよね。koyoriくんはフックの効いたエキゾチックな楽曲が魅力的なのでそういう要素の曲は彼に任せつつ、僕はストレートにカッコいい曲を作るように意識しているくらい。お互いが曲を出し合ったあとにセツコさんを含めてみんなで話すことのほうが多いかな。
──曲によってはセツコさんが詞を書いていますが、彼女が書く詞についてどう感じていますか?
言葉使いも音符に乗せたときの響きも、すべてが感動の連続ですね。あまりにもよすぎてため息が出ます。例えばの話ですが、僕はセツコさんが作詞家になっても大成すると思います。実は空白ごっことは別のプロジェクトで、セツコさんに作詞をお願いしているんです。そういう別の現場でも、セツコさんの才能が遺憾なく発揮されてほしいとも思っています。
──空白ごっこの音楽を作るうえでこだわっていることは?
メンバー全員が自由に楽しんで音楽を作っていることですね。そもそも音楽的センスに長けたセツコさん、koyoriくん、EDDYくんが集まっているわけですから、自由に楽しくそれぞれがやってくれれば僕は十分です。
──針原さんにとって、空白ごっこというユニットでの創作活動はどんな位置付けのものですか?
創作のいい部分が詰まっていると思います。僕自身、とてもアグレッシブなものが作れている感覚があって、空白ごっこでの活動はそういう曲を書きたい気持ちにさせるんですよね。素晴らしいメンバーがいて、制作の環境も作品をリリースできる状況も、より整いつつあって、まず創作活動がしやすいです。このメンバーでやっていると、いい曲が書けそうな気がするんですよ(笑)。創作活動において大事なことを改めて気付かされているというか、直に教わっているというか。いろんな音楽制作に携わらせていただいている中で実務的な制作も多くなっても、空白ごっこで味わっている創作の醍醐味を常に忘れず音楽を続けていきたいと思っています。
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ユニットを形作る3人への質問
「あなたにとって空白ごっことは?」